第125話「祝勝会(2)」
「何を話してくれるのー?」
能天気な声が割り込んできたが、振り向くと女性組がやってきていた。
手に手にジョッキや皿を持っているので、みんなで飲もうという意図だろう。
オレたち3人は、流石にどうしようという顔になってしまう。
「あー、いやなあ、男同士でしか話せないことなんだが」
「どうせ女の話でしょ。このバカジョージ」
「ハっハっハっ、その通りなので反論できない」
「まあ、酒の席で異性の話ってのは定番だものね。それよりみんなで飲みましょ。さあ、開けて開けて」
マリアさんの言葉で、今まで3人では持て余し気味だったラウンドテーブルが、一気に詰め詰めになってしまう。
シズさんはハルカさんとボクっ娘が挟んで、それ以外は男女が交互に座る。
「じゃ、改めて、かんぱ〜い!」
「かんぱ〜いって、何回目だよ」
「乾杯は何度してもいいのよ」
マリアさんもサキさんもグビグビといく。
それに比べて、シズさんがちびちびとしか飲んでいない。
本性はウワバミだから、まだ慣れてない的なキャラを演じているのだろう。
「お兄ーさーん、料理追加ねー!」と元気なのはボクっ娘で、ハルカさんはやはり何かと周りの面倒を見ている。
「ハルカさんは、いいお嫁さんになるなー」
「ありがとうございます、ジョージさん。けど、そんな事言ってていいんですか?」
「えっと、そっちで何の話をしてたのかな?」
ジョージさんは、漫画なら冷や汗が出ているところだ。
「秘密に決まってるでしょ、バカジョージ」
「アハハハっ、何回も言うとか、サキ機嫌良すぎだろ」
「レンはうっさい」
「やっぱり皆さん仲が良いんですね」
「もう、かれこれ3年になるからな」
「そんなになるのかー」
四人がそれぞれ感慨深げな表情を浮かべる。
そこでふと思う事があった。
「あのマリアさん、ハルカさんとは以前パーティー組んでたんですか?」
「そうよ。そのさらに前の3年くらいずっとね。そこでパーティーからドロップアウトが出たから、そのパーティーは解散したの。けどその後も、メンバーとはたまに会ってるけどね」
「たまのわりには、平均したら3月に1回は会ってるわよ」
「ハルカは、ほっとけないもの」
「それにしては皆さんとは初対面でしたよね」
そう。3人はハルカさんの事をまるで知らなかった。
「あくまでプライベートで会ってたもの」
「でも、こうして噂の人と話せて嬉しいです」
さらりと流されてしまったが、気にするほどでもないだろう。
それと、最初に会ってから思っていたが、サキさんはハルカさんをかなりお気に入りのようだ。
それにシズさんにも興味があるようにも思える。
それは全員の思うところだったらしく、自然と視線がサキさんに集中する。
「念のため言っとくけど、同性の魔法使いとして尊敬しているからです。私、全然だから」
「そんな事ないわよ。この修行僧じみたヤツの方が非常識なだけだから」
「しゅ、修行僧はないでしょ。そりゃ神官だけど」
ハルカさんが少し顔を赤めて、手振りまで加えて抗議する。
しかしマリアさんは容赦する気ないらしい。クイっと、ジョッキを持つ手の人差し指まで突きつける。
「話し出しちゃったから続けるけど、修行僧も真っ青よ。ストイックに自分を追い詰めて、鍛えているようにしか思えないもの。もっと自分を労わりなさい。
ショウ君も、ちゃんとブレーキになってあげるのよ」
「そりゃ無理だよ。ブートキャンプ喜んでするマゾだよ、ショウは」
「オレ、マゾなのか?」
みんな笑いながらも、視線がそうだと伝えている。
「マゾ超えてるでしょ。だいたいボクの戦闘でも、ご同業以外で何度も空についてくる人は珍しいよ。酔う人も多いし」
「疾風の騎士の空戦は過激って言うもんなあ。それに昼間の戦闘すごかったな。ハリウッドも真っ青だったぜ」
「空から爆撃って、大型ドラゴンみたいでしたよね。魔法かける時、どうやって体を安定させてたんですか?」
サキさんの期待を込めた言葉に、オレたちは微妙な視線を交差させる。
「えーっとね、集中している間はショウに支えてもらっていたの」
シズさんはそれ以上聞くなと言いたげに、ハルカさんの言葉に何度もうなずいている。
そして願いは通じたようだ。
「なるほど、複数乗っていれば他の人に固定してもらえればいいですよね。馬でも二人乗りで同じような事ができるって言いますし」
「だが、ちらっと見た限り何かに体を引っ掛けていたように見えたが?」
「固定具を準備してたの?」
「まあ、そんなとこです。ヴァイスは大きいし力持ちで色々運べるから」
弓手のレンさんは、やはり目がいいのか意外に見ている。けどオレのフォローに「なるほどー」と納得してくれた。
ということは、地上からは詳細には見えていなかったのだろう。
「なるほどね。あと、その時と雑魚掃除の時のだけど、ハルカの魔法の槍の数が随分増えてなかった?」
続いて、ホッとしていたら、今度はマリアさんの言葉にハルカさんが一瞬目を大きく見開き、そしてげんなりする。
「……やっぱり、そう、見えたわよね」
「見えたもなにも、ハルカが一番自覚あるでしょ」
「ええ」と答えるハルカさんだけど、心重たげな返事だ。
ジョージさんたちは、どうしたのかと疑問系の顔を浮かべている。
「あの魔法であの数だと、十分Sランク認定されると思うわ」
「そう、よね。私もそう思う。昼間の魔法で気づいた」
「この数日は気づかなかったの?」
諦めた感じのハルカさんに、マリアさんはなぜすぐに気づかないという表情だ。
つまり普通は気づきやすいものなのだろう。
「うん。書類仕事に追われてたから」
「そう。何はともあれおめでとう」
「と思いたいところなんだけどね」
ハルカさんの苦笑いはため息まじりだ。
「やっぱり神殿の方?」
「ええ、神殿が能力を知ったら何と言うかと思うと、正直気が重いわ」
「神殿が何か厄介なのか?」
旧知の二人が会話を続けるが、気になる言葉が出てきたので思わず口を挟んでしまった。
しかし、場を読まなかったとは見られずに済んだようだ。
「ええ、能力を確認したら、ほぼ間違いなく格上げされるのよ」
「出世や昇進ってこと? それは悪いことなのか?」
「今の私は神殿巡察官の中でも下級なんだけど、位が低いと単独行動しやすいのよ。
けど、位が上がれば、嫌でも神殿から常時同行する部下をつけられたり、他にも足かせが色々。私がどう思うかではなく、神殿の威信に関わるから」
その言葉でジョージさんが納得する。
けど、サキさんの顔には理解以上の表情があった。
「確か高位の神官は、自分で部下や従者は選べるんでしたよね。気心の知れた『ダブル』の神官を選んだりできないんですか?」
「それは、付き合わせるみたいで悪いわ」
「神官って俺たちの中でも数少ないよな。神官以外はダメなのか?」
「そうね……神官以外だと、従者、守護賢人、守護騎士が普通ね。けど、雑用するだけの従者とかは頭数にはならないでしょうから、それ以上じゃないと」
「それじゃあ、オレが守護賢人か守護騎士になれないか?」
指を折りながら数えるハルカさんが、発言したオレをガン見する。
そしてそのあと少し考えるそぶりを見せる。
「能力的には守護騎士には十分だと思うけど、資格取るのは少し面倒ね」
「賄賂を積み上げればいいだろ。どうせ白い法衣の下は真っ黒なんだろ」
シズさんの鋭すぎるツッコミが入る。
他のみんなは苦笑気味だ。
どうにも大きな組織というのは、どの世界でも腐敗するものらしい。
ハルカさんも、あからさまな言葉に苦笑している。
「地縁のない神殿で私の部下にするだけなら、こないだの宝の一部を換金するだけで余裕でしょうね」
「なら複数従わせるのも可能か?」
「形式上とはいえ、私の部下になりたがる人が、そうそういるとは思えないんだけど」
質問に軽く答えを返しただけのハルカさんだけど、シズさんの表情は意外という以上に真剣だ。
「ここに一人いるぞ。私は根無し草になっているから、形だけでも神殿の身分がもらえるなら随分助かる」
「なるほどねー。じゃ、ボクも付き合うよ。ボクを連れてれば箔が付くよ」
「いいの二人とも?」
数日前にも言っていた事だけど、ハルカさんは意外そうな顔をしている。
あの時はその場の勢いで話していただけ、くらいに思っていたのだろう。
「旅は道連れと言うだろ」
「乗り掛かった船だよ。乗せるのはボクたちだけど」
と二人が言う以上、オレも名乗りを上げるべきだろう。
彼女もオレの表情を見て、すでに答えを用意してくれているのが分かった。
「オレには是非を聞かないのか?」
「ショウは、どこまでも付いてきてくれるんでしょ」
「勿論。そういう約束だもんな」
「フフフ。みんなありがとう。これだけの人たちが3人もいれば十分だわ」
「しかも全員Sランク級とか、ほとんど勇者、いや聖女のご一行だな」
ジョージさんの言葉に、みんなが笑う。
ただ聖女の言葉が出た途端、ハルカさんは苦笑気味になる。こっ恥ずかしいからだろうか。
「それでも足りなかったら、私にも話を振ってね」
「わ、私もできれば間近で魔法の勉強したいので、必要なら声掛けてください」
「なら、そんときは俺達もつきあうしかないなー」
「だな」
「ありがとうマリ。それにみんな」
マリアさん達も次々に名乗りを上げてくれたが、ハルカさんの人徳というやつだろう。
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