278話 一触即発の予感? -3-
我々オオバ探検隊は、前人未到のジャングルへと分け入っていた。
このジャングルには、人知を超える恐ろしい魔獣が生息しているという噂が――
ガサガサッ!
その時、ジャングルの中からオオバ隊長の目の前に姿を現したのは――!?
「ダーリン、何やってんだい?」
「出たー! 魔獣ー!」
「魔獣なんかいやしないよ。アタシが覇気を拡散して威嚇してんだからね」
いやいや、俺の目の前に覇気とかいうのを拡散している魔獣がいるんだが。
「ヤシロ君、森に入ってから静かだよね~☆ 怖がりさんなのかなぁ? くすくす~☆」
そりゃマーシャはいいだろうさ。
メドラに付きっきりでガードしてもらえるんだからよ。
こっちはちょっとした油断が命取りになりかねないのだ。
俺には、守らなきゃいけないヤツもいるしな。
「ジネット。それにみんなも、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、お兄ちゃん! 魔獣が出たら、あたしがお兄ちゃんを抱えて逃げるですから!」
「……何があっても、ヤシロはマグダが守る」
いやいや、俺の言った「大丈夫か」は、「ちゃんと俺を守ってくれるんだろうな?」って意味の「大丈夫か」じゃなくてだな! ……まぁ、正直物凄く頼もしいけれども。
「狩猟ギルドのみなさんも守ってくださっていますし、デリアさんやイメルダさんもいてくれますから、安心ですね」
「うぅ……けど、あたい、今日はドレスだからなぁ……」
「アタシもいるから大丈夫さね。まぁ、悪い気配は感じないし、油断さえしなけりゃどうってことないさね」
ドレスのスカートを押さえて恥ずかしそうに俯くデリアと、大胆なスリットの入ったドレスから惜しげもなく脚線美を覗かせたノーマ。
ノーマはやる気満々だ。ちょっと激しい戦闘でスリットがさらに深く切れ込んでも構わないという姿勢だ。
首元までざっくりと切れ込めばいいのに、スリット。
「ワタクシも、愛用のハンドアックスを持っておりますし――」
豪奢ながらも破壊力のありそうなハンドアックスを持ち上げ、イメルダが目を光らせる。
「――いつお父様が発作を起こしても止められますわ」
「イメルダさん、それは『息の根』の話ですか!?」
ロレッタの問いには答えず、にやりと笑みを深めるイメルダ。
『息の根』っぽいな、止められるの。
「あと、植物にも気を付けろよ。妙な魔草が生息してるかもしれないしな」
以前俺は、ほんのちょこっと外の森に入った際に記憶を喰らう魔草に寄生されてしまった。
……なんか俺、魔草に嫌われてるのかも。
「そうです。お兄ちゃんは魔草のトラップにすぐ引っかかるですから、みんなで守ってあげるです」
「てんとうむしさん、生花ギルドの森でも、すぐ捕食されるし、ね?」
「うふふ。ヤシロさんは、魔草にも好かれてしまうんですね」
いや、笑い事じゃねぇんだわ、ジネット。
あの人食い植物とか、ミリィがいなきゃ俺完全に食われちゃってるからな?
「とりあえず、警戒はし過ぎるくらいでちょうどいい」
過剰であろうと、何もないのが一番だ。
「街に戻ったら、魔草に寄生された経験のある俺が全員の胸をチェックしてやるよ」
「みんな、警戒しておくさね」
「全員のおっぱいが狙われていますわね」
「……警戒は、し過ぎるくらいでちょうどいい」
「お兄ちゃん、リビドーが正直過ぎるです」
「もう、ヤシロさん。懺悔してください」
親切心なのに!
親切心の向こうに、ほんのわずかな淡い期待を抱いていただけなのに!
「俺って信用ないんだなぁ……」
「日頃の行いを悔い改めたら、信用されるかもねぇ~☆」
ちゃぷちゃぷと、楽しげに水音を鳴らしてマーシャが肩を揺らす。
俺たち一団の周りは、狩猟ギルドの狩人たちががっちりとガードしてくれている。
中心部には領主たち。
その周りを各区の給仕長や執事たちが守っている。
少し離れた後方を俺たち一般参加者が歩いているわけだが、そばにメドラがいてくれるのがとにかく心強い。
ハビエルは、領主たちのそばで周りを警戒している。
あっちはあっちで、ハビエルがいることで安心を得ているのだろう。
この二人が現役でいてくれて本当によかった。
ただ、どっちのギルドも、ギルド長に続く者がいないんだよなぁ。
ナンバー2でさえ、トップには遠く及ばない。
「メドラ。ちゃんと後継者を育ててくれよ」
「い、いやだよ、ダーリンっ! こんな大勢の前で、アタシの子供が欲しいだなんて!」
「言ってねぇよ!」
グスターブでもアルヴァロでも誰でもいいから育てとけって話だよ!
メドラの遺伝子が継承されるなら、それこそ心強いけれど、その場合、確実に一人の犠牲者が生まれてしまう。
メドラの婿という名の犠牲者が。
世界の平和って、尊い犠牲の上にしか成り立たないものなのかねぇ……
「……ヤシロの犠牲は無駄にはしない」
「誰が犠牲になどなるものか」
縁起でもないことを言わないように、マグダ。
よし、メドラがちらちらこっちを見てくるからマグダバリアーだ。
何気にメドラはマグダを気に入っていて、マグダが可愛い格好をしていると視線が自然とそちらへ向くんだよな。
メドラの後継者はマグダになるかも……いや、あそこまでムキムキにはならないでほしいし、誰か別のヤツが跡を継げ。
「そういや、ウチの金物ギルドもギルド長がもうかなりのジジイだし、跡目はどうなるんかぃねぇ?」
「金物ギルドだったら、ノーマじゃないのか?」
「お断りさね。アタシは偉いさんが顔を突き合わせて腹の探り合いをするような会議なんて嫌いなんさよ。トップに立つより、現場で腕を振るっていたいさね」
「分かるなぁ。あたいも、そうだな」
「いや、あんたはもうすでにギルド長さよ……え、忘れたんかぃ?」
大丈夫大丈夫。
デリアの認識だと、ギルド長ってのは現場で一番張り切るヤツのことだろうから。
会議とか、あんま顔を出しそうにないしなぁ。
オメロあたりがうまくやってんのかね。
「その点、陽だまり亭は安泰です! あたしとマグダっちょがいるですから!」
年齢、ほとんど変わんねぇじゃねぇかよ。
「……店長が年老いたら、マグダが跡を継ぐ」
四歳しか違わないのに!?
その頃にはお前も結構なばあさんになってると思うぞ。
「……そして、マグダが年老いて動けなくなったら、あとはロレッタに任せる」
「待ってです!? あたしマグダっちょより年上ですよ!?」
「……平気。ロレッタはきっと、その年齢でも騒がしい」
「くぉう、完全に否定できかねるですけど…………騒がしいってなんです!? あたしは元気なだけであって、騒がしいまではいってないはずですよ!?」
「ロレッタ。騒がしい」
「くゎああ! パウラさんはいつもこーゆー時に乗っかってくるです!」
森の中にいても騒がしいな、お前らは。
魔獣が寄ってきたらどうすんだよ。
「後継者ですか……」
ぽつりと、ジネットが呟く。
少し考えて、困ったように眉を曲げ、それでも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「まだ考えられませんけれど、とりあえずお祖父さんくらいの年齢までは現役でいたいですね」
「じゃあ、まだまだ先の話だな」
「はい。それまでに、少しでもお祖父さんに近付けていればいいのですが」
お前はまだ半人前のつもりなのか?
案外、祖父さんの方はもうとっくに抜かれたつもりでいるかもしれねぇぞ。
「でも、一番気になるのはエステラだよね」
ネフェリーが、前の一団の先頭を歩くエステラの背中を眺めて言う。
「エステラの次は、どんな人が四十二区の領主になるのかなぁ」
それは、まだまだ遠い未来の話だ。
どうなるのかなんて誰にも分らない。
エステラ自身だって、きっと分かっていないだろう。
だから、今の時点ではっきりしていることだけを、言葉にしておこう。
「次期領主が男だろうと女だろうと――ぺったんこなのは間違いないな」
「そこじゃないですよ、あたしたちが注目してるとこ!?」
人となりなんぞ、それこそ分かりようがない。
「どうなるかは分かりませんが――」
ジネットが、街門の方を振り返り、四十二区を見つめて言う。
「変わらず、素敵な街であり続けてほしいですね」
最貧区と言われ、見下され続けていた四十二区。
そこに、大勢の領主が集まり、新たな事業に注目を寄せている。
四十二区は変わった。
これからも、どんどん変わっていくだろう。
将来、ここがどんな街になっているかは分からない。
……が、まぁそうだな。
今後四十二区を担っていくことになる、今俺の周りにいる若い世代を見渡せば――それなりにいい街になるんじゃないかと、期待をしてやるくらいはしてもいいだろう。
俺も、いい街になった方が、稼げるからな。うん。
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