ベビーシッター

ハル

第1話 迷子の子

「なあ侑木(ゆうき)お前ん家、お金持ちのボンボンだろう? しかも子宝に恵まれてるしお金にも恵まれてるって凄くね?」


「………………」


「なあ、俺達にも恵んでくんね? お・か・ね。有り余ってんだろう?」


「てめーらみてーな薄汚ねー野良犬ごときに、やる金なんて一千もねーな! 失せろ!」


「何だと!? てめぇ」




ドカッ



ドカッ



あっという間にやっつける彼。




侑木 劉真(ゆうき りゅうしん)、14歳。



そして、その姿を偶然に目撃した私。

あれは中学の時だった。




カッコよくて


ボンボンで


モテモテぶりな彼で


告白も多い中


誰一人とも


付き合おうとしなかった


中学に入り3年間


クラスが別れる事なく


今を至っているけど


彼と私は


ただのクラスメイトなだけで


話す事も何もなかった


日々だったんだけど ――――




私、希沙良 優梨(きさら ゆり)

15歳。


子供が大好きな女の子。


だから保母さんの職業に憧れる。





そんなある日の事だった。

高校に入学する前日、私は街に一人で出掛けた。


とあるデパートで ―――




グイッと、私の洋服を引っ張る人影。


振り返ると、そこには小さな可愛い女の子の姿。



3歳~5歳位だろうか?



「ん? 何? どうしたの?」



私は、子供の目線に腰をおろす。



「……お兄ちゃん……」

「えっ?」

「お兄ちゃん……探して」

「お兄ちゃん!?」


「うん。背が高くて、カッコ良くて、凄い優しいんだよ」

「そうなんだ。お兄ちゃんの名前は言えるかな?」



女の子は首をかしげるが、左右に首を振る。



「……そうか……」




探すといっても


何の手掛かりもないのであれば、どうする事も出来ない。


迷子センターに連れて行こうとした、その時だった。




ピンポンパンポン……



「迷子のお知らせをします……赤いTシャツに白いズボン……4歳の女の子で……」



店内に放送か流れた。


完璧一致する。



≪もしや……この子……≫



「ねえ、いくつかな?」

「4歳……」

「名前は何?」

「あかね」



ビンゴだ!



本来ならこっちから連れて行き店内放送してもらうけど、どうやらお兄さんも探していたのだろう。



私は迷子センターに連れて行く事にした。




「あのー……」

「あっ! お兄ちゃーんっ!」

「あかねー! 良かったぁーっ!お兄ちゃん心配したぞー!」




ドキン

安心した笑顔で妹を抱きしめ頭をワシャワシャとしている。



≪……お兄ちゃん……って≫

≪コイツ……確か……同級生の……≫

≪つーか……別人じゃん≫



「すみません! 助かりました。……あれ? お前は確か同じ中学だった……悪いマジ助かった」

「あ、うん。別に全然良いよ」

「ほら! あかね、お姉ちゃんにありがとうってお礼言いな」

「うん。お姉ちゃんありがとう!」



満面の笑顔で言う女の子。



≪可愛い~♪≫



こっちまで笑顔になってしまう。



「いいえ~良かったね! お兄ちゃん見付かって! というよりも、会えて良かったね! が良いかな?」



ニコニコ笑う女の子。


マジ可愛い過ぎ♪



≪可愛いなぁ~♪≫



「サンキュー」



同級生の彼、侑木 劉真が笑顔を見せて言う。



ドキッ



≪こっちもこっちで反則なんですけど……≫



今まで見た事ない、彼の笑顔に胸がざわつく。



「あ、うん。妹の方から、お兄ちゃん探してって言われちゃって、そのタイミングで店内放送が流れたから、こっちも助かった。それじゃ」


「ああ」



私達は別れた。





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