ギルドマスター
ゴブリンの変異体と思しき生物を捕らえ、ギルドへと帰還した俺たち。道中そいつが大暴れして大変だったが、エトラの施錠魔法により簡単に連れてくることが出来た。
「--お帰りなさい、今日はどういったご用件で?」
対応をしてくれたのは俺がいつも指名しているマルロさんだ。
「早速で悪いんだが、ギルドマスター呼んでくんねぇか?報告しにゃならんことがあるんでな」
「マスターですか……一体どのようなご用件で?一度こちらで確認しないことには通すことは出来ませんので」
まぁ当然か。社長に会わせろ!はい分かりました!……私が社長です。なんてこと、実際あるなら無能もいいところだと思う。その点このギルドは、少なくともマルロさんはしっかりしているのだと感じた。
「実はな、ダンジョンで新種のモンスター?を見つけた。それがこいつだ」
バルクはマルロさんに実際にそいつを見せたところ、ひどく驚いていた。
「……これ、人間じゃないですか?鼻は変ですけど。これがモンスターだと?」
まぁそういう反応するよな。俺も人間と疑わなかったし、実際今も半信半疑といったところだ。こいつがモンスターかもって言う証拠示すのめんどくさいな、録画とかあれば良かったのに。
それはバルクも思っていたらしく、頭を掻き毟っていた。
「だぁー説明めんどくせぇ!大体俺こいつの戦闘見てねえしな……」
「では、ここからは私が説明しよう。まず結論から言えば、こいつはゴブリンの変異体だと思っている」
「ゴブリン?!これが……ですか?確かに鼻はそんな感じですが……」
マルロさんは信じられないのか目を色々な場所にキョロキョロさせていた。
「そう考えた根拠として、まずはその鼻、そして人間を殺すと言っていた点。また突進してくる際頭から突撃してくる戦闘スタイル。そして決定的だったのは、光に意識を奪われていた点だ。どれもこれもゴブリンの習性と酷似している」
「んんー?確かにそれはゴブリンの特徴です。ですが……見た目はあまりにも人間すぎる。進化するにしてももう少し原型があってもおかしくはないと思うんですが」
頑張って冷静になろうとしているのか、マルロさんは額に手を当て、俯きながらしばし黙った。そして再度こちらを向き--
「分かりました。とにかく今の情報をマスターに伝えますので、少々お待ち下さい」
マルロさんは立ち上がりギルドの奥へと入っていった。
「ふぅ、やっと呼んでもらえんな。サンキュールニア!……にしてもほんと、なんなんだろうなこいつ。魔法も使えんだろ?もしこれがゴブリンだった場合、モンスターが人化して魔法を使い始めるってことだろ?想像したくもねぇな」
「ルニア兄貴曰く、しかも人間殺したいんだろ?モンスターの一斉攻撃とかもあり得そうだよな!」
「なんでちょっとテンション高いんだよ?」
エトラが嬉々として語っている。まぁそんなことは絶対にないと思っているからこその発言なんだろうが。もしそうなったら世界はどうなるのだろうか?モンスターの一生魔法攻撃なんてSランク冒険者でも耐えられんだろう。ほんと想像したくもない。
そんな時、マルロさんが入って行った扉が開き、マルロさん、そして見たことがない白髪で長い髭をこしらえたおじさんが出てきた。俺は聞こえないようバルクに耳打ちで質問をした。
「なぁ、もしかしてあれがギルドマスターか?結構年いってんだな」
「ん?あぁ、お前見たことねぇのか。そう、あのじじいがうちのギルドマスターのガリレア・ドルシアだ。言っとくが、あんなんだがめちゃめちゃ強えぞ!一回問題を起こしたSランクを止めるために出てきたんだが一撃だった」
「Sを……一撃?なにそれ美味しいの?」
俺がバルクの話に驚愕していると、マスターが俺の元に近づいてきた。
「こ、こんにちは」
「お前さんが確か、脳無しだったね」
「は、はい。そうですけど……何か?」
無言でじっと見つめられ、不安だけが募っていく。なにを言われるのだろうか?脳無しのくせにその程度かとか頑張りが足りん!とか言われんのかな……
「いや、なに。儂にも昔脳無しの友が居ってな!60年も前の話だ。懐かしくてつい眺めてしまった、すまんな!」
……意外と普通の人って感じだな。てか60年前にも脳無しがいたのか。都市伝説的な存在みたいに聞いてたけど意外といっぱいいるのかもな。案外ソシャゲガチャの神引きくらいの扱いなのかもしれん。
「それにお前さんと同じくらいの孫が居ってなぁ、もし会った時には仲良くしてやってくれ」
「は、はい。勿論」
俺と同い年のギルドメンバー?誰だろ?
すると、話が脱線しすぎたことでマルロさんが割って入ってきた。
「ゔゔん!マスター、そろそろ……」
「ん?あぁそうじゃったな!して、そのモンスターとやらはどこに?」
「こいつだよ爺さん。見たり聞いたりしたことあっか?」
バルクはそいつを持ち上げマスターの眼前に持ってきた。それをマスターは顎髭を触りながら興味深そうに観察し始めた。
「--いや、儂もこれは見た事ないのぉ。ほんとにゴブリンなのか?」
「それも知りたくて持ってきたんだ。人なら人で、さっさと投獄してもらえりゃそれでいいんだがよ。モンスターだとしたら……まずいと思ってな」
「そうじゃな……取り敢えずモンスターかどうかの判断は簡単じゃろ?」
「えっ?なにを……」
「--魔法で殺せば良い」
物騒だなオイ。いち早く殺すって選択肢が出てくる所、流石は冒険者のマスターって所なのか?
「まぁ殺さんでも良い。片腕だけ切ってそれを魔法で攻撃してみるでも分かるからの。それじゃあ早速やってみるか?」
「まぁ今後のためだ。やってくれ」
そんなあっさり腕切んのかよ……しかもそれについて誰も怪訝な顔をしていない。やっぱまだこの世界に慣れてないんだな俺。
「おい蓮!お前の持ってる剣貸してくんねぇか?もしくはお前が切ってくれても良いが」
「貸します貸します!--ほら、どうぞ」
俺は剣をマスターに受け渡す。マスターは剣を握り、一瞬鞘から刀身をのぞかせ、すぐに納刀した--
「すまんの、ありがたく使わせてもらったよ。じゃあこれ、返すの」
……ん?今抜いてもないだろ??もう返却してどうすんだよ?もしかしてこの人ボケが進行しちゃってるんじゃ……早く世代交代した方が賢明かと存じますぜ。
そう思いながら剣を受け取り、謎生物の方を向いた。その時、俺は自身の目を疑う光景を目にした。
なんと、すでに腕は切られており、しかもその切り口からは血が一滴も流れなかった。
「嘘……だろ?あの一瞬で切ったってのかよ?あ!もしかして今の魔法化なんかですか!」
「さぁな?爺さんの魔法はイマイチ俺もわからん」
そして切られた腕がだんだんと消滅していく。つまり、こいつはモンスターだと確定したということだ。
「・・・まじかよ」「やはりそうだったか」「おいら絶対ないと思ってたのに」
などと兄弟たちは口々に感想を漏らしていた。
「--うん。マルロ、このことを全冒険者に伝えてくれるか?下手に煽るようなことはさんで良いが注意喚起としてな」
「はい!今すぐ--」
--と、マルロさんが席を離れようとした時、1人の従業員がマルロさんに耳打ちでしてきた。
「なんですか?今それどころじゃ--なに?ほんとですか?」
「ん?どうしたんじゃ?」
「マスター、落ち着いて聞いてくださいね。貴方のお孫さんが・・・レヴィさんが謎のモンスターに襲われているそうです」
--レヴィが……モンスターに……!
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