能力=魅了(チャーム)

「どうやらこれは、

本物の剣のようだな」


血を拭うように

勇者は手に持つ剣を振るった。


その剣圧だけでも

最前にいた魔王軍の兵士が

吹き飛ばされる。


横にいる、

試し切りで腕を落とされ

泣き崩れる女兵士のことなどは

もう歯牙にもかけていない。


「どうやら能力には

Lv.制限かけられているようだな


――最初から全解放とはいかないか


あの女神も随分と用心深いことだな」


勇者は瞬時に

コンソールパネルを確認し、

現在使える能力を掌握した。



「一人と言えど、

相手は勇者だ……


さっきの尋常ではない

剣圧から見ても


手に剣を持っている以上、

不用意に近づくのは危険……」


魔王軍進攻隊隊長は、

勇者を警戒しつつ指示を出す。


「遠距離攻撃で狙い撃てっ!」


指示に従い前面へと出る弓部隊が、

勇者目掛けて一斉に矢を放つ。


唸りを上げ、空を切り裂き

勇者へと迫る数多あまたの矢。


あわや

勇者に突き刺さるかと思われた瞬間、

戦闘中であった人間の男が

勇者の前に飛び出して、

その身を盾にして庇った。


庇った男の体には

幾つもの矢が突き刺さる。


連射により続け様に放たれる矢群。


勇者の前には次々と人間が、

いや人間だけではなく

魔族の兵士までもが、

その身を投げ出して勇者を庇う。


「なるほどな、

これが『魅了』と言う能力か……

面白い……」


-


勇者の周りを取り囲む

魔王軍の兵士達。


だが、敵として

交戦しているという訳ではない。


先程指示を出していた

進攻部隊の隊長に勇者は語り掛ける。


「どうだろう? 

魔王軍の隊長殿


僕は人質を取らせてもらったよ


まぁ、もっとも

君達は人間ではないのだから

言うなれば『魔族質』といったところか


僕の周りに居る君達の仲間は

所謂いわゆる『肉の盾』というやつさ


僕を攻撃しようと言うのなら

君達の仲間は

僕を庇って次々と死ぬだろう


どうするんだい?


それでもこのまま僕と戦うかい?


それとも、いくら魔族と言えども

やはり仲間を殺すのは躊躇ためらうのかい?


まぁ、僕としては、

どちらでもいいのだがね


どちらでも

面白いことになりそうだからね」


Lv.制限が掛けられている為、

現状で使える能力やスキルは

それ程多くはない勇者。


最初期から使える能力である『魅了』でも

潜在能力が高い勇者が使えば

この程度の兵士達には

十分に通用する手段となり得る。


「な、なんという

卑劣な勇者なのだ……


我が同胞達を

肉の盾に使うなどと


こやつ本当に勇者なのかっ!?


勇者というのは

もっと誇り高き者だと聞いていたが


このような悪趣味な戦法、

現代の悪魔でも使わぬわっ」


歯軋りする進攻軍の隊長。


苦渋の決断を迫られている姿を

嘲笑うかのように勇者の挑発は続く。


「なんだい?


魔族と言っても

そんなものなのかい?


その程度の決意と覚悟で

よく魔を名乗っていられるものだね」



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