マフラーの赤い糸

天音 花香

第1話

 マフラー。首に直接巻くもの。

 好きな人のマフラーは、好きな人の首に直接巻かれてるもので。だから他のどんな物より魅力的。


 その日は魔がさしてしまったんだと思う。


 放課後、先生から頼まれて集めたプリントを職員室に届けて、誰もいくなった教室に戻ると、偶然松坂春翔君のマフラーが机に置いたままなのに気がついた。


 私はふらふらと引き寄せられるようにそのマフラーに手を伸ばした。そして、思いっきりそのマフラーに顔を埋めた。

 初めて嗅ぐ匂い。これが春翔君の匂いなんだ。そう思うだけで幸せで。


 教室の扉が開く音が響いて、私はそのマフラーを手に、とっさにしゃがんで身を隠した。


「マフラー、教室に忘れたと思ったんだけどな」


 小さく春翔君が呟くのが聞こえた。

 私は心臓が飛び出しそうになるのを堪えて、息を潜めていた。

 春翔君がそのまま扉を閉めて去っていくのを震えながら待って、私は立ち上がった。

 手には春翔君のマフラー。

 顔押し付けちゃったし、クリーニングに出して返そう。

 私は家にそのマフラーを持って帰ることにして走り出した。廊下でそれを誰かが見ていたなんて気付かずに。


 数日後。

 私は春翔君のマフラーをクリーニングに出せずにいた。

 ぎゅっとマフラーを抱きしめると、まるで春翔君を抱きしめているような錯覚に陥る。マフラー相手に変態な私。

 毎日、マフラーなしで寒そうに首をすくめている春翔君。このままではいけない。

 でも、私にこんなことをされているマフラーを返されても気持ち悪いだけだと思って、私は春翔君にマフラーを買うことにした。

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