汽車雪〜雪の日、おじさんは少女に出会う〜

金魚屋萌萌(紫音 萌)

第1話 雪の降る夜に

 北野山きたのさん駅駅長、西田卓郎にしだたくろうは最終列車を見送り、はあと溜息をついた。


 ポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確かめる。あと少しで午後十一時を回ろうとしていた。次の始発列車は午前六時。後七時間ある。


 帽子をかぶり直しつつ、空を見上げる。すると、雪がパラパラと降り始めているのが見てとれた。


――綿のような、軽い雪だった。


 降り始めだからこの先どうなるか分からないが、この調子で降ればそこまで積る事は無さそうに思えた。


 忘れ物を確認するつもりで、ホームを歩きながら点検する。そこに一人の子供がいるのに気付く。さっき、列車を見送る時にはいなかったはずだ。


 今、こうして列車を待っていると言う事は、多分最終便に乗り遅れた事に気付いていないのだろう。その子供はベンチにちょこんと腰掛けていた。パーカーについてるフードを被り、バックを胸に抱いている。


 「列車を待ってるのかい?」と僕はその子の前で中腰になり、話し掛けた。


 可愛らしい女の子だった。ショートヘアーで目はくりくりとしていた。しかし、その表情は少し曇っている、そんな風にみえた。


 その子は話しかけられた事に少し目を丸くして、驚いていた様子だった。でも、首を縦に振ってうなすいた。


 「あのね、今日はもう列車は無いんだよ」そう言うと、やはりその事を知らなかったらしく「え」と言うような表情をした。


 「だから、今日は一旦お家に帰って、明日の朝出直すといいよ。切符払い戻してあげるからさ」


 少し考えた後、首を横に振った。


 「このまま待つの?」


 こくん、と首を縦に振る。


 「でも、雪も降ってきたし、風邪引いちゃうよ」


 何も言わない。フードをかぶり直し、軽くうなずく。これで寒くないよ、というかのように。


 「本当にいいの?」


 縦に振る。


 本人が始発まで待つと言うのなら止める事は出来ない。僕は仕方なく立ち上がる。


 「もし、帰りたくなったら、あそこにいるから声掛けてね。切符払い戻してあげるから」駅長室を指差して言う。

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