第二章『委員会』と『索敵隊』
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聖歴一六三〇年五月二十一日 皇紀八三六年植月二十一日
民主国同盟共同統治海外領 ローツェンブル市郊外
バルハルディア人民国海兵隊第三索敵大隊第四中隊宿営地付近
モワル
間もなく索敵第四中隊の宿営地に到着すると言うので、蒸し暑い河川警備艇の艇内から甲板にでたマーリェ・ツェルガノンは音源であろう湖岸に見える天幕の群れを眺める。
そしてまた一発。
「射撃訓練でもやっているの?」
「に、しては散発的ですな」
彼女の問いに副官格のアーレク・ズブロフが答える。
赤い短髪。猛禽を思わせる鋭い容貌、右頬には長く大きい引き攣れた傷跡が刻まれている。
反動勢力の相手の掃討戦と全球大戦を戦い抜いた元リルシア民族連邦国軍特殊任務部隊准尉。退役した後は委員会に入り準軍事要員として、またはその教官として働いて来た男で、今回委員会からの捜索要員兼マーリェの護衛として、部下十人を率い彼女と合流した。
河川警備艇の艇長を見やると、どこか不機嫌そうな面持ちで口をへの字に曲げ進行方向を睨んでいる。
さっきまでは濃紺の戦闘服に窮屈そうに包まれたマーリェの胸元を、盗み見ながらにやけていたにもかかわらずにもだ。
「ま、上陸すれば解かるってもんですよ。およそ見ていて気分のよろしいもんじゃ無いですけどね」
誰に言うと無く艇長はつぶやいた後、部下に接岸の用意を命じた。
桟橋に降り立つとまた銃声。他にも男たちの下卑た笑い声も聞こえてくる。
土手に設置された木製の階段を部下を引き連れ駆け上り宿営地の天幕村に入ると、そこでは信じられない場面が展開されていた。
まず目に飛び込んだのは無造作に転がされた男女五、六人の死体。現地人の物らしく尻からは尾が生えており、皆一様に眉間を打ち抜かれている。その傍らには一本の太い木の掘っ立て柱があり、半裸の有尾人の男が恐怖に震えながら縛られている。さらにその横には後ろ手に縛られ足にも縄を打たれた有尾人の男女が四人ほど。
柱に縛られた男の前には台が置かれていて、一丁の回転式拳銃と携行口糧の空缶が置かれている。それを囲んで居るのは黒一色の野戦服に身を包んだ男達。右袖の部隊章で索敵第四中隊の隊員と知れる。
「おい、次は誰だ!」
「おっし、俺の番だな、今度こそは決めてやるぜ!」
仲間の呼びかけに応じ、一人の隊員が歩み出る。片手には
目がこぼれんばかりに見開かれる男の目、銃を構えた隊員はもう一口煽ったあと引き金を引いた。
撃鉄が落ち、鋭い金属音が響く。銃声は響かない。杭の男も生きている。不発か?
「クソ!外れかよ」
隊員は台に銃を置き、杭の男に向かって
ここでマーリェは何が行われているか理解した。
賭けだ。回転式拳銃の薬室に一発だけ弾丸を込めそれで的を撃てるか撃てないかで金を賭けているのだ。
「あなた達!いったい何をやってるの!?」
マーリェはたまらず駆け出して隊員たちの群れに近づく、ズブロフ達も慌てて彼女を追う。
台に付くと拳銃を取り上げ薬室を開放し一発だけ装填された弾丸を排出する。次引き金を引けば発射されていた。
「誰だてめぇらは!」「邪魔すんなたたっ殺すぞ!」
隊員たちの怒号が飛び交う、ズブロフは目で合図し部下にマーリェを中心とした防御陣を組ませる。
「慰安婦は自前で調達するからいらねぇって言っといたんだけどなぁ」
野太く間延びした男の声が聞こえると、さっきまで騒いでいた隊員たちが一斉に沈黙し道を開けた。
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