5
シャーミィはその日、ご機嫌な様子を見せていた。それはマサルが美味しい豆料理を作って売れると約束してくれたからである。
嬉しそうな顔でにこにこしているシャーミィを見て、周りを嬉しそうに笑っている。
シャーミィは、土の中で長い間過ごしてきたというのもあり、美味しいものを食べることが何よりも好きだ。長い間、食べられなかった分、沢山美味しい食事を食べようとそんな風に決意している。
シャーミィはマサルの作る、故郷の日本を感じられる食事が好きだ。記憶は薄れていても、シャーミィは自分が日本人だったことを覚えている。そして自分が日本人だという感覚が強く残っている。だから日本を感じられるマサルの食事が大好きなのだ。
「おいしい、料理。食べさせる」
シャーミィは、市場で出会った子供たちに対して、「豆料理が食べれる」ということを報告した。子供たちはそれに喜んだものだ。
とはいえ、マサルもすぐに豆料理を用意できるわけではないので、豆料理パーティーが行われるのは数日後である。
急に決まった事なのに数日で準備が出来るマサルはよっぽど料理が好きなことがうかがえる。
ちなみに子供達に話をしたら大人たちも豆料理パーティーを気にしていた。そのため、大人たちにも豆料理をふるまっていいかシャーミィはマサルに聞こうと思っている。
この街にどのくらいの期間、滞在するかはまだ定かではない。しかし、お金というものは幾らあっても問題はない。そんなわけでシャーミィもこの街で仕事を探している。
ちょうど市場で売り子を探していたので、接客業をすることになった。シャーミィは人懐っこい笑みを浮かべているので、接客業はぴったりである。
明日から今日から働くことになっているので、一生懸命働こうと気合を入れる。
(それにしてもこの街の人たちはよか人がおおかね。もしかしたらわるか人もおっかもしれんけど、今んとこよかわ)
そんな風に考えてシャーミィはご機嫌であった。
「シャーミィちゃん、今日はよろしくね」
「頑張る」
シャーミィは市場の女性に問いかけられて、気合を入れて返事をする。
ちなみに豆料理に興味を持っていた子供たちの中にも市場の手伝いをしている子供たちもいる。なので、一緒にがんばるのだ。
――そしてその後にマサルの作った美味しい豆料理が待っているのだ。そう思うとシャーミィもやる気が増していた。
いうなればシャーミィの
「いらっしゃいませー」
「おいしいですよー」
シャーミィはそういう言葉を口にしながら、客引きをする。
ちなみに、勤務中にもシャーミィは市場の食べ物を与えられたりしていた。それを食べて「おいしかー」と幸せそうな顔をするシャーミィは、良い客引きである。
その美味しそうな、幸せそうな表情に道行く人は足を止めて、興味を抱くのだ。
シャーミィは食べることが大好きなので、その表情はびっくりするぐらい良い顔をしている。
シャーミィは美味しいもの分けてもらえたと食べたら、お客さんがどんどんくるのでちょっと驚いていた。
市場の者達も、シャーミィが美味しそうな笑みを浮かべて食べるのを見て、心が和んでいた。
結局、市場での仕事を終えた時にもシャーミィは色々ともらった。季節の旬の果物などを両手いっぱいにもらう。
お金を払っていないのにこんなにもらっていいのだろうかと思ったものの、「いいんだよ」と言われてもらってしまったのである。
シャーミィは色々ともらえて、ご機嫌になった。
そう言ってシャーミィがホテルへと戻ろうとしている中で、「おい、お前」と声をかけられた。
丁度、シャーミィは近道をしようと街の裏通りを移動していた。この街をぶらぶらしていて見つけた近道である。ちなみにこの近道、中々人通りが少ないので、女子供が進んでいくような場所ではない。
とはいえ、幾ら見た目がかわいらしくても魔物であるシャーミィにとってそういう人の世界での常識は通用しない。
「なん?」
シャーミィはこちらを見ている男たちを見て、不機嫌そうだ。彼らはシャーミィをなめまわすように見ていた。
「――いいもの持っているな。それよこせ」
「いや、お前ごときてもらおうか」
「可愛い顔しているな」
……どうやらシャーミィはカツアゲを受けているらしい。ついでにナンパもされているようだ。
シャーミィはカツアゲとナンパをされていると自覚すると、不機嫌そうな表情を浮かべる。
(カツアゲとナンパをされるとか、ついとらん。こいつらどがんしよ? 流石に盗賊たちと違って殺すわけにもいかんし)
シャーミィにとって、彼らのことをどうにでも出来る。とはいえ、先日遭遇した盗賊たちは殺しても問題がなかったが、こんな街中で相手を殺すわけにはいかない。どんな風に対応をするのが一番良いだろうかと、両手いっぱいに荷物を抱えたまま思案したように無言になる。
シャーミィが黙ったのを怯えと取ったのか、男達はシャーミィをどうにでも出来ると思ったのか、ニヤニヤしながらシャーミィに近づいていく。
シャーミィは、手を伸ばしてきたその手を足で蹴り飛ばした。その衝撃で男は怯む。
自分の自由になると思い込んでいた彼らは、シャーミィに蹴り飛ばされるなんて思っていなかったのだろう。驚きに目を見開いた。
その隙をシャーミィが見逃すわけがない。
シャーミィはそのまま追撃して、足だけで男たちを伸してしまった。魔物であるが故の凄まじい身体能力である。
そうしているうちに、騒ぎに気付いたらしく、表通りから人々が顔を出す。
「どうしたんだい?」
「これは?」
シャーミィは一旦荷物を脇において、テキパキと男たちを気絶させていた。不機嫌そうな顔をしていたシャーミィは彼らに気づいて、「誘われた。無理やり、連れてこうとした。倒した」と簡潔に告げた。
「そ、そうなのか。これは君が?」
「ん。私がやった。無理やり駄目!」
「そ、そうだな」
そう告げながら、兵士の男は理解出来ないといった様子だ。恐怖さえもそこには映っている気がする。
シャーミィはそれを理解して、しまったといった表情になる。
シャーミィは、今まで人前で自分の力をこんな風に見せつけたことはなかった。力の強さは見せていたものの、人に対して力を使ったのを見せるのは初めてだった。
――シャーミィのような見た目は愛らしい少女が大の男をこんなに簡単にどうにか出来てしまうというのは、大の男がやらかすよりも恐怖を感じさせるものである。
(私がこんだけやっただけでもおびえっとね。そうやったら私の本当の姿みせーとどがんなっとか。マサルもやっぱおびえったいね。やったら、みせんほうがよかよね。怖がられたら嫌やもん。そがんなったら悲しかし)
そんなことを考えてシャーミィは悲しい気持ちになってしまう。先ほどまで元気そうな表情を浮かべていた少女が、急にしょんぼりとした顔になったので、兵士の男は慌てた。
「すまない! とりあえずこいつらは詰め所に連れて行こう。君に怪我がなさそうでよかった」
「……うん。怪我、なか。帰る」
兵士は慌てて笑みを浮かべるが、少しだけその笑みが引きつっているのをシャーミィは理解している。
結局シャーミィは暗い顔のまま、荷物を抱えてその場を去るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます