重力との戦い
ディアスとの決戦当日、魔素の吸収も覚えた、剣も振るえる、魔法も荒削りだが使えるようになった。そんな俺は今――絶賛腹を下していた。
「……昨日あれだけ元気に返事してたくせに……我が弟子ながら情けない」
「ははっ……ほんとに」
昔からそうだ。なにか重要な行事の時は決まってお腹を下していた。もやはルーティンと言って差し支えないほど毎回。そんな体質は異世界に来ても変わらなかった。
――それにしても俺は勝てるのだろうか?はじめての対人戦、どころかまともな戦闘自体初めてである。相手の魔法は重力、属性魔法のように目には見えないからより一層注意が必要だ。魔法発動せずにまともに食らったらやばいかもしれない。それと今のうちから重力魔法の使い道を考えとかないと
――などとトイレをしながら考えている様はまさに考える人そのものである。
「早くしろ!間に合わなるなるぞ!」
やべ!長くいすぎた。しかし30分篭ったことにより、お腹の調子も回復、ようやくこれにて準備万端!とにかくここまで来たらやるしかないんだ、不安とか全部丸めてあいつにぶつけてやる!
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決闘会場に到着し、俺はアリアさんと入場口で待機していた。
会場はコロッセオのような闘技場。チラッと見たが100人くらいは居そうだった。お腹が治ったかと思えば此度は吐き気が……
こんな大勢の前で負けたらほんと顔上げらんねぇよ。この不安ぶつけられるかしら?
マイナス的な考えばかり巡らせていると、「魔法を使え」そう言われ、発動したところ、急に背中を叩かれた。なんかビリっとした。
「蓮、安心しなよ。お前の実力は私が一番分かってる。周りの目なんて気にするな!Eランクがどんな惨めな負け方をするか見に来てる奴も多い、そいつら全員の目玉飛び出させて地面に転がしてやろう!――蓮なら出来るよ」
――最後の一言はものすごく優しい声だった。信頼してくれている声色、そこからは俺が負けるという考えは微塵も感じられなかった。
俺は気持ちを落ち着かせ、アリアさんの方を向く。
「――アリアさん、俺……勝つよ。貴方が育てた弟子の成長、見ててください」
『――両者、中央へ』
誘導を受け、俺は前へと進む。その時――
「蓮!……いってらっしゃい」
「行ってきます!」
俺とディアス、両者は闘技場の中央に向かい立った。
「やぁEランク。ちゃんと逃げずに来たんだね。そこだけは褒めてあげるよ」
「逃げようなんて100回くらい考えたよ。だけど逃げらんないんだろこれ、だったら頑張ってお前を倒すことに決めたんだ」
「オレを倒す?……ふふっ!笑わせるな。最低ランク如きがCランクに勝てるわけが無い。群衆の前で無様にやられることを楽しみにしてるんだね」
「そういう発言、小物臭いからやめといた方がいいと思うぞ。それと、悪いけど勝つのは俺だディアス・ネディナ。俺の後ろには敬愛する師匠がいるんでね、負けられないんだ」
『では両者、握手の後スタジアム端までお願いします』
俺たちは握手を交わし、指定の位置に向かう。そして剣を抜いた。最初は様子見だな。
お互い準備が整い、向かい合ったところで、いざ――
『――では、始め!!』決闘の火蓋が切られた。
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ついに始まったディアスとの決闘。まず俺は剣を抜き、相手の様子を伺うことにした。
すると開始いきなり、ディアスが右掌を俺の方に向け――
「
その瞬間、俺は後ろに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「――ぐはぁ!」
くそっ、いてぇ。気付いたら吹っ飛ばされてた。これが重力魔法……やっぱ見えないってのは脅威だな。
「どうしたEランク?まさかこの程度ではあるまい?さぁ、貴様の魔法を見せてみろ!」
その後も先程の技を連続で繰り出してきた。最初の数発は避けきれず腕などに当たっていたが、段々とこの技のことを理解してきた。まず右手でしか撃たない、もしくは撃てない。そして飛んでくるタイミングは約1秒後、範囲はあいつの掌分のみ。ここまで分かれば避けることは出来るし、吸収もできるだろう。だが他の隠し球を恐れて無闇に近づけない。
そんな俺の様子を見て、観客は「……防戦一方だな」「そりゃそうだろ、Eランクだぜ、こんなもんだろ」「つまんねぇぞーなんか抵抗しろー」などと言いたい放題だ。
「何故君は魔法を使ってこない?舐めているのかい?それとも……もしや魔法が使えないのか?」
「そう焦んなさんな、それよりお前も、全然攻撃当てれてないじゃないか。大丈夫か?」
「……ふん、良いだろう。別の技も見せてやる」
そういうと、ディアスは両手を斜め上にかざし、振り下ろした。
「
新しい技?上から振り下ろし……まさか!勘は的中した。なんと上から重力の塊が落ちてきて、俺を押し潰し続ける。
「くっ!やべぇ、抜けられねぇ」
仕方ない、ここぞというときに使いたかったが、出し惜しみして負けたら意味がない。俺は魔素を吸収し、魔法を発動した。
「
俺に掛かっていた重力が消滅し、ディアスは激しく動揺した。
「なっ!あれはオレが解除せねば消えないはず!一体どうやって……?」
「ごちそうさん!」
俺はディアスに向かって、重力魔法を乗せた斬撃を放った――
「
土埃を上げながら放たれた斬撃がディアス目掛け接近していく。
――決まった。そう思ったのだが、流石はCランク冒険者、すぐに冷静さを取り戻し、右手の魔法で相殺されてしまった。
あぁもう!初めてだからどうしても躊躇してしまう。力加減が難しいな。それに今ので俺の魔法はバレたかも知れん。
「今のは……重力?何故……?」
良かった、まだバレてはいない。だが時間の問題だな。
「得体の知れん魔法だな……しかしこれならどうだ!
ん?その技はさっき消したやつだろ?なにを考えて……
俺に放たれるかと思った魔法は、目の前の地面に叩きつけられた。それにより足元を崩し、意識が逸れてしまった。
「んなっ!これは――」
「仮に君の魔法が打ち消せる魔法だったとしても、連続で打ちつけられれば逃げられまい!
続けざまに重力が落ちてくる。魔法で吸収するが、その瞬間次弾が落ちてくる。
――舐めてた。俺はディアスのことを貴族ということでなにも努力せず、幅を利かせてるだけのやつだと思っていた。だけど違う。これは努力をしてる奴の力だ。俺は傲っていた。今の俺なら簡単に勝てるとどこか思っていた。これは負けても――
「――あんたなにやってんの!!」
負けを認めかけたその時、観客席から何やら聞き覚えのある声が聞こえた。それは初めてギルドに行った時に出会った少女レヴィだった。
「あんた、アリアさんに修行つけて貰っといて何も出来ずに負けるの?あの時神に誓ったんでしょ?アリアさんに迷惑かけないって!あんたがここで負けたら迷惑よ!だから……勝ちなさい!!」
拾って貰ってこの世界のこと色々教えてくれた。俺を強くするため修行をつけてくれた。なのに俺が負けたら……アリアさんに申し訳が立たないだろうが!!
俺はディアスの魔法に向かい剣を投げつけ、着弾を防いだ。恐らくチャンスはこれで最後。
俺は雷を右手に集中させ、背後の壁に重力を放ちディアスに接近した。
喰らえ……満身創痍の俺が今出来る最大の技!
「
重力の勢いも乗せた雷の奔流がディアスに直撃した。頼む……これで終わってくれ!
攻撃を食らったディアスは、その眼にしっかり俺を映しながらも、その場でふらついていた。
「嘘、だろ?……こ、こんな……奴に……オレが……負け……?」
とうとうディアスは気絶し、俺にもたれかかる形で倒れた。
……勝った……んだよな?良かった……これで……アリアさんに顔向け……でき――
限界を迎えた俺は、ディアスを抱えたまま背中から倒れ――気絶した。
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