9


「うわぁああああああああああ」

「やばい、なんだ、あの数!」




 シャーミィとマサルのいるシェッドの街から少し離れた森の中。そこには二メートルほどの木々が、地上を埋め尽くしている。緑の楽園――そう呼ばれるような、美しい森。




 その場所には、多くの魔物が住んでいる。

 騒がしい音がする。

 この場所は、本来はそこまで騒がしくはない。魔物が生息しているものの、それは街の人々が対処できる程度である。

 だけど、今のその森はそうではなかった。






 鎧に身を纏った男たちが、何かから逃げ回っている。

 彼らはシェッドの街を拠点としている冒険者である。叫び声をあげ、逃げ回る彼ら。




 足は既に疲弊している。もう既に彼らの体は限界だ。

 それでも逃げなければならない。

 その命を守るために、生き延びるために。




(なんとか逃げて、街にこの危険を伝えないと――)



 そう願う。なんとか逃げ切らなければと。そして街に何とか伝えないと。

 ――だけど、そんな願いは儚く散る。




 なず、一人が、脱落する。こん棒のようなもので殴られ、されるがままになった男は、そのまま彼らを追っていた魔物にとらわれる。



 一人、二人――と、逃げるものはいなくなる。最後の一人が、なんとか街へ向かっていこうとするが、それもかなわなかった。


 ゴンッという大きな音と共に、彼の意識は失われた。






 ――豚のような顔をした、人よりも大きな体を持つ魔物。オークと呼ばれる存在が、街の方を見つめていた。







 *





「なぁ、シャーミィ。俺は外に食材を探しに行こうと思うんだ」

「外に? 街の外って危険じゃなか?」



 

 マサルは、この街の中で食材探しに勤しんでいた。




 ある程度街の中を見て回った後、街の外に――もしかしたらほしい食材があるのではないかと思ったのだ。異世界では食材として認識をされていないが、それでも地球では慣れ親しんだ食べ物があるのではないか。


 マサルはそれを感じてしまった。


 この異世界と地球では色んなものが異なっている。だから、マサルは街の外に食材を探したいと思った。それに街の外で食材を手に入れられた方がお金の節約にもなる。


 だからこそマサルは宿の部屋で、シャーミィに告げた。

 マサルの言葉にシャーミィは心配そうな顔をしている。



「ちゃんと冒険者を雇っていくから大丈夫だ」

「雇う金あっと? 私がついて行った方がよくなか?」

「大丈夫だ。お金はちゃんと溜めていたし、シャーミィはやるこがあるだろう?」

「でも……」

「大丈夫だって。俺はどうにでもするから。俺はチート能力持っているしな」




 そうは言われてもシャーミィはマサルの事を心配そうに見据えている。もし、マサルが危険な目にあったらと不安だったのだ。自分が傍に居ればどうする事も出来る。マサルを危険から遠ざけることも出来る。


 けれど傍にいなければ、人というのは簡単に死ぬことが分かるから。




 だけどマサルはシャーミィに頼らずにきちんとやりたかった。そうすることで、シャーミィが自分に過去を語ってくれるのではないかと期待して。

 そのマサルの決意を知って、シャーミィは仕方なくうなずく。





「……マサル、雇う冒険者には会わせて」




 冒険者の中にはもしかしたらマサルに対してよからぬことをする存在がいるかもしれない。人は善人ばかりではない。

 シャーミィはマサルを預けるのならば、自分が認めた冒険者ではなければ……と目を細めていた。





「あ、ああ」





 何故だか鋭い瞳を浮かべてそういうシャーミィにマサルはたじろぐものの頷くのであった。










(……な、なに、この子、怖い)

(滅茶苦茶睨まれている……)






 そういうわけでマサルの護衛として選ばれた冒険者二人とシャーミィは会っていた。

 シャーミィは鋭い目でその冒険者二人の事を見据えている。災難なのはこの雇われた二人である。






 料理人の護衛という依頼を受けたかと思えば、少女に思いっきり睨まれる――それも実際は《デスタイラント》という強大な力を持つ魔物にである。

 ククの元で魔力制御を学んだシャーミィは、二人にだけ魔力で威圧することぐらい簡単なことであった。





「マサルに何かあったら許さない。絶対守ってね」

「は、はい」

「わ、分かった」





 冒険者二人は、シャーミィに威圧されて、頷くのであった。ちなみにそういう威圧を向けられていないマサルは何で二人が怯えているのかさっぱり分からなかった。


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