第6話 地獄のメルビン(1)

 夕方、5人はシリンドタウンにやって来た。シリンドタウンは半島の先にある小さな町だ。100年ぐらい前にできた町で、漁業が盛んだったという。最盛期には1000人前後が暮らしていた。全盛期にはとても賑わっていた。だが、周りの道はあまり整備されておらず、陸の孤島のような所で、不便だった。そのため、若い人が町を出て行き、近年では過疎化が進んでいた。


「静かね」

「うん」


 シリンドタウンはとても静かだ。ここは住民が全員戦死したんだろうか。神龍教のせいでこんなことになるなんて。あまりにも残酷だ。神龍教がますます許せない。サラは拳を握り締めた。


「ここも焼け野原になっている。みんな死んじゃったのかな?」

「かもしれないな」


 サムは焼け野原を見ていた。ここにはどんな人の営みがあったんだろう。どんな人々が暮らしていたんだろう。想像することができない。


「でも、どうして遺体がないんだろう」

「そうだね」


 サラは辺りを見渡した。だが、不自然な点がある。転がっているはずの遺体がない。これだけ焼け野原になったのに。


「本当だったらあるはずなのに、どうしてだ?」


 サムも不思議に思った。ひょっとしたら、それ以前に人がいなくなったんじゃないか?


「何か別の意味があって消えたんじゃないかな?」


 バズもそう感じていた。それ以前に突然神隠しにあって、町民が全員消えたんじゃないか?


 と、5人の後ろから男がやって来た。その男はボロボロの服を着ている。ぼさぼさの長い髪をしている。もう何日も着替えていないようだ。


「すいません」


 その声に反応して、5人は後ろを振り向いた。そこには男がいた。


「あ、あなたは?」

「私は旅の者です。ここはシリンドタウンですね」


 男は辺りを見渡した。焼け野原になったシリンドタウンを見て驚いていた。どの市町村もそうだ。ひどいことになった。どうしたら元通りになるんだろう。


「やっぱりそうなんですか」

「ここは5年前に突然人々が消えたんですよ」


 その男はニュースでシリンドタウンの人々が突然消えたことを知った。その原因はいまだに全くわからないという。


「そ、そうなんですか?」


 5人は驚いた。やっぱり神隠しにあっていたんだ。


「はい。でも、誰もその理由を知らないんですよ」


 男は心配そうな表情だ。親戚にシリンドタウンに住んでいる人がいて、彼も突然消えた人々の中にいる。


「突然消えた?」


 マルコスは首をかしげた。誰がやったんだろう。


「これも、まさか、神龍教の信者の仕業か?」


 サムは神龍教がやったんじゃないかと考えた。今までの事件はどれもこれも神龍教がかかわっている。今回も神龍教が関わっているかもしれない。


 と、6人は崩れていない家を見つけた。その家はシリンドタウンの中でも立派な家だったそうだ。


「この家、崩れてないわね」

「家に入ってみようか?」

「うん」


 6人は家に入った。家には当然、誰もいない。鍵がかけられていない。いなくなった時から時が止まったようだ。5年前にいなくなった時からカレンダーが止まっている。


「ほこりがかかっているわね。まるで私の実家みたい」

「うん」


 サラは実家のことを思い出していた。10年もいなくなった間にほこりがかかり、ところどころにクモの巣がある。この家もこんな状況だ。


「いなくなった時から時が止まっているようだ」

「寂しいわね」


 と、サムは机に置いてある日記が目に入った。その日記はほこりをかぶっていて、表紙が見えづらくなっていた。


「日記がある」

「ほんとだ」


 それを見て、サラは今朝のことを思い出した。閃光の祠に関する手掛かりになることが書かれていた。今度も日記が重要なものになるかもしれない。そう思い、サラは読んでみようと思った。


 サラは日記を開いた。その日記はほぼ毎日書かれていて、字がきれいだ。子供のこと、夫のこと、日常のこと・・・、様々なことが書かれている。


「きっと楽しい生活を送っていたに違いない。なのに、どうして、突然いなくなったんだろう」


 日記はある日で途切れていた。


「えっ、何だこれ?」


 サラは驚いた。そこには、衝撃的な内容が書かれていた。




 最近、この町の人々が次々と殺され、地獄に連れられて、地獄流しにあっているという。殺しているのはメルビン。この町一のいじめられっ子で、街の誰からもいじめられていた。ある日、姿を消したが、再び戻ってきた。メルビンは神龍教の幹部となり、この町の人々を圧倒的な力で次々と殺していき、地獄流しにしている。自分もいつされるかわからない。あぁ、地獄になんて行きたくないよ。行くのなら天国の方がいいよ。




「じ、地獄流しだって?」


 バズは驚いた。こんなことをする人がいるんだな。


「そんなひどいことをするなんて・・・」

「地獄流しにされると、体が朽ち果て、ゾンビになってもなお過酷な重労働を休まずやらされるんだよ。彼らは永遠に天国に行くことができずに、転生をすることもできずに、ずっとこのままなんだ」


 サムのようなゴースト族は、地獄のことについて詳しかった。地獄流しのことについても詳しかった。地獄流しは、生前にあまりにも悪い事をした人々を地獄に連れて行き、そこでゾンビにされ、休まず厳しい重労働を課せられることだ。普通、地獄流しを執行するのは閻魔大王しか認められていない。


「そんな・・・」

「きっとこの日記を書いた人も地獄流しにあって地獄にいるんだろうな」


 マルコスは日記を書いた人のことを想像した。今頃どんなことをされているんだろう。体はどれだけ腐っているんだろう。


「ひどいことだな」

「これは閻魔大王しか許されていないことだ」


 通常、地獄流しは閻魔大王しか許されていないことだ。そのことを知っている人は少ない。ゴースト族はそのことを知っている数少ない種族だ。


「メルビン・・・」


 バズは日記に書かれていたメルビンのことを思い出した。かつて神龍教の神龍魔導士だったバズはメルビンのことを知っていた。メルビンの名前は神龍巨の中でもかなり有名だ。かなり残虐で、キレやすい。怒り出すと、誰も手が付けられないという。


「知ってるの?」

「神龍教の十二使徒の1人だ。十二使徒の中でも最も残虐で、生贄に捧げられた人々を次々と地獄流しにしていることから、『地獄のメルビン』と呼ばれているんだ」


 話していたバズの手は震えていた。それほどメルビンは恐ろしい人物だ。仲間だった頃も何度か暴力にあったことがある。


 噂によると、メルビンは町ぐるみでいじめにあって、全く癒える事ができない程の深い心の傷を負った。そして、彼らに復讐するために神龍教の信者になり、あっという間に実力をつけた。誰にも手が付けられないほど凶暴だが、その凶暴さは王神龍に気に入られている。自分の生き写しだと言われている。


「地獄のメルビン・・・」


 マルコスやレミーもその異名を聞いて手が震えた。相当恐ろしい人物なんだろう。


「それほど有名なんだろうな」

「死んでからもこんなことをさせられているなんて、ひどい!」


 サラは拳を握り締めた。そして、母もそんな目にあっているかもしれないと思うと、許せなかった。何とかしたいと思った。


「そうだな」

「何とかしないと」


 外は少しずつ暗くなってきた。サラはカンテラを取り出し、火をつけた。そんなに明るくない。だが、空襲で電気が完全に寸断され、こうするしかない。


「他に泊まれそうな家あるかな?」


 ここの夜は寒い。もっとしっかりとした所で1夜を明かさねば。6人は別の家を探した。だが、空襲でほとんど崩れて、なかなか見つからない。


「どこも崩れているわね」


 サラは辺りを見渡した。なかなか見つけることができない。サラは焦っていた。


「寒いな」


 レミーは凍えていた。これほどの寒さを体験したことがない。凍え死ぬんじゃないかと思った。


「早く見つけないと」


 と、サムは1軒の民家を見つけた。その民家は、よく原形をとどめていた。どうやら空襲に耐えたようだ。


「この家、大丈夫かな?」


 6人はその民家に入った。家の中は暗い。家は中もしっかりと残っていた。まるで誰かがまだ済んでいるように見える。だが、誰も住んでいない。


「この家で1夜を明かそう」

「うん」


 6人はとある部屋に入った。ここは勉強部屋のようだ。机やポスター、本棚がそのまま残っている。だが、家具にはほこりがかかっている。誰もいなくなった証拠だ。


 と、サラは机の上にあるノートが目に入った。


「これは日記かな?」


 サラは机の上のノートを手に取った。これも日記のようだ。だったらここにもメルビンに関することが書かれているかもしれない。読むべきだ。


 サラはノートを開いた。内容から見て、日記のようだ。毎日の出来事がよく書かれている。だが、やはりメルビンが戻ってきたところで途切れている。彼らも地獄流しにあってと思われる。


「ここにもメルビンがやって来たことが書かれている」


 サラは悲しくなった。この家の人も地獄流しにあっている。今、どんな状況だろうか? サラは心配になった。


「メルビンはこの町一のいじめられっ子で、町中の人々からいじめられていたのか」


 マルコスはメルビンのことを想像した。どれだけ辛い思いをしたんだろうか。地獄流しにされた人々はどんな心境だったんだろうか。


「だからみんないなくなったんだ」

「みんなに復讐するために、こんなことをするなんて、許せないな」


 バズは拳を握り締めた。こんなことをするメルビンが許せなかった。


「きっと彼らは地獄にいるはずだ」


 と、マルコスは何かに気付いた。


「だったら、お母さんもここにいる?」

「あっ、そうかもしれないな」


 サラはマルコスの言葉に反応した。母も同じことで生贄に捧げられた。だったら、母も地獄にいるんじゃないか? もしかしたら、一度だけ母に会えるかもしれない。サラは少し嬉しくなった。


「お前さん、どうしてここに来たんだい?」


 男はどうしてこんな誰もいなくなった町に来たのかわからなかった。


「ここに、闇竜神ダエドがいると聞きまして」

「そうか。でも、何のために?」


 男は闇竜神ダエドのことを知っているようだ。


「世界を救うために旅をしてるんです。神龍教の神、王神龍を封印するための旅をしてるんです」

「そうか。頑張るんだぞ」


 男は驚き、5人を励ました。自分では励ますことしかできない。自分にもっと力があれば救うことができるのに。


「わかりました!」


 マルコスは元気に答えた。必ず世界を救ってまた会おう。そして、平和が戻った喜びを共に分かち合おう。


「お母さん・・・」


 サラは母のことが気になった。母親は今、地獄流しにあっているんだろうか。そして、どんな姿なんだろうか。


「ひょっとしたら地獄流しにあってるかもしれないな」


 その時に一緒にいたマルコスも母のことが気がかりになった。あの時救えなかった無念が頭をよぎる。


「何としても、許されない地獄流しにあっている人々を救って、天国に導かないと」


 サムは何としても彼らを救って、天国に導き、転生できるようにしないと。


「そうね」


 男は持っていたカップ麺を作っていた。男は野宿のために何個かカップ麺をあらかじめ買っておいていた。


「できたぞ」


 男はカップ麺のふたを開けた。3分間ふたを閉めて、カップ麺は食べごろになっている。


「あ、ありがとうございます」

「いただきます」


 6人はカップ麺を食べ始めた。麺類を食べるなんて、何日ぶりだろう。世界を救うために旅をしていて、空襲後は雑炊ぐらいしか食べていない。


「おいしい。ラーメンなんて何日ぶりだろう」


 5人は久々の麺類の味に感動していた。次に食べられるのはいつだろう。世界を救ってからだろうか。


 食べ終わって、サラはシリンドタウンの先にあるシリンド岬にいた。辺りはもう暗い。近くにある灯台はすでに機能を停止して何年も経つ。住民がいた頃には町の明かりが見えたかもしれないが、辺りはとても暗い。


 サラは母のことを考えていた。あの時、何もできなかった。目の前に生贄に捧げられてしまった。とても悔しかった。どうしてこんな目にあわなければならないんだ。全ては王神龍と犬神が原因だ。神龍教が彼らによってできたことで、人間が生贄に捧げられるようになった。母もその犠牲になった。本当に許せない。そして、私はその神龍教の神、王神龍を封印するために旅をしている。あの日の無念を晴らすために。


「サラ・・・」


 サラは後ろを振り向いた。そこにはマルコスがいた。サラは家にいなかったので、心配してここにやって来た。


「マルコス!」

「ここにいたんだ」


 マルコスはサラの横に立ち、夜の岬を眺めていた。神龍神殿はどこにあるんだろう。アカザ城はどこに浮かんでいるんだろう。まだわからないけど、行かなければ。あの時の無念を晴らすために。そして、何よりもこの世界を救うために。


「だんだん王神龍に近づいてるわね」

「うん」


 マルコスはこれからもっと厳しい戦いになるだろうと思っていた。どんなに強い敵が襲い掛かって気も、俺の拳でぶっ飛ばしてやる。そして、サラを守ってみせる。


「絶対に封印して世界を救おうな」

「ああ」


 そこに、レミーもやって来た。レミーは母のことが気がかりだった。ロンに会えたんだろうか。まだ会えてないんだろうか。


 サラとマルコスは後ろを振り向いた。そこにはレミーがいた。


「レミーも来たんだ」

「お母さん、今どこにいるんだろうと思って」


 レミーは岬の向こうから海を見て、母のことを考えていた。


「王神龍のもとに着いたのかな?」

「着いていてほしいね」


 教え子のサラも会えることを願っていた。フェネスの長年の願いだ。小学校の頃、よく聞かされた。


「でも、本当に許してくれるかな?」


 マルコスは許してくれるかどうか気になっていた。憎しみによってあれだけ邪悪になったので、許してくれないだろうと思っていた。殺されるかもしれないと思っていた。


「きっと許してくれないだろうな。王神龍になって、これほど強大な力を持って、これほど邪悪になったんだから」


 そう考えると、サラも許してくれないだろうと思い始めた。これほど凶悪になったのだから。


「でも、会えるだけでも」

「そうだね」


 そこに、残りの3人もやって来た。


「お母さん、元気にしているかな?」


 バズの声に反応して、3人は後ろを振り向いた。3人も岬にやって来た。


「バズも」

「絶対に世界を救って、幸せにしないと」

「そうだね」


 サラは笑顔を見せた。世界を救いたいという気持ちはみんな一緒だ。だから、その時まで一緒に戦おう。そして、世界を救ったらともに喜びを分かち合おう。


「お母さん、今頃サイカビレッジに戻ってきたかな?」


 バズは母のことが気がかりだった。今頃、サイカビレッジに戻ってきただろうか。近所の人々と再会できたんだろうか。


「どうだろう。戻ってきたら嬉しいね」


 5人は彼らのことを気にしていた。だが、今は世界を救うために旅を続けなければ。そして、世界を救って、平和が戻った喜びを共に分かち合おう。この先もっと厳しい道のりになるだろうけど、5人で力を合わせて乗り越えよう。




 その頃、メルビンは地獄にいた。メルビンは骨が一部むき出しの黒いドラゴンで、片方の羽は骨だけになっていた。だが、光の翼をまとうことによって、飛ぶことができる。そして、地獄と世界を行ったり来たりすることができる。


 メルビンはここを取り仕切っている閻魔大王に代わって、ここを取り仕切っていた。閻魔大王は牢屋に閉じ込めた。もう地獄は私のものだ。思う存分地獄流しをすることができる。


 メルビンはいい気分だった。自分をいじめてきた人々を一生苦しめることができる。永遠に癒えない傷だから、永遠に苦しめなければ癒すことができない。いじめていた人々を苦しめることができて、最高の気分だった。


 そこに、メルビンの手下がやって来た。彼らも骨が一部むき出しになっている。


「サラがシリンドタウンにやってきたそうです」

「サラが来たか」


 メルビンはサラを警戒していた。これまでに多くの幹部を倒してきた。闇竜神ダエドと刻時神アグレイドを解放されたら、アカザ城への道が開ける。何としてもここで食い止めなければ。神龍教の12使徒の中でも最も残虐と言われている俺様の名に懸けて、倒さなければ。


「はい」

「絶対に倒してこいつらも地獄流しにしてやる!」


 メルビンは拳を握り締めた。やる気満々だ。


「期待してますよ」


 手下は笑みを浮かべている。メルビンをとても信頼していた。


「ありがとうございます」

「最も残虐なメルビン様なら、必ず仕留められると思ってます」


 メルビンは後ろを振り向いた。すると、1人のゾンビが仕事をさぼっていた。彼は人間だったが、メルビンをいじめた罪で生贄に捧げられ、地獄流しにあった。ゾンビにされ、死ねない体になって、体が朽ち果ててなお、過酷な重労働をさせられていた。


「おら! 働け! 働け! お前らはいいよなー、ゾンビなんだから疲れないし、死なないんだ。だったら、永遠にここで労働しながら汗を流すんだ! わかったな!」


 メルビンは持っていた骨でゾンビの背中を叩いた。ゾンビは痛そうな表情を見せた。表情はうつろうつろだ。だが、何とか生きていた。


「はい!」


 ゾンビは泣きそうな表情だ。だが、泣くことができない。休むこともできない。死ねないからだという理由で、これほどこき使われている。ここは地獄だが、この重労働こそ、本当の地獄だ。


「おらおら、そこ、働けや! 働かない奴はぶちのめしてやるぞ!」


 その横にいたゾンビもさぼっていた。メルビンは骨で何度もたたいた。そのゾンビも痛そうな表情を見せた。だが、メルビンはそれを無視するかのようにたたき続けた。


「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

「これは俺をいじめた罰だ! 永遠にその十字架を背負っていくんだぞ! わかったな!」


 メルビンは不気味な笑みを浮かべた。こうしていじめた奴らに報復を与えている時が一番幸せだ。これまでの苦しみを晴らすことができる。


「はい!」


 ゾンビは苦しそうな表情だ。今にも泣きそうだ。だが、ゾンビは泣くことができない。


「このくそったれ! お前は幸せ者だな。ここで永遠に働かせてもらえるんだから。疲れることも死ぬこともないんだから」


 メルビンはより大きく太い骨で叩いた。ゾンビは背中の骨が砕けた。だが、すぐに元通りになった。


「はい、働かせていただきます・・・」


 ゾンビは再び重労働を始めた。だが、ゾンビは疲れ果てていた。だが、休むとまた骨でぶたれる。ゾンビの体は震えていた。


「さっさと働けや、この野郎!」

「痛い!」


 ゾンビは叫んだ。だが、メルビンは聞こえないかのような表情だ。


「痛いのはわかってる! だがな、俺はそれ以上に痛みを味わってるんだよ! 永遠に癒えることのない傷をな! 今俺はここでそれを味わせているんだからな! ありがたく思え!」


 メルビンは高笑いをした。かつて自分をいじめていた人間を苦しめるのはいい気分だ。王神龍にその仕事を任された事がとても嬉しかった。


「はい!」

「おらおら、さっさと働け!」


 メルビンは大声でゾンビに命令した。ゾンビは死に物狂いで重労働を続けた。




 翌日、滅亡まであと4日。あと4日しかない。そう伝えなくては。だが今は、世界を救うことに集中しなければ。


「あと4日だね」

「うん」


 サラとマルコスは雑炊の匂いで目が覚めた。サラは台所を見た。男が像すりを作っていた。


「あれっ、おじさん」


 サラは驚いた。昨日の夜、カップ麺を作ってくれた男が朝食も作ってくれるとは。とても優しいな。こんなお母さんにならないと。


「朝食作ってくれるんだ」

「ああ、お腹空いただろ?」


 男はこっちを向いて、笑顔を見せた。


「うん、ありがとうございます」


 マルコスはお辞儀をした。


「いえいえ、あんた大変だろ? 力を付けていかないと世界を救えないぞ」

「ありがとうございます」


 男はテーブルに雑炊を置いた。久々のテーブルで食べる雑炊だ。5人はとても嬉しかった。


「おいしい」

「それはよかった」


 雑炊を食べながら、サラはこれからどこに向かうか話すことにした。


「私たち、あのシリンド山を目指すんです」


 シリンド山はこの町の奥にある活火山だ。この火山は世界一ではないものの、急峻な地形で知られ、多くの登山者を苦しめてきた。


「あんた、あの山を目指すというのか?」


 男は驚いた。こんな険しい山に挑むとは。本当に大丈夫かな? 男は少し不安になった。


「はい」

「気を付けるんじゃぞ。この山は世界一険しいと言われていて、『死の山』と言われている」


 だが、5人はおびえなかった。それでも世界を救うために行かなければならない。


「でも、闇竜神ダエドに会わなければならないんです!」


 サラは強気な表情だ。どうしても行かなければならない。この人を救うために。そして、何よりもこの世界を救うために。


「そうかい。気を付けていくんじゃぞ」

「はい!」


 サラは元気な表情で答えた。それを見た男は笑顔を見せた。


 朝食を食べ終えた6人は、外に出てきた。岬の反対側には、大きな山がそびえ立っていた。シリンド山だ。山の頂上付近には雲がかかっている。そして、雪をかぶっていた。


「昨日はありがとうございました!」


 サラはお辞儀をした。男が笑顔を見せた。久しぶりに誰かと食べることができて嬉しかった。


「気を付けていくんじゃぞ」

「はい!」


 5人は男と別れ、シリンド山に向かった。これから険しい山に挑む。だが、ひるんではならない。世界を守るためなら、向かわなければならない。


 男は不安そうな表情でその様子を見ていた。本当に大丈夫だろうか? そして、本当に世界は救えるんだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る