第8話 散歩
帰宅部であるボクは、バイトの入っていない放課後というものは基本暇な時間である。だからその時間はノンビリと散歩をして過ごすことも多い。
え? 勉強しろって? ごめんちょっと何言ってるのかわからない。
「いやぁ、気持ちのいい天気だねえ。こんな日はノンビリ散歩するに限るよ」
本日は快晴なり。
「ねえねえ、君可愛いね! 俺らとお茶しない?」
おっと、ボクの可愛らしさに釣られた馬鹿がきやがったぜ。
「ごめん、ボクはイケメンと美女以外は興味無いんだ。君は完全にボクの好みの対象外だから早々に消えてくれるかな?」
普段ならこのナンパ男をいじって遊ぶんだけど、今日はそんな気分じゃないしね。こういう手合いはきっぱり拒絶してやった方がいいのさ。
ボクの反応が予想外にキツイものだったせいか、ナンパ男はポカンと口を開けている。
まあ、ボクの見た目からはこんな言葉が出てくるなんて思わないだろうしね。でも綺麗な花には棘があるものだよ? 勉強になったね。
呆けている男を放置してボクは散歩を続ける。
ボクの目の前を一匹の蝶がひらひらと通り過ぎて行った。へえ、こんな都会にもあんなに綺麗な蝶がいるものだね。
ボクは何気なく視線で蝶を追いかけていく。
ドンッ!
「あ、すいません」
よそ見をしていたらボクの肩が誰かに当たってしまったようだ。
「なんだコラァ! 痛てえじゃねえかぁ!」
うっわ、もの凄くガラの悪い奴とぶつかっちゃったな。
「あー、腕が痛てえなぁ。コレは折れてるかもなぁ」
いやいや、折れる訳ないだろ。この程度で折れる腕ならばむしろ風吹いても折れるわ。
「すいませんね」
「ああん? こっちは腕が折れてんだよ、すいませんで済むか」
「すまんでおじゃる」
「言い方じゃねえよ!」
なんだろう、この人から小物臭がするよ。
「ほら、許して欲しかったら誠意見せてみろよ誠意をよ」
「カキカキ……はいどうぞ」
「なに人の手に油性マジックで誠意って書いてんだよ! そういう事じゃねえんだよ、金よこせ金を!」
「しょうがないなぁ」
財布から十円玉を取り出して地面に放るボク。
「拾え愚民」
「ふざけてんのかテメエ!」
「ちょっと近寄らないでくれます? 感染るんで」
「感染るってなんだよ!」
「いや、まじで近寄らないで臭いから」
「臭くねえよ! 体臭には人一倍気を使ってる綺麗好きだよ俺は!」
「それじゃそういうことで」
「ちょ、待てよテメエ! 速っ、コイツ逃げ足めっちゃ速いんだけど!」
ふふふ、三十六計逃げるに如かずだよワトソン君。
超高速でその場を離れたボク。しかし、久々に全力で走ったら小腹がすいてきた。ボクはキョロキョロと辺りを見回した。
「あ、発見♪」
ボクの視線の先に有名ハンバーガーのチェーン店。今日のおやつはハンバーガーにしよう。
◇
「いらっしゃいませ!」
自動ドアを通り抜けると、なかなか可愛い店員のいらっしゃいませの声。店内は存外すいているようだ。
ボクは財布の中を覗き込んで、頼むハンバーガーを決める。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「チーズバーガーを二十個下さいな」
あれ? 店員さんの顔が引きつってるけど……どうしたんだろ?
「お、お持ち帰りですか?」
「いえ、店内で食べます」
何故か絶句されたけどまあいいか。ボクは番号札をもらって適当な席に着く。
二十個だと少し時間がかかるかもしれないな、ボクはそう考えるとスマホを取り出して適当に時間をつぶすことにした。
「あれ、石堂先輩?」
聞き覚えのある声が前方からかけられた。ボクはスマホから顔を上げて声の主を確認する。
「ん? 沢井くんじゃない。どうしたの今日は部活サボり?」
そこには一年生のイケメン、沢井くんが居た。周りに友だちらしい人も見当たらないので一人で来たのだろう。ボクは身振りで向かいの席に座るように促した。
「いやいやサボりじゃありませんよ。部内で風邪が流行ってるんで今日は部活が休みになったんです。そんで暇になったんで此処に来たんですよ」
そう言って席に座る沢井くん。
うん、相変わらず無駄にイケメンだねえ。
「という事はこれから暇なの?」
「そうですね、特に予定はありません」
おやおや、これは渡りに船だね。
「それじゃボクと軽くデートしようよ沢井くん。ボクも暇してたんだ」
「いいっすよ、どこで遊びます?」
うん、ノリがいい子は大好きだよボク(はぁと)
「お待たせしました。チーズバーガーです」
店員さんがトレーに乗った山盛りのチーズバーガーを運んできた。それを見て沢井くんが絶句している。
「ほら、ボクは先輩だからね、少し奢ってあげるよ」
そう言ってチーズバーガーを一つ沢井くんに放り投げる。
「……いただきます。ってか石堂先輩はソレ全部食べるんですか?」
チーズバーガーをキャッチした沢井くんが呆れ顔で質問する。
「そうだよ、ボクは燃費が悪いからね」
本当にどれだけ食べても太らないし身長も伸びる気配が無い。我ながら不思議だ。
「お金とか大丈夫なんですか?」
「まあ、バイトしてるしね」
「へえ、何のバイトしてるんですか?」
「親戚のオッチャンがやってる古本屋の店番さ」
ほとんど人が来ないから楽なんだわこれが。まあ、ボクのバイトについては別の機会に語る事があるかもしれないね。
それからボクたちは適当に駄弁った後店を後にした。
◇
「ボーリングなんて久しぶりですよ俺」
「まあ、沢井くんは部活少年だからね。あんまり遊ぶ機会もないんじゃない?」
「いや、そんな事無いですよ。部活帰りに友だちと遊びに行ったりしますし」
ボクたちは先ほどのハンバーガーショップから少し歩いたところにあるボーリング場まで来ていた。
基本的にボクの身体能力は平均以上だと自負しているし、ボーリングは一時期練習していたので自信がある。
「そうだ、折角だし何か賭けようか? まあ、自信が無いなら断ってもいいけど?」
ボクは軽く挑発する。
「ふふ、いいですよ石堂先輩。俺もボーリングには自信がありますからね。負けた方が此処の代金を全部払うってのはどうです? まあ俺が勝ちますけどね」
ほう、なかなか言うねえ沢井くん。流石は運動部と言ったところかな、勝負事になると目の色が変わるのはすごいと思うよ。
「オーケイ。じゃあそれでいこうか」
じゃあボクのテクニックを見せてやりましょうかね。
先行は沢井くん。まるでお手本のような綺麗なフォームから放ったボールは、日本のピンを残してピンを弾き飛ばした。
「んー、二本残っちゃいましたね」
しかし、イケメンは何をやっても絵になるね。さっきのフォームとか凄い綺麗だったし、そのままボーリング場のCMでも使えそうなくらいだよ。
イケメンな沢井くんは二回目に残りのピンを鮮やかに倒してみせる。
「ほうほう、なかなかやるね沢井くん」
「はい、勝負事なら本気出しますよ俺」
ほうほう、それは良いことだ。では、ボクも本気を出すときが来たようだね。
「おおお! 唸れボクのマイボゥル!」
「なんですかその投げ方! なんでボールがジグザグに動くんですか!」
「あ、やったストライク♪」
「えぇ! なんであんな投げ方でストライクが……」
ボーリング中
「きゃは♪ ボクの圧勝だったね」
「そんなバカな……先輩の変な投げ方に気を取られていつもの調子が出なかったなんて」
ボクの投げ方に気を取られるようじゃまだまだだよ後輩くん♪
「……まあ、負けは負けです。俺が払いますよ」
そう言ってイケメンに笑う沢井くん。
うん、こういう笑顔が出来るからこの子はモテるんだろうね。
「じゃあ可愛いボクに奢る事を許すよ後輩くん♪」
こうして後輩との親交を深めたボクであった。
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