第3話

 あれから一週間経ったかな。


 お互い、学校では余り干渉せず今まで通り振舞う感じで過ごし、放課後に例の公園でコッソリと落ち合う日々が続いてる。

 まわりに色々勘ぐられるのも、紗衣子に迷惑かもしれないし。


 それで、これまでに紗衣子サイコパワーについて分かった事だが…今の所コイツの超能力、なんか全部微妙、という感じ。


 あと、多分寝て起きるとランダムに変わるらしい。

 多分と言うのは、居眠り程度だと変わらないらしいから。

 休みの日に徹夜してみた時は、ずっと同じ超能力だったらしい。

 細かい条件はもっと検証しないと分からないだろうな。

 日付が変わってから寝ると切り替わるのか、それとも深い睡眠で変わるのか…まあよく分からん。

 とにかく、そんな感じで朝起きると変わってると。

 なので”日替わり”な訳だな。


 肝心の残念な超能力の内容だが、既に体験した『水』と『スプーン』。

 その他は、というと――



 ”「今日は『瞬間移動』よ」”

 ”「えーっと、記録…2ミリ?」”


 ”「今日は『電気』よ」”

 ”「パチッとしたぞ…静電気?」”


 ”「今日は『風』よ」”

 ”「うちわの方が涼しい」”



 ――大体こんな感じだ。


「どれも、期待を裏切らない質素さだな」

「悪かったわね…」


 しかしまあ、コレどうしろっつーの。

 何か試そうにも日替わりでコロコロ変わるから、思う様に実験出来ないし。

『瞬間移動』なんてクールタイム2時間必要だしな、1時間で1ミリ分回復すんのか?

 何の能力か分からないまま一日が終わる日もあるらしい。

 多分、ささやか過ぎて気が付けないとかだろう、ハハ。


 芝生の上に寝転がり、木陰から差し込む暖かな陽光を浴びながら、紗衣子から流れてくるそよ風を感じていると…うとうとしてくる…。


「ちょっと、寝ないでよ」

「…いや、お前の風が気持ち良くて」

「そ、そう?」


 褒められてエヘヘと少し照れてる紗衣子、デレる基準が分からない。

 こいつ成績悪くないと思ってたがアホなのかね、心配だな…。


「へへ…って、そうじゃなくて!

 結局の所、あたしはどうすれば超能力を制御出来る様になるの?」

「お前な、少しは自分で考え――」

「セクハラ拡散するわよ」

「すすすいませんっ今かんがえますっ」


 くっ、弱みさえ握られてなければ…いや、どのみち協力するけどね。

 と言っても、超能力の制御方法なんぞネットで検索しても出てこないし。

 いや、出てくるかもしれないが信ぴょう性は無いし。

 そうなると、俺の知識なぞゲーム・漫画・ラノベしかない訳でな、ハハハ。


「まあ、お前の能力の成長方法が”レベルアップ”か”アンロック”、どっちなのかだよなー」

「何? どういう事?」

「経験値獲得してだんだん強くなるのか、元々持ってる能力にリミッター掛けてるか、だな。

 例えば前者なら、お前が成長しなければ大したことは出来ないが、後者だと怒りや憎しみで偶然眠っていた力が解放されたら、暴走して最悪死ぬ」

「はぁっ?! そんなの嫌よ!!」

「マ゛ー?!やり過ぎで脱水になったり、スプーンが目に刺さったり、静電気でスマホが壊れたりするかもしれん」

「何か、あんたの例えには悪意を感じるわよ…」

「冗談だ、でも脱水症状には注意しろよ」

「くっ、こいつ…」


 睨むな、恐いから。


「ほんっとにあんたは口を開けば馬鹿にして…。

 あ…でも、別に水出し過ぎても喉が渇いた事は無いのよね」

「そういや最初の公園でもそうだったな」


 自分の体内の水を使ってる訳じゃ無いのかな、そりゃそうだな。

 じゃあ何もない所から生み出してる? 水の無い場所であのレベルの”マ゛ー!”を?

 どこからか転送させて…は無いか? 不純物混ざって無いし。

 近くの川とかなら、砂とか魚なんか一緒に出てきてんだろうしな。


「やっぱり水とんの術か」

「否定出来ないから、あたしも最近は忍術かもって思うようになっちゃったじゃないの」

「それは冗談として。静電気もそうだが、物理とかで考えても無駄っぽいなー」

「そうよね、色々おかしいもの…でも、それじゃあどうすれば良いのよ?」

「俺、物理ニガテだから助かるー」

「くっ、またこいつは…」


 おい、ジト目で睨むな。


「まあ聞け、だからこそ頭悪い俺でも、色々とアドバイスは考えられる」

「ホントに大丈夫なの? 相談相手間違ったかしら…」


 失礼なヤツだな、俺だって授業聞き流しながら色々考えてたんだよ。


「正直根拠とかは無いけど、多分アンロック方式…と言うか、お前は自分で知らずに能力にリミッター掛けてるんじゃ無いかと思う」

「へえ、何でそう思うわけ?」

「最初から種類が豊富すぎるし、お前毎回あんまり疲れてないだろ」


 無意識に、あまり超能力を使わない様にしてる…俺にはそう見えた。

 実際、どこまで合ってるかは分からないがな。


「要するに、今は鍛えるとか下手な考えず大人しくしとけってのが俺の考えだ」

「…言われてみればそうね」

「使う内に慣れるかもしれないが、無理して成長させるものでもないだろ」


 あんなもの、日常生活には必要ない。面白いけどな。

 まあ様子見だ、何か判断するにしても色々足りなさすぎるし。


「俺達二人だけでなんとかするなら、だが。

 これ以上を求めるなら、それこそどっかの研究機関にでも協力してもらうしかないんじゃないか?

 どうなるか分からんし、危ない目に遭うかもしれないから…俺は絶対やめた方がいいと思う」

「…そうよね」


 ちょっと真面目に話し過ぎたかな。

 まあ、紗衣子は調子に乗って何かやらかしそうだし、この位は言っておいた方がいいか。


「…まだ俺が相談受けて一週間だし、そのうちに色々分かる事もあるだろ。

 身体が慣れれば今ほど不便じゃなくなるかもしれない。

 今はあんま無茶しないで、普通な高校生活送ってりゃいいと思うぞ?」

「そうね、無茶してるつもりは無いけど…ちょっと浮かれてたかもね」


 浮かれてた? まあ、あんな微妙なのでも一応”超能力”だしな。

 俺が紗衣子の立場だったらどうなるだろうか。


「それじゃ、結構いい時間だし帰りましょ」


 もうそんな時間か、早いな。

 今日は母さん遅くなるから、俺が飯当番だったし、丁度いいか。


「んじゃ、また明日な」

「ふふ…そうね、また明日ね」


 何わろてんねん、可愛いな。

 別に、明日逢うのが待ち遠しい訳じゃねーからな。



 ◇



「そこの男子達、少し騒ぎ過ぎよ」


 今、黒板の前で騒いでいるクラスメイトを注意した女子が、わがクラスの学級委員長だ。

 名前は知らん、みんな「委員長」って呼んでるから。


 この女は誰もやりたがらないクラス委員長などという役職に、小学校の頃から率先して就いているらしい。

 多少面倒そうだが、まあ良いヤツなんだろう。


 うちのクラスは委員長に注意されたら、大体がみんな素直に言う事聞く。

 真面目な印象だし、日頃の行いかな?とか最初は思ってた。

 腰に手をあてた直立不動ポーズのまま、ぷくーっとほっぺた膨らませて直立する委員長。

 うーん、このギャップ感。

 叱られた男子共は…バツが悪そうだけど、なんかデレデレしてんな。

 男子が素直に言う事聞くのはこういう所だろうなーハハハ。

 こいつ、これ天然でやってるんならすげーな。


 この委員長に対する女子の評判は、まあ大体輪の中心にいるから友達は多いんだろう。

 つまり、男子も女子もちゃんと委員長の力が及んでる。

 この委員長が仕切ってる間は、うちのクラスは平和だろうなー。


 で、そんな委員長は紗衣子とお友達。

 こいつらクラスカーストとか多分上の方だろうなー。

 とは言っても、うちのクラスはあんまり明確な上下関係が無い。

 校風なのかな? いや変わり者が多い? まあ自主性が高いとか言っておこう。

 あとは、そこそこの進学校だから運動部が他校に比べて少ないのも関係あるかも?

 つまり普通カースト上位を占める体育会系が、他校に比べて弱い感じ。

 とにかく、常識的な性格でリーダーシップ発揮できるヤツが居ると、クラスが平和でいいなって事だ。



 そう思っていたんだが…実は最近ちょっと問題がある。

 まあ、その紗衣子と委員長が…どうも仲が悪い気がする。

 悪いっていうか、こうギクシャクしてる。

 クラスの連中はあんまり気が付いてないだろう。俺は観察眼には少し自信あるし。


 紗衣子の机の上に置かれた水筒を見る、今日は水の日か。


 …ま、学校じゃ紗衣子とは距離置いてるし、話すことも無い。

 いつも通りにしてれば関わることもないか。



 …あれ、これフラグっぽくね?

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