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現れたのはズブロフを越える偉丈夫。灰色の短い髪、三白眼の落ちくぼんだ眼に大きく薄い唇の口、しゃくれた顎。黒一色の戦闘服の袖には索敵隊の部隊章、襟の階級章は大尉。彼が中隊長か?
大きく筋肉の盛り上がった二の腕には、一対の刺青。右には首に縄が巻きつけられ舌をだらりと口から出し大きく股を開き陰部を晒した女の死体、左にはその死体が腐敗し肉が零れ落ちた様がそれぞれ彫られている。
「おや?おやおやおや?慰安婦のネェちゃんと思いきや、そのなりから察するに委員会から来た
どっと下品な笑いで場が盛り上がる。
中隊長の異様で威圧的な成りと場の雰囲気に一瞬気圧されたが、気を取り直し。
「私は合同保安委員会のマーリェ・ツェルガノン。貴方が中隊長のソブロ・ゴルステス大尉ね?」
「いかにも」
「だったら、このバカみたいな行為を今すぐ辞めさせなさい!」
ゴルステスは空を見上げる。
「何のことだ?」
「捕虜の虐待よ!同盟軍統一軍法違反だわ!」
「ああ、あれか?ありゃ、捕虜の尋問だ。中々口を割らねぇんで脅してるんだよ。てめぇら委員会みたいに、殴る蹴るケツやアソコの穴に電極ぶち込むよりゃ遥かに人道的だろ?」
「じゃ、あの金の入った缶はなに?」
「まぁ、息抜きってのも必要だわぁなぁ」
そう言うとゴルステスは、腰をかがめマーリェの顔に自分の顔を近づけ睨みつけながら鼓膜を強かに叩く大声で笑う。それにつられて部下たちも馬鹿を笑いを始めた。
沸き上がる怒りとゴルステスの口臭から顔を逸らすため顔をそむける。
ふと一つの天幕が目に飛び込んだ。
それと同時に天幕の出入り口から殆ど裸の男がぐったりした浅黒い肌の有尾人の少女を引きずって現れた。股間と尻からは夥しい出血が。
「おい、コイツもう壊れちまったぞ!よがり声もあげやしねぇ、替わりあるだろ?替わり!」
マーリェは総毛が起つのを感じた。ズブロフに小声で「あの子の手当てを」と命じ、彼は衛生要員の肩を無言で叩き走らせる。
衛生要員が半裸男を突き飛ばし少女の容態を診始めたのを確認すると、ゴルステスを睨み返し。
「あれも息抜き?」
「息抜きの最たるもんだろうがよお嬢ちゃん。戦い疲れた男の魂を癒すのは女の柔肌って相場が決まってんだろ?お嬢ちゃんも、俺の疲れた心をそのでっかいオッパイで癒してくれるかね?」
そしてあの耳障りな大笑い。
腰の銃嚢に手が掛かるのを目ざとく見つけたズブロフは、そっと、しかし素早く彼女の手を抑え、振り返った彼女の瞳を覗き込む。
一呼吸有ってマーリェはゴルステスに向き直り。
「少なくとも『委員会』の一員である私と任務を共にしている間はこんな蛮行はやめなさい、無事任務が完了して私たちが貴方達の視界から消えたら、虐殺でも強姦でも好きなだけすればいいわ。私の言ってる意味が解る?このケダモノ。明朝〇六○○にはここ出発してチョル教授の失踪地点から捜索を始めるわ、このバカ騒ぎを店じまいしてさっさと準備しなさい!」
今度怒りに身を震わせたのはゴルステスの方だった。
同盟加盟国の軍もその監視対象に治める『委員会』その一員としての立場で彼女は彼にモノを言っているのだ。逆らえば『国際協調の敵』として、粛清の対象にされかねない。
「了解した。同志ツェルガノン」
そう言うなりゴルステスは右腰の長大な銃嚢から切り詰めた半自動散弾銃を引き抜くと、柱の男に照準を定め引き金を引いた。
九粒の鉛弾のほとんどが男の頭部に着弾し、顎から上を残してその他は赤い飛沫となって消え失せた。
「あ!賭けはどうなんすか!?中隊長!」「汚ねぇですぜ!」
部下たちが口々に叫ぶ。
「うるせぇ!ゴロツキ共!とっとと出撃の支度をしやがれ!」
そう一喝したあと、散弾銃を銃嚢に仕舞いゴルステスはマーリェを睨むと。
「よう、委員会の嬢ちゃん。今は虎の威を借りて偉そうにしてるけどな、一度森に入りゃ娑婆の理屈は通用しねぇぞ。覚えとけ」
そしてまた大笑いを残し彼女に背を向けた。
「よくご自重されました。同志ツェルガノン。以降索敵隊への警戒を厳に致します。獣以下の連中ですが、猟犬としては優秀でしょうから精々距離感を保って利用しましょう」
そう言うズブロフにマーリェは。
「そうね、解ったわ」
と、去り行く巨大なゴルステスの背中を睨みつけつつ答えた。
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