47話 文化祭デート
文化祭当日。
我が校の文化祭は土日を使って開催されるため、日曜日にリーグ戦を控えた俺は土曜日の午前中のみの参加になっている。
幸いなことに今節はホームで行われるため半日は参加できることになった。
出てくるなら働けと、朝から受付に座らされることになったのだが、想像以上の盛況ぶりで列の誘導係を出す羽目になったくらいだ。
ここまで盛況になった理由は———
「「「頑張って〜!」」」
チア姿の女子が応援してくれるというキヨ発案のオプションが原因だった。
校内一の美少女と言われる、みっちゃんをはじめ、なかなかの粒揃いの美少女目当てに男子が殺到しているわけだが、ナンバーワンはみっちゃんではなく、まりあだった。
「カッシー、カッシー。お客さんを睨まないの」
隣で一緒に受付をしているカナブンが苦笑いをしながら小突いてくる。
「別に、睨んでませんけど?」
「いやいや、めっちゃ目つき悪いよ?」
まあ、不埒な輩の視線が気に入らないのは認めるけどな?
「いや〜、柘植ちゃんエロいよね」
水色ベースのセパレートの衣装は、右肩とお腹が露出しているデザインで、まりあの場合は布面積の大半を豊満な胸が押し上げてしまっているため、肌の露出が他の女子と比べて多くなってしまっている。
「かわいい?」
朝、衣装に着替えたまりあがハニカミながら姿を見せたときには「実行委員に止められるから着替えて」と素で言ってしまったほどだ。
「これ、休憩取れるのか?」
本来ならば次の受付を担当するヤツらが誘導係に繰り上がったため、シフトが変わってきている。
「半日しかいないんでしょ? さすがに少しくらいは時間とってあげるよ。もちろん柘植ちゃんと一緒に」
オープンな付き合いをしているおかげで、こういった気遣いをしてもらえるのはありがたい。
結局、2時間ある予定だった自由時間は1時間だけとなってしまい、隣を歩くまりあは「時間がない!」とプログラムと睨めっこをするハメになった。
「どうしよう、ゆーと。一緒に行きたかったところ人気ありそうだから待ち時間で終わっちゃうかも」
「それはもったいないな。仕方ないからフリーで回らないか? そうすれば焦る必要もなくなるだろ?」
「う〜ん? そう、ね。そっちの方がいいかも。じゃあ気楽にいきましょうか」
クルンと反転したまりあがうれしそうに手を繋いで歩き出した。
「随分と盛り上がってるな」
歩くこと数メートル。ウチのクラス同様、行列ができているクラスがあった。
ひなと光輝のいるクラスだ。
「たしかZOOカフェやるって言ってたわよね?」
「たしかな? って、あれ光輝じゃないか?」
列の最後尾ココと書かれたプラカードを持ち、某ネズミ耳のカチューシャを付けた光輝が、女子に『かわい〜!』と言われながらパシャパシャとスマホで激写されていた。
「キャー、カワイイ」
「棒読み、無表情で写真撮るのはやめなさい」
ほかの女子にならって光輝を至近距離で激写すると、まりあから呆れ顔で突っ込まれた。
「やあ
女子に包囲されたままの光輝が、爽やかな笑顔をするもんだから周りの女子から「きゃ〜!」という黄色い歓声が上がる。
「お前、どこのアイドルだよ?」
「ん? 強いて言うなら夢の国じゃないかな?」
俺の皮肉まじりの問いかけに光輝は素で答えるもんだから、まりあから『天然ジゴロ』というありがたくない称号をいただいてしまっていた。
「15分くらいで入れると思うから並んでってよ」
「あまり時間が———」
「こうくん、交代だっ……、へぇ? ゆ、ゆうくん? な、なんでいるの⁈」
教室の窓から顔を出したひなが、俺を見つけると目を見開いて驚いている。
「呼び込みに捕まったんだ、にゃあ」
「やめてっ!」
白い猫耳を着けたひなに合わせた語尾にしてみたのだが、本人は顔を赤らめながら両手で俺の視界を遮った。
「あらっ、かわいいわねマリーちゃん」
追い討ちをかけるようにまりあがからかう。そうか、あの白い猫耳はマリーちゃんだったのか。
「……そう言う柘植さんは、……エロいね」
チア姿に俺の上着を着させているので、逆にチラリズム発動中である。
「まあまあ、2人ともかわいいってことで。
「あ〜、いや、とりあえず雰囲気味わいたいから。じゃあな」
光輝の呼び込みを断り、まりあと校内デートを再開した。
「いいな」
ボソッと呟いたひなの声は、小さいながらもしっかりと聞こえていた。
あまり時間がない中でも「デートらしいことをしたいわね」というまりあの希望で3年生の占いの館に行ってみた。
「ん、座って」
暗幕で覆われた教室の中、ローブに身を包んだ女生徒に促されて席に座ると、その女生徒は水晶もどきの球体の置かれた机をガタガタと退かしておもむろに俺の膝の上に座ってきた。
「ちょ、ちょっと?」
突然の事態に焦ったまりあが抗議の声を上げると、女生徒はフードを外して振り返った。
「
変化の乏しい表情でじっとまりあを見つめる膝の上のアネゴは俺の股間を刺激するかのようにお尻をグリグリと動かしてきた。
「し、白鷺先輩⁈」
目を見開いて驚くまりあが、実力行使でアネゴを排除し、警戒しながら俺の膝の上にちょこんと座った。
「むっ、そこはわたしの場所」
ビシッと指差すアネゴに、まりあはつーんと澄まし顔で受け流した。
「あら、残念。ここは彼女たる私の場所ですよ先輩」
バチバチと火花を散らす2人。
「そのおっぱいで籠絡したのね。けがらわしい」
「ふふふ。そんな言葉、嫌味にもなりませんよ? 私たち、相思相愛なので」
「ん、いい。それが本当か占ってあげる」
ガタガタと机を戻して、その上にタロットカードを広げたアネゴ。あの水晶もどきの存在は?
「アネゴ、タロット占いなんてできたんだな」
占いなんて信じなさそうなのに意外だなと思っていると、カードを動かす手がピタリと止まった。
「……ん」
「なんだよ、その間は!」
「大丈夫、このために覚えた」
「付け焼き刃か!」
まあ、アネゴが占ってくれるってのがウリなんだろう。俺自身、占いなんて信じてないから別にいいんだけど、詳しい人が見れば素人だって見抜かれるんだろうな。
それでもアネゴのカリスマなら誤魔化してしまいそうだ。
「ん。私が
「タロット関係ないだろ」
「マ、ママは私ですね」
ちょっと期待していた俺が間違っていた。身内にはとことんポンコツらしい。
的確な俺のツッコミと対抗心を露わにしたまりあのツッコミ。照れるなら言わなきゃいいのに顔が真っ赤だ。
「ん。近々、変化が訪れる。焦らずいつも通りを心がけて」
一応、占いはしてくれてたらしく、アネゴがカードを見ながら教えてくれた。
この後、屋外でやっているイベントを見てから俺は早退をした。
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