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「もちろん誘われなくても行くよ!」
「…………まだ何も言ってない」
帰宅して、まだ何も言っていないのに、
「お兄ちゃんの発言を先読みして、ヤマカン張って言ってみたんだけど、どう? どうどう? わたしの先読み、当たってたかなー?」
「その感の良さを勉強に
毎回、赤点ギリギリの点数を取って来るくせに。その感の鋭さで、赤点くらい軽く飛び越える点数を取って来いよ。本気出せば百点なんて余裕だろ、って思わせる鋭さしてるじゃねえか。まあ、毎回毎回赤点ギリの点数を取ってくるから、しっかりと、ちゃっかりと補習を
もはやそのうち飛んだりするんじゃねえの?
玄関開けたら飛んでたりするんじゃねえの?
「はっはー! 飛ぶなんて、そこまでの期待をされちゃうと、しぃるちゃんもその期待にはお応えできないけれど、テストに関してはお答えしちゃうよ——わたしが思うに、テストってコンディションが大切だと思うんだ、お兄ちゃん」
「どんな言い訳をするのかわからないが、まあいい。聞こうか」
さも当然のように、飛ぶとか思ってた、僕の内心を読んでくることもやめてくれないかな? 兄にプライバシーはないのだろうか? 果たして僕の内心の自由はどこにあるんだろう。まあ、そこはとりあえずスルーして、しぃるの言い訳を聞こうか。スルーしていて良い問題なのかわからないけれど、ひとまずスルーして、言い訳を聞こうか。
「コンディションが大切なのに、テストってだけでコンディションは悪くなるでしょー? テスト前に勉強なんてしたら、コンディションもテンションも下げ下げになっちゃうでしょー? だからわたしは悪くない!」
「言い訳になってねえよ!」
どんな言い訳なんだよそれ。コンディションの話が、最後テンションの話になってるじゃねえか。論点すら
「そもそも、因数分解なんて学ぶ必要あるの? って。わたしは問いたい。社会に出て、因数分解が必要な場面はどこ? 因数分解で食べて行く人なんて、じゃあ百歩譲って存在しないとまでは言わないけれど、それってひと握り過ぎないかなー。そんなひと握りしか使わない因数分解をなぜ全員が学ぶ必要があるの? どうして? ねえ教えてお兄ちゃん?」
「国が定めた教育方針を、僕に問われても答えに
「ほら! お兄ちゃんだってわからないじゃーん!」
「わからないのはお前からの問い掛けであって、僕は因数分解はわかるからな?」
ついでに、お前のテストは全教科赤点ギリギリだろうが。数学に限ったことじゃないだろ。
「計算だけで生きてるなんて、寂しいお兄ちゃんだなあ……。前世は売れ残った電卓? それとも売れ残ったそろばん? 廃棄処分されて転生した姿がお兄ちゃんなの?」
「とりあえずそろそろ靴を脱いでもいいか?」
なぜ売れ残りをつける。廃棄処分されて転生した僕じゃないし、そもそも前世とかわかるはずないし、このままだといつまでも玄関での兄妹トークを続けることになりそうなので、僕はそう言って靴を脱いだ。そのままリビングに直行。しぃるも同じく。
「お勉強お勉強、ってうるさいお兄ちゃんは、近年の食品ロス問題についてどんな意見を持ってるの? 売れ残った前世を持つお兄ちゃんの意見は?」
「兄の前世を売れ残りと決めつけるなよ。お前にそう言われるほど、僕は勉強にうるさく言ってるつもりはないけれど、なぜ急にその問題の意見を求められてるんだ?」
でも食品ロス問題を知っていたことは、偉いぞ。仕方ねえな、あとで抱きしめてやろう。
「国民が国の問題を論じるのは当然でしょー」
まあ、それはそうかもしれないけども。
選挙権をまだもっていないから——という理由で、ないがしろに出来る問題でもないだろうし、して良い問題でもない。普段からニュースとか観てる僕は、結構そういう話題は好きだったりする。好きな話題なのだが、いかんせん論じる友達がいないので話題にしたことはない。議論は議論する相手が存在しないと出来ないし、僕にはもちろん居ないのだ。こういう問題は、選挙権の有無ではなく、国民一人一人が向き合ってこそ、である。
「やはり無駄をなくすことが一番だろうけど、それが一番難しい問題なんだよな、食品ロスは。作り過ぎても買い手が居なければロスになるし、逆に作らないと買い手が居たら売るものがなくなる。非常に難しくて、かつデリケートな問題だと僕は考えているよ」
そう言ってみると、文化祭での材料購入も、的確な量を買わねばならないな。週末の大型店での買い物に向けて、きちんとメモを作っておこう。
「まあ、わたしは食品ロスの問題をお兄ちゃんと論じたいわけじゃあないのだけれど」
「違うのかよ!」
じゃあどうして話題にあげたんだ!
せっかく、興味のある話題だから、ちょっと張り切ってノリノリで発言した僕の国を思う心、そして食材を無駄にしたくない気持ちを返せ! 速やかに返却しろ!
「まあまあお兄ちゃん。まったくもって関係ない話でもないんだよ」
「なんだよ。はっきり言えよ。もったいぶるな」
「さっき八百屋さんに行ったら、傷モノのキャベツなら、格安で箱売りしてくれる、ってさ!」
「マジで?」
「うん。箱っていうかケースなんだけど、ひとケース千円で良いよ、って。八百屋さんのおじさんが言ってたよー」
「ひとケース何玉入りなんだろう……」
「たぶん、十二くらいかな?」
「それは買いだな。でかした妹よ!」
キャベツがその値段で、しかもそれだけの量を確保出来るのはありがたい。なんてよく出来た妹なのだろうか。どうだ見てくれ世界。これが僕の自慢の妹だぜ! 僕と違って社交的な良い子なんだぜ!
よし。ならばこれでキャベツの心配はないな。
ちょっと量が多いかもしれないが、でもキャベツなら焼きそばにも使うし、なんとかなるだろう。余ったらみんなでキャベツ炒めで打ち上げすれば良いし。
「だからお兄ちゃん。キャベツ買いに行くときは、きちんと八百屋さんに挨拶するんだよー?」
「わかってるよ。人付き合いは苦手だが、礼儀とマナーは守るから安心しろ」
妹に言われることじゃねえよな……。
でも、妹が言いたくなるくらい、僕は人付き合いが苦手なのだから、言われたことに対する文句はない。自業自得に文句を言っても仕方あるまい。
ということで、いきなりで脈絡がないかもしれないが——軽くダイジェストの時間だ。
翌日の部活は休みで、僕は服を調達しに行った。
なぜ部活を休みにしたかといえば、女子は女子で、メイド服の採寸をするため無鳥の家に向かったからである。さすがにそこに参加するのは僕には無理なので。
だから僕は服を調達しに、放課後。タブレット端末を買ったリサイクルショップに単身向かった。
古着を売っているのを前回確認しているので、買いに行ったのだ。なぜ新品ではなく古着を選んだのかと言うと、単純に——フウチと休日に会うたびに新品ばかり着ていると、いよいよ僕は意識し過ぎ野郎だと思われるかもしれない、と。そう思ったからだ。いわゆる僕お得意の被害妄想である。
まあ、フウチと休日に会うのは二度目なので、まだそこまで思われる可能性は低いのかもしれないが(厳密には三回目なのだが、一回目はしぃるに会いに来たのでノーカンにしている僕)。
結果、僕が購入したのは、カジュアルなシャツとジーパン。Tシャツも買おうか悩んだけど、別に潔癖症ではないのだが、でもなんか古着のTシャツを着るのに抵抗があったので、Tシャツは帰りの駅で、駅ビルに寄って無地のTシャツを買ったぜ。
そんな準備をして、明日はいよいよ週末。
フウチとの買い物である。
夜はフウチと明日のことをラインしたり、買う物リストを作ったり——と。そこそこ忙しい夜だったが、なんとか全てを終えて、今現在僕はベッドで横になっている。
なぜダイジェストにしたのかと言えば——それはだって、僕が一人で服選びをするエピソードに、特に特筆すべき内容が無かったからとしか言えねえな。語れるようなエピソードがなかったのだ。脱ぼっちしたての僕には、一人で買い物に行ったところで、盛り上がりなんか
結構服選びに悩み時間を使ったが、それくらいのエピソードしかなかったからな。仕方ないだろ。
というわけで、ちょっとしたダイジェストは終わりにして、僕は明日に備えて眠るとしよう。
楽しみでなかなか眠れなそうだが。
また朝五時とかに起きそうな気もするが、とりあえず。そんなことを思いながら、僕は眠りにつくのだった。
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