第28話
源さんと鳴川さんのいがみ合いがしばらく続いたのち。
アクション撮影を再開することになった源さんは、爆弾を投下してこの場を後にした。
「それじゃあ龍之介くん。例の件ちゃんと考えてね? また連絡するから! 今日は本当にありがとう! またね!」
大きく手を振りながら撮影に戻っていく源さん。
例の件やまたねが強調されていたように思えたのは錯覚かな。気のせいだと信じたいんだけど……、
「例の件……?」
ぐりん。
鋭い眼光を僕に飛ばす鳴川さん。
いやいやいや! どうして一般人が《破》を放ってるのさ!
言っておくけど僕はこの魔法を会得するのに半年以上かかったんだからね⁉︎
さすがに誤魔化すのは無理だと判断した僕は正直に答えることにした。
「いや、実は色々ありまして、アクション撮影に参加させてもらうことになったんだけど……源さんから同じ事務所に入らないかって誘われて」
「じっー」
「あの、顔が近いんですけど……」
「じっー」
ジト目の鳴川さん。
「交換したのね? 私以外の女と」
「はい?」
「だから連絡先よ」
「あっ、うん。半ば無理やりにだけど……」
「だから、またねなのね……はぁ」
鳴川さんは額に手を置いてため息をこぼす。
ずっ、頭痛かな……?
「流石に遊びに誘われていたりはしないわよね?」
「へっ?」
女性の勘は男の確信よりも的中するとはよく言ったもので。見事に図星を突かれた僕は、素っ頓狂な声を漏らしてしまっていた。
「……へっ、へぇ。少し目を離した隙にもう別の女と。これはうかうかしていられないわね」
鳴川さんは僕には聞こえない声で何かを呟いたのち、
「聞くまでもないことだけれど、女の子との約束を放ったらかして別の女と乳繰りあっていたの。埋め合わせはしてもらうわよ?」
「乳繰りあってはいませんけど⁉︎」
「これから私に付き合いなさい佐久間――いいえ、龍くん」
「それはもちろん全然構わないけど、でも撮影はいいの?」
どうやらこの質問は地雷だったようだ。
鳴川さんの目がピクピクと痙攣する。
「ええ。どなたさんが遅刻したせいで撮影は無事終わったわ……本当は私が演じているところを見て欲しかったのに」
「それはその……本当にすいませんでした!」
直角に頭を垂れる僕。
こればかりは申し開きようもない。
「だから龍くんにはこれから――」
なんとなく嫌な予感が背筋を駆け上がって……。
――私のお母さんに挨拶しに来てもらうわ。
……ええっと、それはいわゆる娘さんを僕にください、的な?
嘘でしょ⁉︎
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