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「……そんなに買い込んでどうしたんだ?」
マサルは宿に戻り、驚いたような表情を浮かべた。
その狭い宿屋の一室でじゃ何種類もの豆が入った袋が、散乱していた。大豆を探しに行くと言っていたシャーミィが何故、こんなに多くの種類の豆を買ってきたのだろうかとマサルは不思議だった。
こんなに多くのものを買ってくるなどと思っていなかったのだ。
部屋に戻ると、ベッドの上で満足したような顔をしながらマサルを待っていたシャーミィ。そして豆類が沢山転がっているのを見て、マサルは唖然としたのだ。
シャーミィはマサルを見かけると、嬉しそうに目を輝かせる。その様子に思わずマサルは笑ってしまう。
「マサル、大豆欲しいっていいよったい。私も醤油ほしかけん、豆かってきたんよ。でも私大豆がどれかわからんけん、色々かってきたんよ。こんなかに大豆ある?」
「……あー。ちょっと待て」
マサルはそう言いながら、豆を確認していく。
袋を開けて、それがどの豆なのだろうかとマサルは確認していく。
(あずきに似たものとか、ひよこ豆とか……あと全然知らない豆もあるか。色々試してみる必要があるか。って、これは……)
シャーミィは足をぶらぶらさせながら、マサルが豆を検分しているところを見つめている。
シャーミィには豆の種類が分からないので、マサルが見たらすぐにわかるのが凄いなとそんな気持ちになってしまう。
魔物であるシャーミィは強さや生きている長さはマサルよりも上かもしれないが、そういう知識は全くない。
そんな中で、しばらくしてマサルが「はっ」と声をあげてシャーミィを見る。
「シャーミィ! 大豆あるぞ!」
「ほんと⁉ 嬉しか!」
大豆があると言われて、嬉しそうに声をあげるシャーミィ。ベッドの上に立ち上がり、「やったぁああ」と声をあげる。そしてベッドから飛び降りると、マサルに駆け寄る。
そして褒めてほめてとでもいう風に、マサルの周りをうろうろする。
マサルはその子供っぽい仕草に何とも言えない気持ちになりながらも、頭を撫でるのだった。頭を撫でられてシャーミィははっとなる。
「私は子供じゃなか!」
「いや、だって褒めてほしそうにしてたじゃないか」
「そがんことなか! あ、そうだ、マサル、豆料理ふるまうとかできる?」
「なんだ、それは?」
「豆さがしとった時に、子供らにあったんよ。そこで豆料理はおいしくないみたいにいいよったと。でもマサルなら豆料理でもおいしくつくれっやろ?」
シャーミィはマサルならば美味しいものを作れるはずだと、そんな風に信じ切った目でマサルの事を見上げる。
キラキラした目で、マサルならば何でもおいしくする! と信頼しきっている。それを見ると、否などとはマサルも言えない。
それにマサルとしても、料理人としてのプライドもある。どんなものでも美味しく作れるというプライドが。
(シャーミィが、俺を信頼して、俺なら出来ると思ってそう言う言葉をかけてくれている。なら、俺はそれに答えない)
信頼されるということは嬉しいことだ。
その信頼を受ければ、それに答えたいと思うのが当然のことである。
だから、マサルは言う。
「――別にいいぞ」
「ありがと! じゃあ、あの子らに食べさせる! 言っとく! 私もマサルの作る料理楽しみにしとーよ!」
シャーミィは自分が買ってきた豆でマサルが美味しいものを作ってくれるというのが嬉しくて仕方がない様子である。
マサルはそんなシャーミィを見ながら仕方がないなぁという気持ちになる。これだけ自分の食事を楽しみにしてくれている人がいるということは幸せなことだ。これだけマサルの料理を食べたいと全身で表現されると、断ろうという気持ちは皆無になっていく。
(豆料理か、何が出来るだろうか。醤油も作らなきゃだけど……すぐだと醤油は無理だから一先ず他のものを作るか)
そしてすっかりその気になったマサルは、どんな豆料理をふるまおうかと思考し始めるのであった。
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