盲目女性記者・須江南海の奮闘
しまおか
プロローグ
長年思い続けてきた殺人を初めて実行に移した記念すべき相手は、俺が所有するマンションの元住民、
こいつは安息を得つつあった俺の生活を崩したからだ。おかげで散々な目に遭った俺は、うつ病の症状を悪化させた。その責任は重い。よって俺の制裁願望を現実に実行させるきっかけを作り、命を失うことになったのも自業自得である。
“他人に迷惑をかけているにも拘らず、法の裁きから逃れて平然と生きている奴らを制裁したくはないか。どうせ命に限りがあるのなら、そのために使ってはどうか。それこそ死ぬ気でやれば、なんでもできる”
心の底を揺さぶるこの問いかけが、全ての始まりだった。あの時から俺は、悪人達の命を次々と奪い始めたのだ。
「あんな奴は、例え殺したとしても罪に問われない。そんな法律があればいいのに」
これまで何百回、何千回と思ってきたことか。それこそ物心のついた頃から、俺は苛めという名の陰湿な暴力を受けてきた。周りには同級生ばかりか、平気な顔で人の尊厳を踏みにじる大人達も多かった。
奴らは俺に対してだけでなく、他人の迷惑を顧みることがない。例えば歩道を自転車で気ままに走り、歩行者とぶつかりそうになってもどけと言わんばかりにベルを鳴らす友人達を見ては、心の中で呟いたものだ。
「さっさと死ねばいいのに。いっそ車に轢かれるよう、突き飛ばしてやろうか」
相手が大人であれば尚更だった。普段は偉そうに踏ん反り返っている教師や保護者達が、酒を飲んで車の運転をしていたりする。その程度の社会的常識やマナーすら、守ることが出来ないのだ。
そんな奴らに限っておかしな理屈を付けては、子供達や他人を怒鳴ったり殴ったりする。そうした姿を見る度に虫唾が走った。
俺が大人になり、このような考え方は向(こう)社会性(しゃかいせい)が強すぎる性格だと知った。まさしく当て嵌まっている。だからだろう。俺が人として二度と戻ってこられない一線を超えてしまったのは。
独身を貫いてきた五十過ぎの俺には、今や両親も兄弟もいない。近しい親戚やまして親しい友人も、だ。しかし幸いなことに金と自由な時間だけは、持て余すほどあった。
他にあるのは定期的にメンタルクリニックへ通い、抗うつ剤を処方されるような不健康な心と体だけだ。今の俺の体調を安定させているのは、出された薬を定期的に飲むことと、計画した連続殺人を着実に実行する使命感だけだった。
当初手塚の件は、警察へ通報するだけで済ますつもりだった。奴の犯罪行為は明らかになり、逮捕されたと聞いた時は安堵さえした。しかしその後、俺は激怒することとなる。犯した罪の大きさと与えられた罰の差が、余りにも大きいことを知ったからだ。
逮捕後の彼は、大学を退学処分になった程度で保釈された。刑務所に入ることもなく、世に放たれたのである。そんな奴を懲らしめるため、刑事事件だけでなく民事でも訴えた。彼の行為によって被った経済的損失や、精神的な苦痛に対する慰謝料の請求を行ったのだ。
目的は金ではない。この国の法律では彼の犯した罪の大きさを知らしめ、苦しめる為の合法的な手段と言えば、それが精一杯の方法だったからだ。
刑事事件では執行猶予が付き、刑務所に入る可能性が低いと聞いた時には、頭に血が上った。彼が起訴された罪状の業務妨害や名誉棄損では、共に懲役三年以下で罰金五十万円以下だという。
それでも民事だと、慰謝料はそれなりに多く認められるケースがあると弁護士から教えられたため、同時に訴訟を起こしたのだ。
しかしその程度の罰が与えたられただけでは、俺の気が晴れなかった。だから制裁することを決めた。それだけの事をあいつはしたのだ。
これがその後に続く、制裁殺人の始まりである。最初に行ったその準備過程と行為が二人目以降の教訓となり、人の命を絶つ罪悪感や恐怖感は徐々に失われていった。
まず彼の場合は、マンションを出た後の現住所を調べ上げた。その上で拉致に必要な車を借りる為、カーシェアリングの会員カードを彼の名義で作成しておいた。
手間はそれほどかからなかった。俺が実質所有していたマンションに入居する際提出させていた、銀行の口座番号やクレジットカード、そして身分証のコピーを手に入れることができたからだ。
カーシェアリングの利用は、レンタカーよりずっと便利だった。一度会員カードを作っておきさえすれば、二十四時間好きな時に使える。レンタカーとは異なり、車の受け渡し時に人と顔を合わす必要がない。返却時も所定のコインパーキングに返しておけば、人目を避けることができた。
そしていよいよ実行すると決めた日に俺は車で彼が住む古いアパートへ向かい、近くの公園に停車して奴の帰りを待った。エンジンを切ったため暖房も止まる。少し厚着さえしておけば、車内での待機はそれほど苦痛ではなかった。
夜の寒さに耐えられる程度の季節だったことが好都合だった。しかしそれ以上に人を拉致して殺す高揚感と不安感が入り混じっていたからだろう。寒さを忘れるほどの興奮状態だったことも影響していたかもしれない。
彼の帰宅を待つ間に、俺はこれまでの事を思い出していた。マンションを追い出された後に逮捕され、大学も退学させられたことで彼の親は相当激怒したと聞く。それでも大事な息子を刑務所に入れることは避けたかったらしい。民事で請求していた賠償金を即座に支払うことで、すぐさま示談に応じたのだ。
彼の実家は田舎だが相当な資産家だったようで、間に入った弁護士も相当な手練れだったという。しかし事情があったのだろう。愚かな息子を実家へと連れ帰ることなく、そのままあいつを東京周辺に住まわせていた。
とはいえ馬鹿息子にお灸を据えるため、仕送りなどの援助が相当抑えられたに違いない。その為か現在彼が住んでいるアパートは、以前住んでいた俺の所有するマンションやその次に移った部屋とは比べ物にならないほど質素だ。家賃もかなり安価であろう古い物件に住まざるを得なかったことが伺えた。
だからといって同情する気などさらさらない。むしろこんな場所でも住めるだけましだとさえ思っていた。
本当なら一生刑務所暮らしで居て欲しい。俺達が住む世間に出て、同じ空気を吸っていると考えるだけで腹が立つ。その度に俺は車の中で何度もハンドルやドアを叩き、奴への憎しみを増大させた。
興奮が抑えられない程感情が高まりだす。それでも長い間かけた計画を無にしてはいけない。そう諌めてどうにか頭を冷静に保ち、心を落ち着かせた。幼い頃からの夢をこれから実行できる。そう自分に言い聞かせたりもした。
事前調査でアパート周辺に防犯カメラがない事は確認している。近年では至る所に設置され始めたが、全ての場所を網羅するまでは至っていない。
空き巣被害が多く、それなりに裕福な住民が住んでいる町から優先して設置されているのが現状だ。その為あいつの住む地域等は、後回しにされているのだろう。それが俺達にとって好都合だった。
この計画を立てた時から、彼の生活リズム等は全て調べてある。少し先にあるコンビニでの夜勤を終え、夜中の三時前には自転車で帰ってくるはずだ。
大学を退学させられたというのに、一体何の目的があって以前住んでいた所とそれほど離れていない土地へ移り住んだのかは知らない。それでも彼は生活していくために、少しでも時給が高い時間帯のバイトを選んだのだろう。
最近のコンビニは働き手がいないのか、二十四時間営業の所は少なくなっている。彼が働いている店舗も夜中の二時に店を閉め、朝は五時からの開店だ。そのためこんな暗い時間に帰宅しているらしい。
しかしそれが俺にとっては幸いだった。真っ暗で辺ぴな住宅地の夜道を歩く人間などまずいない。だからこそ人目に付かず拉致するには絶好の場所だったからだ。
「あと十分もすれば、バイトから帰ってくる。いよいよだな」
独り言のような呟きに、“相棒”は声を発せず小さく頷いたように見えた。しかし最初から返事など期待していない。
俺は間違いなく作動するかを再確認するため、手元のスタンガンのスイッチを押す。バチバチっという音と、真っ暗な車内に青白い光が一瞬灯った。
非力な俺でもこれさえあれば、相手が若くて力のある男であろうと簡単に気絶させることが出来る。後は気を失ったあいつを“相棒”の背に乗せて車へ運べばいいだけだ。
「来た」
彼が自転車に乗ってアパートへと戻ってくる姿が、サイドミラーに映った。いよいよ実行だ。俺達が乗っている車の横を通り過ぎた所で身震いをしながらエンジンをかけ、静かに発進させる。社内の空気は冷えていたが、ハンドルを握る手は汗をかいていた。
今のハイブリッド車はエンジン音がとても静かだ。俺の若い頃には無かった車が、今回のような犯罪には向いていた。夜中であろうとライトさえつけなければ、相手や周りに気付かれず車を走らせられる。この性能を活用して俺は後を追った。
彼の行動パターンは把握している。アパートの建物手前にある駐車場を通り過ぎ、隅にある駐輪場へ自転車を停め、それから部屋の玄関へと向かうのだ。そのため彼が自転車を停めている間に、アパートの入り口の前で停車して静かにドアを開けた。
突然現れた車と人に驚いたのだろう。あいつは僅かにビクリとしていたが、ニット帽を被りマスクをつけていたからか、俺だとは気付かずそのまま通り過ぎようとした。その瞬間、俺は背後からあいつの首筋めがけてスタンガンを強く押し付けた。
「ウオッ!」
大きな声を出したがそれも一瞬だった。崩れ落ちるように倒れた彼を、後ろで待機していた“相棒”がすかさず背中で受け止める。事前に何度もシミュレーションしていたおかげで、予定通り上手くいった。
奴の体が落ちない様に支えながら、素早く車の中へと押し込んで周囲を見渡す。灯りが点いた部屋は無さそうだ。それでも奴が出した声を聞き、何事かと起きてくる住民がいてはまずい。
俺は急いで運転席へと移動し、車を発進させた。そして拉致したアパート周辺で人の動きがないことを振り返り確認しながら遠ざかり、しばらく走った人通りのない場所で一旦車を停めた。
念のために気絶している彼の手足と拘束し、ガムテープとタオルで口を塞ぐためだ。そうしておけば監禁場所に着くまでの間、目を覚まされても対処できる。
手筈通りに事を済ませると、俺のマンションへ向かった。到着して最初にやった事は、まだ気絶している彼の手を伸ばし、二〇一号室の郵便ポストの外側に指紋が付くようべたべたと触らせることだった。これは後で警察の捜査が入った場合に備えての行動である。
その後彼をエレベーターに乗せ、空室となっている三〇一号室へと押し込んだ。機械が上下する音はどうしても消せないが、部屋のすぐ前まで運んでくれるため、階段で運ぶよりましだった。
この部屋を選んだのは下の二〇一号室がまだ空いており、隣接しているのは俺が住んでいる上階の四〇一号室だけだからだ。さらに同じ階の三〇二号室は、平日も夜も人の出入りがほとんどない。その為他の住民にばれる可能性が薄かったこともその理由の一つだった。
ここからは気を失ったあいつの首を絞め、息の根を止めるだけでいい。部屋が汚れないよう、事前にビニールシートで部屋全体を覆っている。用意していたロープを首に引っ掛け、ロフト部分にある頑丈な柱に通した。後は絞め上げるだけだ。
もちろん柱に傷がつかないよう、クッション材を何重にも巻き付けてある。手動のウインチで引っ張るため、それほど力がなくても人間一人くらいは簡単に吊り上げられた。
「よっこらしょっ」
思わず年寄りじみた掛け声を出す。ウインチのハンドルを回し、体を持ち上げた。きりきりと首が閉まっていく様子が分かる。人を殺している実感は正直余りなかった。
防音対策が施してある部屋に入ったことで、それまでの緊張感が安心感に変わったからかもしれない。また予定通りに事が進んでいたからだろう。今やっていることも単なる作業の一つとしか認識していなかった。今更罪悪感など持つはずもない。
息苦しさから意識を取り戻した彼は、もごもごと何か喋っていた。しかし口はきっちりと塞いでいるため、僅かな音しか漏れてこない。部屋は暗く目隠しをしたままだったため、奴の最後の表情は良く分からなかった。
しかし間違いなく死に近づいていることは確かだ。あいつの足が床から離れてしばらくバタバタと暴れていた。それがやがて静かになると、体中の穴という穴から小便を含む色んな体液が垂れ始めた。
だが何重にもビニールを被り、少し離れた場所にいる俺にかかることはない。
「もう死んだかな」
念のため三十分ほど待った。部屋は前もってエアコンを使い、キンキンに冷やして密閉している。普通なら相当暑くなるはずが、まだ涼しく感じるほどだ。晩秋で夜の外気温が低かったことも影響しているのだろう。
もういいだろうと、息絶えたあいつの体をゆっくり床に降ろす。後は頼りになる“相棒”が処理してくれるはずだ。
「頼んだよ」
声をかけてからリビングの扉を閉めて廊下に出た。そこで覆っていたビニールを脱ぎ、部屋の外へ出てから念のため鍵をかけ辺り見渡した。そして誰もいないことを確認し問題無いと判断してから、静かに階段を使って上階にある俺の部屋へと移動したのだ。
事前に計画をどう進めるか、何度も予行練習を繰り返していたからだろう。抜かりのないよう準備して今日を迎えた。そして予定通りに目的を達成することが出来たのだ。俺は嬉しさのあまり身が震えたほどだった。
しかし厳重に防御していたとはいえ、死体が放った臭いから完全に免れられた訳ではない為、自室のシャワーで念入りに洗い落とす。そこで俺はようやく一息つくことが出来た。
そして精神的にも肉体的にも、さすがに疲れていたのだろう。着替え終わって寝室に入ると倒れこむようにしてベッドに横たわり、深い眠りについたのだった。
しかしまだまだやるべきことはたくさんあった。翌日目を覚ました俺は、昨日使った車をコインパーキングに返却した後、様々な手続きを行った。奴を殺したのは計画の序章でしかない。社会のゴミをたった一人処分しただけである。本来の目的はこれからだ。
世の中にはあの手塚より悪質で、他人に多大な迷惑をかける愚かな人間でありながら、法の裁きから逃れている奴らが多数いる。それを自らの命を賭け、出来るだけ多く成敗することが俺の使命なのだ。
刑の重さが妥当だったかという問題は残るが、死んだ手塚はまだ法で裁かれた実績がある。そう考えると、厳密に言えば俺にとって本来のターゲットではなかった。
それでも最初に手を下したのは、奴が行った行為により俺はかなりの精神的な苦痛と、経済的な損害を被り、それが許し難かったからでもあるがそれだけではない。次回以降の標的を拉致するためには、いくつかの駒を手に入れておく必要があった。その手段として、奴は最初の犠牲者となったのだ。
カーシェアリングの会員カードを作ったこともその一つである。今はネットだけでこれらの手続きが比較的簡単にできる。もちろん書類の郵送先が必要だったり、連絡先などの登録をしたりと、事前の準備に多少の裏技が必要だったため時間はかかった。
住所はあいつが以前住んでいた、このマンションの二〇一号室を利用した。これらを使って次の拉致、監禁、殺害を犯す。そうすれば警察が感付いて捜査を始めたとしても、まずあいつが疑われるはずである。
以前の住民であれば、このマンションで現在空いている部屋の郵便受けに入ったものなら、取り出すことができたと思われるだろう。指紋も最近の物がべったりついている。しかし本人は失踪して姿を消している為、そう簡単に見つかることはない。
もちろんすでに死亡しており、その死体もあと数日後には跡形もなく消える予定だ。そうなればその後起こる連続殺人の犯人をあいつに押し付け、俺達は逃げおおせることが出来るだろう。
ただそれが失敗して万が一俺が捕まり例え死刑になろうと、元々は自ら断とうとしていたこの命だ。国のお金を使わせてしまうことは心苦しいが、これまでもそして今なお俺は十分なほど国に税金を払ってきた。資産も十分ある。それくらいの面倒をかけてもいいだろう。俺は本気でそう思っていた。
パソコンでの作業を終えると、気分転換に片端からネットニュースを閲覧していった。するとまた神経に障るタイトルがでてきた。クリックして内容を黙読する。
― レンタカーを暴走させて大通りを歩く人達にぶつかり次々と撥ねた犯人は、交差点の信号機に衝突して止まった車から降りると、今度は手に持った包丁を振り回し、周囲にいた人達を無差別に刺し続けました。
駆け付けた警察官に取り押さえられた犯人は、世の中に失望して自殺したいと思ったが死にきれず、それならば人を殺して死刑にして貰おうと犯行を計画した、と動機を語っているそうです。この事件における死亡者が現在八人、重体、重傷者などを合わせると死傷者は二十人を超えている、とのこと ―
― 電車内で女性に痴漢した疑いがかかった男性が、周囲にいた乗客によりホームに連れ出され、駆け付けた駅員と警察官が駅員室へと連れて行こうとしたところで、警察官の一人を突き飛ばしてホームに飛び込み逃走。
しかし次にやってきた電車に撥ねられて死亡しました。この事故により電車の運行がストップし、朝の通勤時間であったこともあり、二十万人以上に影響が出ています ―
自分勝手な理屈と行動で、全く関係ない他人を巻きこむ犯罪は後を絶たない。さらに殺人まで犯すという理解できない愚かな輩達のニュースを聞く度に、言いようのない怒りが湧いてきた。
いつの世にでも、ある一定程度の愚かな犯罪は起こるものだ。しかし近年の日本における民度の低下やマナーの悪さから、様々なトラブルが目立つようになった気がする。目を覆いたくなるものが余りにも多すぎるのだ。
それでも警察に捕まるなどして法に裁かれるか、自らが死という選択を選ぶことによって、天罰を受ける事件はまだましだろう。本当に腹立たしいのは、過ちを犯しながらも罰せられることなく、さらに新たな犯罪を企む輩が存在していることだ。
このようなニュースを見聞きして頭に血が上る度に、どうにかして一人でも多くのこの愚かな人間達に制裁を加えたい。そんな衝動に駆られていた。
選民思想とは違う。生産性があるか無いか、国家に有益かどうかや社会の役に立っているかどうかで人を判断する奴らとは、考え方は根本から異なっていた。
人はみな本来平等であり、生きる権利があるのだ。それを己達の偏った考え方にそぐわないものを排除することは間違っている。宗教など何を信じるかは自由だ。しかしそれを人に押し付けようとするから、問題が起こる。
人はそれぞれで多様性があって当然だ。ただし生きていく上で社会の中にある一定のルールが必要なことは間違いない。その中の一つとして、他人に迷惑をかけたり傷つけたりしてはいけない、という教えがある。
一人一人がそれぞれ勝手な事をしても、基本的には許されるだろう。ただそれは他人を巻き込まないという原則に従った上でのことである。そうすれば秩序は守られるはずだ。しかしそう考えない輩は余りにも多い。
そんな奴らをこの世から完全に撲滅することは、理論的にも物理的にも無理だとは分かっている。だからこそ自分にできる範囲で一人でも多くの腐ったミカンを取り除けば、被害を受ける数十倍の人々を救えるはずだ。
その為にも簡単に捕まる訳にはいかない。ならばどうするか。俺はある時からそのことを日々考え続け、最善の方法を模索し続けるようになった。そして至った結果が今回の連続殺人計画である。
その第一号に相応しいかどうかは別にして、選ばれたあいつは俺を怒らせるだけのことをした。また目的達成のために必要な、その他の条件が整っていたのだからしょうがない。己の愚かさと運の悪さを恨むしかないだろう。
彼の犯した罪を振り返り、改めて俺が取った行動に間違いはなかったと己に言い聞かせる。もう後戻りはできない。前へ進むだけだ。
それに一人殺したことで、俺の中にある何かが吹っ切れた。いや長らく抑えて来た理性という箍が外れただけかもしれない。かえって度胸が据わった俺は、次のターゲットに向けての準備を始めた。
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