あんにんどうふ

木浦

プロローグ

 星が見たい、と何気なく呟いたのは薄井だった。そしたら下宿内で庭で星見のブームが始まって、晴れている夜にはみんなで縁側に座って夜空を眺めるのが習慣になっていた。

 都会とも田舎とも言い切れないこの町では、町中からでも結構きれいに星が見える。

「おい見ろ浅瀬。夏の大三角が見えるぞ」

 今日庭に出たのは俺と薄井の二人だけだった。7月下旬で、雨の後だから湿気が多い。だからみんなあまり外に出て来たくない。かくいう浦井も扇子を片手に空を見上げている。

「どこにあるんだ」

 どこを見渡してもそんな三角形は見えない。見ているところが悪いのか、それとも空にないのか。

「ほら、あの十字っぽい形がはくちょう座だ。あれから見つけるんだ」

 十字の星座を探してみる。星が五つ並んで、明るく輝いている星を見つけた。確か一等星のデネブだったか。

「ああ、ようやく見つけた」

 デネブから少し離れたベガとアルタイルを見つけて、薄井の言っていた夏の大三角が見えた。

「綺麗だろ」

 薄井は笑いながらこちらを見ている。その顔は楽しそうだった。

「ああ、そうだな」

 風が吹いて来て、少し気持ちいい。

 薄井といるこの空間が、居心地がよかった。

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