14話 熱狂的サポーター
「あんた、いつまでむくれてるのよ。ある意味、自業自得なんだから諦めなさい」
お姉ちゃんに
「お母さんだけ、ずるい」
仕方ないので、無関係のお母さんに矛先を向けておいた。
♢♢♢♢♢
ゆうくんの家から追い出された私は、渋々ユニフォームを脱いでTシャツに着替えた。お母さんには不思議がられたけど、まあ、仕方ないよね?
お姉ちゃんの車で試合が行われるステノクの練習グラウンドに行くと、すでに駐車場は埋まりつつあった。
「あ〜、しまった! ウチの学校の父兄も見にきてるのね。学校近いから応援団も多そうね」
いつものユースチームの練習試合では車が停められない程にはならないけど、今回はウチの高校が相手。近くということもあり見に来る父兄が多いのかもしれない。
それに加えて、今回はステノクのHPでも練習試合を盛り上げて欲しいと取り上げられていた。
空きスペースを求めて駐車場を回っていると、隅の方にウチの高校のスクールバスを発見した。
「コウくんたち、もう着いてるみたい。みっちゃんも着いてるかな?」
いつもならみっちゃんも一緒に来るのだが、今日は柘植さんと一緒に来るという話を聞いたので基幹バスなら先に着いてるかも。
グラウンドに着くとすでに星陵のみんながアップを開始していた。ゴールマウスからはコウくんの大きな声が響いていた。
「全体的にシュート浮き気味だぞっ! アップから浮ついてどうするんだ! 落ち着いていつも通りだぞ!」
コウくんの指摘通り、ボールがゴールの上を越えていく回数が多いみたい。
「しっかり踏み込めてないぞ!」
星陵ベンチに近づくと松本先生からも檄が飛んでいた。
「りゅ、ま、松本先生。お疲れ様です」
校外で気が抜けてたのだろうか? りゅうくん呼びをしかけたお姉ちゃんがワタワタと声を掛けた。
「ああ、宮園先生。応援ありがとうございます。えっと、陽菜乃くんと……お姉さん、ですか?」
事前にお母さんと一緒に行くって言ってあるはずなんだけど、松本先生バス「あれっ?」という感じで小首を傾げている。
「あらっ、娘が
松本先生と初対面のお母さんは口元を手で隠して笑いながら挨拶をした。お姉ちゃんとお付き合いしてることは把握済み。
お姉ちゃんも本当は恋人ですって報告したいんだけど生徒の手前、また今度改めて家に招待することになってるみたい。
「あっ! お母さんでしたか! サッカー部顧問の松本です。宮園先生には大変お世話になっております。本日は応援に来ていただいて、ありがとうございます。よろしければこちらで一緒に見ていきませんか?」
松本先生の誘いにお姉ちゃんはベンチ真後ろの席に腰を下ろしたが、お母さんはニッコリと笑みを浮かべて先生に答えた。
「いえいえ。ごめんなさいね先生。娘たちとは一緒に来ただけで私は
軽く頭を下げて意気揚々とホーム側の観客席に向かって行った。
「息子? 宮園先生、弟さんいたっけ?」
松本先生の問いかけにお姉ちゃんは苦笑い。
「いませんよ。息子同様に可愛がっているお隣さんです」
「ああ、なるほど」
納得したような表情を横目にお母さんを追いかけようとすると、背後から声をかけられた。
「宮園さんも沢村の応援でしょ? こっちで一緒に見ようよ」
「そうだよ。彼女なんですから特別にベンチに招待しちゃいますよ」
サッカー部員に誘われてどうするべきか悩んでいると、練習を切り上げてきた小倉くんにも声をかけられた。
「遠慮しなくていいよ。姉妹仲良くご招待〜」
これが決め手になり、おとなしくお姉ちゃんの隣に座った。
「ほらほらっ、かわいい顔が台無しよ? 光輝くんの彼女なんだから当たり前でしょ? 今日のところはゆうくんの応援はお母さんに———みっちゃん? おはよう。応援にきてくれたのね」
お姉ちゃんの視線を追っていくと、みっちゃんが柘植さんを伴って歩いてきた。
「おはよう、かやさん。陽菜乃もおはよう」
いつも通りの爽やかな笑顔に星陵ベンチは活気づいた。
「相根さんが俺たちの応援に⁈ 」
「ステノク? 俺たちには相根さんがいるじゃないか!」
「隣には柘植さんまでいるぞ! かやちゃん、宮園さんもいるんだ。俺たちに負ける要素なんてない!」
美女の登場で色めき立つベンチ。う〜ん。マネージャーさんたちもかわいい子揃いなのに、見慣れて有り難みが薄れてるのかな?
「みっちゃん、柘植さん。良かったら一緒に見ない?」
みんなの士気も上がりそうだし、みっちゃんとは一緒に観戦することはよくあるけど柘植さんとは初めてだ。
ゆうくんの活躍を余すとこなく伝えたい。そして、柘植さんもゆうくんのサポーターに! もちろん、プレイヤーとしてのゆうくんの。プライベートなサポートは幼馴染の私だけの特権。
心の中で、どうやって柘植さんを洗脳しようか悩んでいたが、その必要はなくなった。
「いや、私は
不敵に笑うみっちゃんは、そのままステノクの応援席に歩いて行った。
「
「おいっ! 相根さんに彼氏いたのか? しかもステノクに?」
みっちゃんの発言は、プライベートの見えない謎の美女と呼ばれる彼女のラブロマンスとも受けとられるもので、同時にゆうくんの校内での認知度の低さをも露見させた。
ヒラリと身を翻したみっちゃんの背中に思わず声をかけた。
「み、みっちゃん! そ、その服、まさか!」
みっちゃんの着ている空色の薄手のパーカーの下に、薄っすらと赤く「4」という数字が見えた。
「服? ああ、これかい?」
私の声に気づいたみっちゃんがハラリとパーカーを脱ぐと、白地に朱色の大きな星が描かれたステノクのセカンドユニフォーム姿を露わにした。
「私はアウェーにも応援にいくだろ? まあ、今日はホームでの試合だけど気分的にアウェー感があったからこっちにしたのさ。サードユニフォームも探してたんだけどネットでも品切れでね。いま
にチーム関係者の方に入手できないか聞いてもらってるところだよ」
私同様、「YUTO」のネーム入りユニフォームを持っていたみっちゃん。当たり前のようにホームユニフォームも持っていることだろう。
隣にいる柘植さんがギョッとした目でみっちゃんのユニフォーム姿を見つめている。
「あらっ、さすがみっちゃんね。じゃあ今日は私
グゥの音も出ない私に代わり、お姉ちゃんが爽やかな笑顔と共にみっちゃんを見送った。
♢♢♢♢♢
「あのっ、宮園先輩」
みっちゃんを見送ってしばらくした後、1年生のマネージャーさんに声をかけられた。
「あっ、うん。どうしたの?」
「私、1-Cの
「うん。幼馴染。あっと、うちの生徒だよ?」
さっきのやり取りから、ゆうくんの正体を導き出した小柄な少女はポニーテールの短いシッポを左右に揺らしながら興奮しだした。
「柏原選手、うちの生徒だったんですか? 私、ステノク大好きで中学の頃から試合もよく見に行ってるんです。まさか先輩にステノクの選手がいるなんて! あの、ひょっとしてサインなんてお願いできますか? 今日はユニフォーム持ってきてないんですけどできればユニフォームに! あと、ツーショット! 一緒に写真撮ってもらい———、きゃん! 何するんですか!」
興奮しながら私に詰め寄ってきた花巻さんの頭に、他のマネージャーさんの手刀が落ちた。
「紗智、うるさい。その子困ってる。今日は試合に来てるんだからそういうのはまたの機会にしなさい」
淡々と説教をするメガネ姿のマネージャーさん。きっとうちの高校では知らない人はいないくらいの有名人。
「あははは。
3年生の
隠れ美人としても有名なのだが、本人は恋愛に興味がないらしく、淡々とした口調も相まって「氷の女帝」とも呼ばれている。
「はいっ! 中でも柏原選手は今季大注目の選手で、山懸選手が抜けてどうなるのか心配だったディフェンス陣をうまくまとめ———、ひゃん! 何するんですか早苗先輩! 猫じゃないんだから首根っこ掴まないで下さい!」
興奮する花巻さんはまたしても白鷺先輩から戒められる。
「今日はステノクサポ禁止と言った。ちゃんとマネージャーやる」
メガネの奥の瞳がキランと光り、白鷺先輩は花巻さんの首根っこを掴んだままベンチの隅に追いやっていった。
「ここにもゆうくんの熱狂的ファンがいたか。うんうん。ゆうくんに春がくる日もそう遠くないかもね」
満足そうに頷くお姉ちゃんに、私は動揺を隠せなかった。
ゆうくんに彼女⁈ ど、どうしよ〜
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