34話 相談処 みっちゃん
やばい。
やばすぎる。
今日のマリアはなんだったんだ! いや、まあ、俺も全て受け入れちゃったんだけど!
でも、今日のマリアを前にして抗えるやつがいるか? と、いうか必要あるか?
『私の場所だから』
最後のマリアの一言って、そういうことだよな?
「参ったなぁ」
思わず溢れる本音。
マリアが嫌だなんてことはない。むしろ好きだと言っていい存在だ。一緒にいたいと素直に思える。
でも、付き合うとなると……。
理屈の上では理解している。ひなの両親のようにずっと仲のいい夫婦だっていっぱいいる。
それでも、不安がなくなることはないのかもしれない。
心にぽっかりと空いた穴。
穴は小さくなっても、塞がる気配はない。
それでも……、そんな穴を必死に塞ごうとしてくれているのは、間違いなくひなだった。
俺ですら無意識でどうしようもない感情をさらけ出させないようにしてくれている。
幼馴染だから?
幼馴染なんてそんな大業な存在じゃないだろ?
お人好し? 確かにひなは優しい。
その理由が幼馴染だからと言うのには無理があるだろう。
「一度、話してみるか」
マリアのことも、ひなのことをもっと知らないといけない気がしてきた。
♢♢♢♢♢
「おはよう、みっちゃん」
「やあ、おはよう
翌週の月曜日。
教室につくと、いつもと同じようにみっちゃんに声をかけた。
「ああ〜、マリアに聞いたんだ?」
「ふふふ。随分と興奮していたよ。今度は私ともデートしてみるかい?」
読んでいた小説にしおりを挟むと、みっちゃんはからかうような素振りはなく微笑んでくれた。
「……そうだな、お願いしようか」
「ふ、ふぇっ⁈」
あれ? 自分で言い出しておいて何その驚いた顔。
「ちょうど相談したいことがあったんだ。時間取ってもらえる?」
「な、なんだ。そういうことね。あ、ああ。問題ないよ。……そうだな。明日は練習後、バイトはない日でしょ?」
「ああ。ってか、よく俺のスケジュール知ってんね」
「マリアに聞いたんだよ」
知らない間に俺のプライベートが晒されてんな。
「なるほど。じゃあ、明日の夜でいい?」
「ああ。夕食を用意するからお店まで来てもらえるかい?」
「了解」
やはり頼るべき人は幼馴染でもあり、親友でもあるみっちゃんだな。
同じ幼馴染のひなも、親友の光輝も今回は当事者だから相談できないし。身内のアネゴは論外だろう。
「で、
珍しく机に突っ伏した状態で、顔だけを俺に向けている。
覚悟?
それはマリアに対してのことだろうか?
それとも?
みっちゃんと同じように机に突っ伏して考えてみる。
マリアに対してはもう決まっている。ただ、それはマリア自身の考えが変わっていなければ、だ。
「なあ、みっちゃんの言う覚悟ってのは———」
「お、おはよう、
教室に入ってきたマリアが鞄を持ったまま、直接俺たちのところにやってきた。
「お、おう。おはようマリア」
「やあ、おはよう真理亜。外は暑かったようだね。顔が少し赤い」
俺たちの様子を見たみっちゃんは、口元を手で覆いながらクスクスと笑っている。
「み、みっちゃん⁉︎」
朝一からのみっちゃんのツッコミにマリアは平静を保てずにいるみたいだ。
「おはようマリア。確かに赤いみたいだけど大丈夫か?」
「も、もうっ!
俺の隣まできたマリアは歩いてきた勢いのまま、トンっと体当たりをしてきた。
「別にからかってねぇって。俺はね?」
「あははは。私だってからかってないさ。事実を述べたまでさ」
「ふんだ、2人とも。覚えてらっしゃい」
2人と言ったはずなのに、なぜだか俺にだけ猫パンチが浴びせられた。
♢♢♢♢♢
翌日の放課後、約束通りお店に行くとすでにテーブルに料理を並べ終えたみっちゃんが出迎えてくれた。
「悪いな、みっちゃん。話聞いてもらう上にメシまで用意させちまって」
「ん? 遠慮する必要ないさ。
コトンとお茶を置いたみっちゃんが正面に座り、「「いただきます」」と手を合わせた。
「んで、話しなんだけどな」
「早速だね。食べながらで大丈夫?」
「まあ、みっちゃんだし」
「……それは喜んでいいのだろうか?」
いったん箸を止めてジーっと見つめられたかと思うと、肩をすくめてクスリと笑った。
「私たちもそれだけ特別な関係と言うことだね。仕方ない、
気の置けないというやつだろ?
親しき仲にも礼儀ありだが、そこまで深い話じゃない。
「実はさ———」
♢♢♢♢♢
「なるほど、真理亜と陽菜乃との間で揺れてるということだね?」
「おいっ、どうやったら今の話しでそんな解釈ができるんだよ」
マリアとの距離が縮まる中、男女の仲というものを意識させられていること。
ひなが実は光輝とは付き合っていないんじゃないかという疑念が浮かんだこと。
「まあ、冗談はさておき。私に相談するくらいなのだから相当、真理亜には気を許しているってことだね。付き合っても大丈夫なんじゃないかって」
「……いや、こんなこと俺が悩むこと自体、おこがましいことなんだけどさ、マリアが望んでくれるならアリなのかなって。ただマリアもさ、俺と同じで付き合うって選択肢は容易に選ばないと思うんだよ」
「なぜ?」
「俺はきっと付き合ってしまうと相手のことを常に疑ってしまう」
女なんて、とは言わない。でも、信用していた母親が家族を裏切り消えたんだ。思春期の俺にとってはトラウマになるには十分な出来事だ。
「それは……」
「わかってる。マリアを信用してないわけじゃない。原因は俺にある」
苦笑いを浮かべながら、気を紛らすかのように味噌汁をすすった。
「前にマリアと恋愛観みたいな話をしたんだけどさ。まあ、お互いにあまり興味がないっていうか。どこか相手に対して信用しきれないところがあるって」
「真理亜も?」
「ああ。あの見た目だからさ。下衆な視線を浴び続けてきたのが原因みたいだ。みんながみんなそっち目当てだと思っちまうんだろうな」
俺も人のことを言えないが、男のサガでどうしても目で追ってしまう。女性はそういう視線には敏感らしいからな。寄ってくる男を信用できないのは仕方ないのかもしれない。
「でも、
「いや、そんなこと言ってねぇよ」
揶揄うような言葉に思わずつっこんでしまった。
「そうかい? でもマリアが
「……それは、まあ」
あの態度が演技だとしたら、それこそ俺は2度と立ち直れないだろうな。
「ふふふ。
そう言うみっちゃんの表情は優しげで、否定する気にはなれなかった。
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