第16話思いの果て、願望の到達点

それで、思い描いた特別というのはどういう感じになったの?

渡したシナリオをさらっと流し読みした彼女の感想はそれだけに留まった。

精一杯詰め込まれた夢も数々の具現化策もその琴線に響くものでは無かったようだ。

それでもこれほど反応が薄いのは想定外だったぞ…それこそ神界でのラブロマンスとか超展開パラダイムシフトとかのほうがお気に召したのだろうか?

しかし「聖典」の記述は基本的に自らが歩んできたもので紡ぐのが縛りである。

そういかに万能の器でも思い描けないものは具現化できないのが理屈であるからだ。

だがこのままでは歴史の始まりが組み立てられないぞ…いっそ方舟が必要な程の大規模リセットからやり直してみるか?

度重なるリテイクで心が折れかかった設計者の些細な気まぐれによって迷走中の世界の器は何度目かわからない存亡の危機を迎える事となった。


「…というのが今回の今回の解析するべきところなんだけど。こら!そこ露骨に嫌な顔をしない!」

「しょうがないじゃん御手洗ちゃん。この人、いや人じゃないか。この神様だがなんだか知らないけど無力すぎない?読んでて気分が重くなるのさ。」

アリサは当然と思われる感想を受け止めて同感だという思いを飲み込んだ。ここで軽々しく同意を示しては単なるお茶飲み話で終わってしまう…ここから少しでも未来が予見できなければ手の打ちようが無いほどの今の状況はより具体的な脅威となるだろう。斎木の御前にお目通りした後からその危機感はよりリアリティを増していた。

今まで何度も遭遇した人工神域の弊害や「公用地」の末裔達の領地内トラブルだけでもどれほどの不都合が起きたかわからない。それなのにこれ以上の超常的存在の気まぐれなどに付き合ってはいられないのである。

まずは実用に即する理想像の提案からやり直すか…?

怪訝な顔をして心配そうに顔を覗き込んでくる同僚に愛想笑いさえ返せない余裕の無さ。それが孕む危険性をアリサは未だ自覚できずにいた。

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