さて、ガーヒアの街にたどり着いたからのマサルとシャーミィの日々を語ろうか。



 マサルは新たな食材を求めて、街を見て回っている。異世界の言語が通じる能力をもらっているマサルは、意気揚々と食材を見て回っている。商業ギルドにも顔を出し、金銭を稼ごうとしていた。



 このガーヒアの街に滞在する間に、場所を借りて料理を売ることをしたいと思っているのだ。




 しかし、そのためには商業ギルドのランクを上げる必要があるのだという。そんなわけでまず第一歩としてガーヒアの街にあるレストランでマサルは働くことになった。



 要するに現代日本でいうアルバイトのようなものである。商業ギルドの一員としてレストランに働きにきているので、此処で不真面目に行えば、ギルド員を除名されることもあり得るのだ。


 そういうでマサルはせっせと仕事に励んでいた。




(異世界でまでアルバイトのようなことをするとは思わなかったけど、これも仕方ないか)




 マサルはそんなことを考えながら皿洗いをしている。皿洗い一つも地球と比べては重労働である。蛇口をひねれば、綺麗な水が流れるというものではない。

 マサルは皿洗いという業務でも疲労を感じていた。



 料理を学べるようになるのは、皿洗いなどの裏方業務をある程度経験してからということだ。客に出す料理を最初から作らせてもらえることはないらしい。やはりこういう場所では上下関係というのが強いのだ。



 ただ実際に料理を作って認められれば作らせてもらえたりするようである。そんなわけでマサルも機会があれば自分の料理の腕を見てもらおうと思っている。



 異世界に来てまでアルバイトのようなことを行うということは人によっては、何で俺がと思うようなことだろうが、マサルとしてみればそんな風には思っていない。

 チートのような能力をもらっているとはいえ、マサルは英雄になりたいわけではなく、ただこの世界でも料理を作っていきたいだけなのだから。


(料理を作れるようになって、美味しいと笑ってもらいたい)


 そんな願望があるからこそ、マサルは頑張れるのだ。




 同じレストランで働いているメンバーの中では、料理を作らせてもらえないのならと言ってやめる人も多いらしい。ちなみにこのレストランは有名なレストランであるが、中々根気がいると有名なようだ。



 最初から料理を作らせてほしいのならば、他のレストランに入る道も選べる。ただマサルとしてみれば、きちんとした所でこの世界の料理を学んでいきたいと思っているので商業ギルドから提示されたいくつかの店舗の中からここを選んだのである。



「マサルと言ったか。真面目にやっているようだな」



 マサルは黙々と与えられた仕事をこなしていた。皿洗いがつまらないと口にするメンバーの中で黙々とやっていたマサルは料理長の目についたらしい。そんな風に声をかけられてマサルは嬉しくなった。



 特に商業ギルドの紹介で働くことになったメンバーは、すぐに料理を作りたい! と皿洗いなどを嫌がる者が多かったらしいとマサルはそのあと周りから聞いた。それもあってマサルは特に真面目にやっていると好印象を持たれたようだ。

 マサルはそんな風に不真面目にやっていた面々に感謝したい気持ちにさえなった。彼らが真面目にやらなかったからこそ、マサルが当たり前なことをやっているだけで評価が上がるのだ。



(このまま好印象のままならば、料理も作らせてもらえるようになるだろうか)



 マサルがそんな期待をするのも当然と言えば当然であった。



 もっと真面目にレストランの業務をこなし、どうか自分の料理を食べてもらうぞ! と決意をするマサルである。



 別行動をしているシャーミィのことが気にならないわけではないが、マサルは良くも悪くもやると決めた一つの事に全力で取り組む性質である。レストランの業務に熱中している間は、シャーミィのことを気に掛ける暇もないのである。



 レストランの業務を行うことに必死だったので、シャーミィがどんなふうに日々を過ごしているか考えることもない。



 宿に戻ってきた頃には、すっかりマサルは毎日疲れ切っていた。



「マサル、疲れとーね」

「ああ」



 労働をして良い感じに疲労を感じているマサルは夕飯を食べて、体を洗ったあとはすぐに夢の世界に飛び立ってしまうものであった。



「マサルは頑張っとるとね……私もがんばらんと」



 シャーミィはマサルの寝顔を見つめて、そんな風に決意するのであった。

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