鼻の長い人間

俺は勿論ルニア兄貴すら見たことがないらしい敵と対峙することになってしまった。


「蓮、さっき奴の魔法を吸っただろ?大体どんな魔法なのか分からないか?」


「……俺のこの魔法、どんな能力なのかまでは分かんないんですよ。だから知らない魔法は見たものしか出来ない、自分なりの技とか作れないんですよね。まぁあいつの魔法は属性魔法でしょうから、そんな複雑なものではないと思いますけどね」


「なる程、つまり奴の魔法は火を放てる魔法であろう、だが確証は持てないということか」


「んまぁ、そういうことですね」


「そうか……悪いが私の魔法はまだ使用出来ない。基本お前に頑張ってもらうしか……」


「じゃあ、遠くから指示お願いします!頭脳担当、信用してますから」


「……!ふっ、当然だ!」


 俺は雷を纏い臨戦態勢に入る。それを見て相手も火を纏い始めた。


 この戦闘において注意すべき点がある。それはこの場所が狭いということだ。ボス部屋のように広いエリアなら自由に戦えるが、ここでそんな戦い方をしてしまえば、ダンジョンが崩れ、生き埋めになってしまう可能性がある。つまり理想は正面突破の一撃終了。その為に……今出せるトップスピードで--接近する!


 一気に胸元まで接近し、魔法攻撃を叩き込んだ。


纏型まといがた--雷神の一撃トールハンマー!」


 遠距離攻撃であるこの技の威力をそのまま拳に閉じ込めた一撃。相手は吹っ飛び気絶する--の筈だったのだが、数メートル後ろにのけぞった程度で、特段効いているような感じではなかった。


「うっそ……」


「グァ、……ニンゲン……シネ!」


 相手は両掌を向けあい、その中心に大きな火の玉を作り出した。そしてそれを野球の投球ホームのように投げつけてきた。


異類無礙アクセプト!威力自体は大したことはないな。んでもってあいつの魔法は多分……」


「ヴヴ!ナゼ?ナゼ……!グアァァァ!」


 魔法が当たらないことに腹が立ったのか、こちらに向かって火を吐きまくってきた。


「無茶苦茶だなこいつ!このままじゃ崩れるぞ!なぁルニア兄貴?何か良い手ないか?あいつ攻撃はそこまでだが防御力だけはモンスター並だ!」


「モンスター並……人間を殺す、尖った鼻…………まさかな。そんな訳--くそ!とにかく今は倒すことが先決だ。蓮!吸収しながら奴に近づけ!そして砂で奴の動きを封じろ!」


「--了解!」


 俺はルニア兄貴の指示通り、魔法を発動しながら相手に近づいていった。出来るだけダンジョンに被害が行かないよう手を大きく広げながら。


 そしてあと数歩で触れられるくらいの距離についた時、相手は体に炎を纏い、突進してきた。


「--炎突エントツ!!」


 完全に砂魔法を使うつもりだった俺は、タイミング悪く吸収状態を切ってしまっていた。頭から突っ込まれ、突撃プラス炎の熱さで結構なダメージだ。


「ぐぃいい!痛っつぁ!熱っつ!」


 多少吹き飛ばされた俺は、一旦体制を立て直す為、ルニア兄貴のところまで再度下がった。


「なぁ、あいつ強い、ってよりめんどくさいぞ!あの炎防ぐのに砂使って良い?」


「いや、出来ればそれは拘束用として取っておいて欲しい。火属性魔法は砂に弱い、燃やすことができないからな。奴に拘束を解けるだけの力があるのなら別だが、ないようなのでな。奴はできれば拘束しギルドで調査してもらいたい」


「なるほどね、まぁ確かにあんな変な人間、素性調べる必要あるよな」


「人間、か」


「……ん?それってどういう」


「もし私の仮説が正しければ……いや、正しくないのが望ましいが、正しければ、奴は--だ!」


 --ゴブ……リン?それってRPGとか異世界もので絶対出てくる全身緑のモンスターだよな?でもあいつ普通に肌色だし、何より片言だけど喋ってるし……いやまぁ人間殺すか言ってたけどさ、人間だって人間のこと恨んだりもするだろ?


「ゴブリンって……いやいやそれはないって!肌色人間だし喋ってるし、何より魔法を使ってる!結構前にアリアさんにモンスターは魔法を使えないって聞いたことあるし……」


「……だが、あの尖った鼻、そして頭から突進してくるあの攻撃方法……どちらもゴブリンの特徴なんだよ!私の仮定はこうだ。奴はゴブリンで、何かしらの原因で突然変異を起こした変種。だとしても変わりすぎだとは思うが……」


 突然変異……まぁ元の世界でも本来の姿から大きく姿を変えて進化した生き物は沢山いる。人間だって言ってしまえばそれだ。だが肌の色が変わり人間の言葉を話し、挙句に人間の先輩特許である魔法まで使えるようになるとか、そんなのいたらここまで進化するまでに1体くらい見つかってる方が自然だと思うんだが。なのにそういう話はルニア兄貴も聞いたことがないそうだ。


「……蓮、ゴブリンは光に目を向けてしまう習性がある。つまり奴がほんとにゴブリンであった場合、何か発光源があれば注意をそらすことが出来るかもしれない」


「光……雷の光とかでも大丈夫ですか?」


「ああ、とにかく光っていれば問題ない」


「なら、丁度いい技があります。光を飛ばせてダンジョンにダメージも与えない技が」


「……よし、それで行ってみよう。ダメならまた別の策を弄すれば良いだけだ!」


「んじゃあそれで!」


 俺は再び相手の元へ走り込んだ。出来るだけ接近できるまでは吸収状態で突破していく。そして相手との距離50Mと言ったところで、俺の秘策を繰り出した。


「食らえ!雷の綿帽子ペルーザ・デラーヨ!」


 指先からたんぽぽの綿毛のようなものを数個放出した。--この技は攻撃用の技ではない。本来の目的は真っ暗な場所でも明かりを灯すための技だ。それがこんなところで活きるとは思わなかった。


 そして奴はその綿毛に目を奪われ、俺から意識を完全に逸らした。……ってことはやっぱり。いや、今は拘束に全力をそそぐ!俺は砂魔法を発動し、敵の両手両足を覆い尽くした。


砂の監獄プリズン・デザート!」


 捕まる瞬間こちらの攻撃に気がついたが、その時すでに遅し!敵の両手両足を覆い尽くすように拘束した。


「グアァァァ!!ニンゲン!コロス!フクシュウ!--ハハ!」


 ハハ……母ってことだよな。こいつの殺人衝動、これは冒険者に母親を殺されたことによるものか……。そりゃ恨むよな。殺したくなるよな。納得は出来ないけど理解は出来てしまった。


「ふぅ、これで一件落着だな。よくやってくれた蓮!帰ったらこいつを調査してもらわねば」


「そう、ですね。こういう変異体が増えたら大変ですもんね」


 少し複雑な気持ちで応答した時、聴き慣れた声が聞こえてきた。


「--おーい!ルニアー!れーん!どこにいるー!」「兄貴ー!蓮ー!おいら達はここですよー!」


 バルクとエトラだ。俺は「おーい!こっちだー!」と叫び返し、ようやく合流することが出来た。2人は、ボス部屋にあった宝石を手に入れてからここに来たらしい。


「ふぅ、ようやく見つけた!ったく、世話のかかる兄だ--うわっ!なんだそれ!」


「それ含めあとで説明する。まずは帰ろう。早くギルドへ行きたい」


 こうして俺たち新チームでのダンジョン攻略は終了した。

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