第69話
《魔眼》には《覚醒》と呼ばれる進化、早い話が強化系がある。
どうして聖域に魔女のリゼとシルが乱入できたのか。その解説をしておこうと思う。
まず《悪夢の魔眼》開眼者のリゼ。
彼女が今開いている眼は《正夢》という。
現実と一致する夢。まさゆめだ。
己が望む夢を現実に落とし込んでしまうという恐ろしい《禁忌瞳術》
彼女は聖域にいる僕と合流するという無謀な夢を《覚醒》させることで本物にしてしまったというわけだ。
余談だけれどリゼには《逆夢》と呼ばれる《覚醒》がある。
こっちは起きてしまった現実を夢にしてしまう。まさしく、さかゆめだ。
例えば僕が命を落としたときにリゼが《覚醒》すれば、死ぬ前の時間軸に戻って来るこも可能だ。
理想的な現実を引き寄せる《正夢》と不都合な現実を幻と化してしまう《逆夢》
エグい、としか言いようがない。
続いて《導の魔眼》開眼者、シルの《覚醒》だけど、こちらは《正夢》に近い。
世界の深淵を覗くことができる《導の魔眼》
《覚醒》を経た名は《真理の魔眼》
真理とは書いた時のごとく、真の
確実な根拠に伴う本当だと証明されたこと。言わば真実。この世のルール。
《真理の魔眼》を一言で説明すれば
己の決定こそが世界の真理。
仮に僕が無条件で他人から崇拝される存在であることを《真理の魔眼》で定義すれば新世界の神の誕生だ。
それだけのことを可能にしてしまう最強、最恐、最凶の瞳術を僕と再会することために行使。合流することこそが世界の真理であると。
……なんというか、ありえない。
これだけエグい能力だ。当然代償もエグい。
「あーあーあー、ほら始まったよ」
刹那。シルやリゼ、九条さんの身長が大きくなっていく。
いや、正確には大きくなっているように見え始めていた。
憂鬱になりながらも自分の身体を確認すると、すでに服がぶかぶかになりつつある。
いやもう本当に勘弁してよ……。
あまり勿体ぶるのもアレだから代償についても説明しておくと、《覚醒》を行使した場合、僕は若がってしまう。
シルとリゼが一回ずつ行使しているから最低でも四歳以下は決定。もし三回使われていたら二歳まで戻ってしまう。
あれ、能力の割に代償が軽いのでは、だって? ははっ……それはこれから広がるであろう光景を見ても本当に言えるかな?
あーやばい。意識が、自我が――。
☆
「わーい! お姉ちゃんだ! お姉ちゃーん!!」
肉体が戻ってしまった佐久間龍之介は精神も四歳児になってしまっていた。
シルとリゼを「優しいお姉ちゃん」だと植え付けられている彼は短い手足をパタパタさせながら駆けつける。
その光景に驚きを隠せない九条と両目に♡を浮かべ、両手を広げるシルとリゼ。
佐久間(ショタ)はシルの胸にダイブ。
傷一つない柔らかい乳房に顔を押し当てる。
「ボク、シルお姉ちゃんのおっぱい大好きー!」
「ふふっ。私もお慕えしておりますよ
「ちょっ、シル! 卑怯よ! 私にも抱っこさせなさいよ」
「お断りしますリゼ。ショタ
「はぁっ⁉︎」
「いやいやいや! いやいやいや! まずは俺様に説明が先じゃねえのか、魔女さんたちよ」
と九条。いつの間にか童貞を殺すセーターから着替えていた。
アポトキシン48○9でも飲まされた光景に頭の整理が追いついていない様子。
「説明? 説明なら先に貴女がすべきじゃないかしら? リュウくんをよくもこんな空間に――後ろにいるのは《精霊王》ね。この聖域とも関係しているのかしら」
「……知りてえか?」
「ええ、とても」
バチバチと火花を散らしあうリゼと九条。
《魔眼》が《魔眼》を睨み合う一発触発。
「メッ、だよリゼお姉ちゃん。女の子が暴力振るっちゃダメ。悪いやつは僕がやっつけてあげるから」
「リュウくん……うっ!」
魔女の齢は優に二千歳を超える。ショタ佐久間は彼女たちの母性をくすぐらずにはいられない。
リゼは鼻血をぽたぽたと垂らしていた。
「……大丈夫リゼお姉ちゃん? 痛いの痛いの飛んでいけー、してあげようか?」
「お願いできるかしら。代金は《無限地獄》でいいわよね?」
片手で鼻を必死におさえるリゼ。四歳児相手に最凶の瞳術を交換する魔女。なかなかに見られない光景である。
「とりあえず一つだけ聞かせろ。そいつは佐久坊なんだな?」
「もちろん
佐久間(ショタ)を名残惜しそうにリゼに譲りながら九条を睨め付ける。
「この聖域をこじ開けるために我々は《魔眼》の《覚醒》を行使しました。幼児になってしまったのはその代償です。肉体的にも精神的にも幼くなっていますが、健康を損なうという意味での問題はありません。ただ――」
「ただ、なんだよ?」
「可逆不可です」
「…………はっ?」
九条顔面に意味がわからんと貼り付けられていた。
「ですから、元の
リュウくん、リュウくん……と頬ずりしているリゼを横目にシルはごほんと咳払いして続ける。
「聖域の内に入ってしまえば《導の魔眼》もきちんと機能しますね。なるほど。性行為をしなければ出られない部屋ですか。神聖な魔法でずいぶんマニアックなものを――えっ、異世界から帰還した聖女が? ……淫乱な聖職者がいたものですね。風上にもおけません。どうやら《転移魔法》のみ行使が可能なようですが……」
「すげえな、おい。この空間に足を踏み入れただけでわかるのかよ」
さすがの九条も《魔眼》を《覚醒》させた魔女二人に気圧されていた。
彼女たちから自然と漏れるプレッシャーに鳥肌が立っている。
「交渉をしましょう」
「なっ、何言っているのよシル。現在の私たちなら《転移魔法》を行使できなくてもここから抜け出せるでしょう? 《逆夢》の発動条件も満たしているわ。リュウくんを閉じ込めた人間の女に交渉なんて――」
「いいえリゼ。次《真理の魔眼》もしくは《逆夢》を行使すれば
「……それじゃダメなわけ?」
「冗談はよしてください。貴女も目に焼き付いているでしょう?
余談だが四歳児に戻ってしまった佐久間の魔力量に関しては増減しないため、彼女たちは具現化し続けることはできる。
「だからって……」
「いくら
「それで交渉ってわけ? まあ今のシルなら色々と視えているだろうし、任せるわ。こっち方面は貴女の得意分野だし」
「助かりますリゼ。というわけで、《空間転移の魔眼》を持つ貴女にお願いがあります」
「なんだよ? 俺様に何をやらせる気だ?」
「警戒しなくとも大丈夫です、と言っても無理ですね。まずは話を聞いてください。私とリゼの会話通り、
「なっ……!」
何かを視ている、見透かしているシルは九条を真っ直ぐ見つめながら続ける。
「どうやら特殊な時間軸の空間での1年は現実世界の1日に相当するようです。つまり
その二人が誰かは言うまでもない。源玲と鳴川凛である。
真実を見通す魔女の口から行方を気にかける肉親がいない、という言葉が出ることはすなわち――記憶を戻した佐久間龍之介が何かに気付くということである。
待っているのは残酷な現実だろう。
「話は理解した。結論から言う。もちろんYESだ。ショタの佐久坊も悪くはねえが、俺様はあくまでいつものあいつと話してえからな。十五年も待っていられるかよ。で? 交換条件はなんだ? これは交渉なんだろ? 俺様にも美味しい想いができる何かがあるはずだろ」
いつものあいつ、と聞いて言葉遣いにこそ不快感を覚えるシルであったが、彼女の口元は綻んでいた。素の主人を待ち望んでいる人間がいたことに喜びを隠しきれない様子。
「転移先で
「「なっ――!」」
その提案に驚くリゼと九条。
「いくら魔王を討伐した暗殺者とはいえ、今はただの四歳児です。当然大人の誰かがついてなければ生活できないでしょう。もちろん本来であれば私とリゼの二人で十分ではありますが、貴女が望むなら、当番制に入っていただいても結構です。さすがにここまで幼い子どもに性的興奮は覚えないでしょう?」
「当然だろ!!!」
唾を飛ばしながら必死に否定する九条。
どこぞやの聖女と一緒にするんじゃねえよ。顔がそう言っていた。
「では決まりですね。リゼもよろしいですか?」
「…………はぁ。任せると言ったのは私だし、今さら口を挟むつもりはないわよ。それにしても大きく出たわね。リュウくんを彼女に預けることを条件にするなんて」
「悔しいですが、
こうしてシル、リゼ、九条による一時的な協定が結ばれることになった。
余談だが魔眼覚醒の代償は記憶を取り戻した際、それまでの成長過程の記憶も残り続けることになる。
すなわち幼少期の言動全てを知ることになる。佐久間龍之介の黒歴史が増えるまで残り13日。彼が絶叫する日もそう遠くはなかった。
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