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「シャーミィちゃん、今日落ち着きがないわね。折角制御が出来るようになっているのに、ちょっと魔力が漏れかかっているわ。何かあったの?」

「もう少し落ち着け。お前が落ち着きがないと、こっちが落ち着かない」





 ククとロドンにそんな言葉をかけられて、シャーミィははっとなる。




 今日は接客の仕事はお休みなので、シャーミィは真っ直ぐにククとロドンの元へ来ていた。

 マサルが街の外に出かけにいってしまったというのもあり、一人でいるのが落ち着かなかったからというのもあっただろう。



 シャーミィはククとロドンの家にやってきてから、見た限り、シャーミィは落ち着きがなく、少し魔力が漏れていた。

 その様子が普段通りとは言えなかったので、二人は苦笑して話しかけている。





「マサルが出かけてるから」

「マサルって、シャーミィちゃんと一緒に居る男の子?」

「シャーミィ、一緒に行かなかったのか?」

「一緒に行きたかったけど、置いていかれた」




 シャーミィはククとロドンの言葉に答えながらも、椅子に座り、足をぶらぶらさせている。

 落ち着かない様子を見せるシャーミィは、やっぱり魔物らしくない。父親に置いて行かれた子供のように見える。




 今日もククとロドンは、シャーミィに色々教えようとしていたのだが、今日のシャーミィは落ち着きがないのでただ会話を交わすことにした。




「おいていかれたからって剥れてんのか? やっぱりシャーミィは魔物らしくないな。これが災厄の魔物だなんて誰も信じられないだろう。お前、何歳なんだ?」

「《デスタイラント》としては、三百年ぐらい」

「……もう立派な大人じゃねぇか。ならもっと落ち着けよ」




 三百歳を超えていると口にされて、ロドンは呆れた様子でそう告げる。三百歳を超えていることを知ると、余計にシャーミィが人ではないことをロドンは実感した。





 シャーミィは見た目だけならば、何処までも愛らしい少女だ。日本人らしく背が低く、無邪気で、童顔。足をぶらぶらさせてむくれている姿は、ただ置いていかれて不機嫌になっているだけの少女にしか見えない。



 ――でも彼女は真実、《デスタイラント》という魔物である。




「シャーミィちゃん、何か楽しい事をしない? シャーミィちゃんが気晴らしが出来るようなこと。シャーミィちゃんは何をしたい?



 落ち込んでいるシャーミィよりも、笑みを浮かべているシャーミィを見たいと願ったククの言葉に、



「美味しいもの食べたい」



 と、シャーミィは迷わず答えた。





 それから、シャーミィはククとロドンに連れられて、街で美味しいものを食べに向かうのだった。

 最初はククが料理をしようかと申し出ていたが、ククは料理がそこまで得意ではない。それをロドンに指摘されて、外に食べに行くことになった。



 シャーミィはまだまだこの街で、食事処を制覇しているわけではなく、まだまだ食べた事がないものが沢山ある。だからこうして外食が出来るかと思うと、楽しみになっていた。





「シャーミィちゃん、奢ってあげるから好きなもの食べていいわよ。あ、でも手加減はしてね? 貴方が完全に満足するほど食べさせたら破産しちゃうわ」




 なんでも食べていい――そう口にしてからククはハッとなったように告げる。

 シャーミィが《デスタイラント》であるということを思い出したからであろうか。流石にシャーミィもククが破産するほど食べつくすつもりはない。



 安心させるようにシャーミィが笑う。




「大丈夫。そこまでは食べない」

「シャーミィちゃんって、観察していた時も暴食って感じじゃないわよね。そんなに食べなくても平気なの?」

「お腹いっぱいにはならないけど、空腹にならないぐらい食べれば大丈夫。でも何も気にしないでいいなら、幾らでも食べれる」

「へぇ、そうなのね。やっぱりシャーミィちゃんがそういう子で良かったわ」




 ククはにこにこと笑いながら、シャーミィの手を引いて、食事処へと歩く。その隣をロドンは呆れた様子で歩いていた。



 食事処に辿り着いてからは、シャーミィはにこにことしながら食事を取るのであった。シャーミィが頼んだのは、野菜を煮込んだものである。野菜の甘みが広がって、シャーミィは幸せな気持ちになっていた。




 穏やかに三人の時間は過ぎていく。――そして、食事を取って、家へと戻ろうとする頃、街が騒がしくなった。





 シャーミィは特に気にしていなかった。別に街が騒がしかろうと何も関係がないと思っていた。



 だけど、次の言葉にシャーミィは正気でいられなかった。




「オークの集落が近くに出来てる! こっちに迫ってきているらしいんだ」




 叫ぶように告げられた言葉は、魔物の襲撃の話であった。







 オークという魔物の怖さをシャーミィは知らない。けれど、声をあげる人が青ざめ、その報告を聞いたものが青ざめるだけの脅威であることは分かった。

 そして、マサルはまだ街に帰ってきていない。オークの集落は、マサルが向かった森の中にあった。




「シャーミィちゃん⁉」

「シャーミィ⁉」



 そしてシャーミィは居ても経ってもいられなくて、駆け出した。

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