彼氏が美少女と同居し始めました。

山吹ゆずき

1.仲良しです!

「今日は! またしても! 大輝だいきくんとラブラブな夢を見てしまった! 現実もラブラブだけどね~」


 隣に座っている弟の健斗けんとがチッと舌打ちをする。


「キモ」


「き、きも!? 健斗、今私のことキモいっていった!? お姉ちゃんに向かって!?」


 健斗はだんっ、と机を荒々しく鳴らして立ち上がる。


「ごちそうさま」


 すたすたと早足でリビングから出て行ってしまう。


 すれ違いざまにお母さんが階段から降りてきた。


「またけんかー?」


「そんなつもりはないんだけど……」


 気持ちがめっちゃ悪くなってしまった。


 けど、夢の内容を思い出してぱっと跳ね上がる!


「あのねあのね、聞いてお母さん! 今日も夢で大輝に会えたの!」


 お母さんはちょっと困った顔になる。


「ちさと、大輝くんと仲良しなのは嬉しいけれど、一日中大輝くんのことを考えなくてもいいんじゃない?」


 私はぷーっとふくれる。


「だって大好きなんだもん!」


「……ちさとは大輝くんのこと、なんで好きなんだっけ?」


 それは、たくさんある。

 かっこよくて優しくて、頭もよくて運動もできて。

 でも、お母さんが求めている答えとはちょっと違う気がしてうーん、と頭を悩ませる。


 あ! これだ!


「あのね、大輝と私はアニメが好きなの。見るジャンルも同じだし。だから話が自然に合うんだ! 話してて楽しい、っていうのはお母さんが納得できる答え?」


 お母さんは私から目をそらす。


「——大事な話だからよく聞いてほしいのだけれど」


「うん。ちゃんと聞くよ」


 私は真剣に頷く。


「人は変わる生き物なの」

「かわる?」

「そうよ。いずれどちらかの趣味が変わってしまうこともある。——私もそうだったわ」

「で、でも!」


 私は私のアニメ愛を否定された気がして慌てて首を振る。


「ちいさいころからずぅぅぅっと好きだし! 一つのアニメしか見ないわけじゃないし、飽きることなんてないよ! 絶対、変わらない」


「たとえちさとはそうだとしても、大輝くんが変わってしまうことだってあるのよ」


 私は想像してみて、震えた。


 そんな未来、怖すぎる。


 私と大輝を結ぶ共通点が減ったら。


 私から離れて行ってしまう……?


「そんなこと——」


「ないって言いきれる?」


 私は信じたくなくてすぐに言葉を紡ぐ。


「絶対にない。大輝は私から離れない」


 階段から降りてくる音が聞こえてお母さんはそっちを見る。


「あら、健斗、もう準備ができたの?」


 健斗はドスドスと私に近づいてきた。


 健斗は何とも言えない表情をして立っていた。


 私に向けられる目は、まるで……憐れんでいるかのようで。




「かわいそうなやつ」




——かわいそう?


って、どういうこと?


私が?


「けん——」


 やっと声を出せた時には健斗はもう玄関にいた。


「いってきます」


 ガチャリ


 ドアの閉まる音がやけに静かに響いた。



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