第3話 地底の祠(2)
「お父さん! お母さん!」
ミノタウロスの少年が泣いていた。少年は両親を失って避難所にやってきた。
「泣かないで! 絶対に幸せになれるから!」
サラはミノタウロスの少年を慰めた。いつかこの子のために世界を平和にしなければ。
「デラクルス先生!」
「エリックじゃん!」
サラは後ろを振り向いた。そこにはゴブリンの少年がいた。自分が家庭教師を担当している少年の1人だ。彼も服がボロボロだ。
「元気にしてた?」
「うん。エリックは?」
「妹は助かったんだけど、お父さんとお母さんは死んじゃった。神龍教がこんなにひどいことやってるなんて知らなかった」
エリックは母と2人暮らしだったが、空襲で母を失った。叔父が神龍教の信者で、度々入らないかと言ってきたが、断っていた。
「そうか。私は10年ぐらい前からそれを知ってたの。で、あいつらと戦ったことがあるんだけど、負けて殺されそうになったの。でも、不思議な力が発動して、その代償で、記憶を失ったの。で、それから私、サンドラとして生きてきたの。私の本当の名前は、サラ。サラ・ロッシ」
エリックはサラの境遇を知って驚いた。まさかサラの母が神龍教に殺されていたとは。入らなくてよかった。エリックはほっとした。
「ふーん、サラっていうんですか。いい名前ですね」
「私、今、神龍教の神、王神龍を封印するために世界を回ってるの」
エリックは驚いた。サラが王神龍を封印しようとしているなんて。
「そうですか。僕、信じてる。いつか、サラ姉ちゃんが悪い奴をやっつけてくれるって」
「ありがとう」
エリックは笑顔で答えた。いつかサラが王神龍を封印してくれる。だからその日まで頑張ろう。
「パウロ」
突然、ドラゴンの姿のパウロが声をかけてきた。パウロは避難所に戻っていた。
「サラ」
「何しに来たの?」
「一緒に星を見ようかなって思って」
「そう」
サラとパウロは外に出て、星を眺めた。雲一つない。星がよく見える。
「きれいな星だね」
「そうね」
「外で寝るなんて、久々だよ」
パウロはあまり喜べなかった。ここで星が見られるのは、家を失って避難所にいるからだ。家を亡くした今では、笑顔を見せることができなかった。
「家を失ったもんね」
サラは家も家族も失ったパウロの気持ちがわかった。パウロのためにも、何よりこの世界のためにも。王神龍を封印しなければ。
「家族もみんな失ったんだよ」
「辛いよね」
サラはパウロの肩を組んだ。パウロは笑顔を見せた。
「でも、信じてるんだ。君が世界を救うってね。だが、君が世界を救う英雄になろうとは」
「私も驚いてるわ。でも、最近感じたの。だって私、普通のドラゴンではない力を持ってるんだもん」
サラは自信気な表情を見せた。自分の力強さに自信を持っていた。その力を使って、王神龍を封印して、世界を救ってみせる。
「そうなの?」
「うん。不死鳥になって仲間を復帰させる、金色の巨大なドラゴンになれる」
パウロは驚いた。サラがこんなことできるなんて。これはもはや普通のドラゴンではないと思った。
「そんな・・・。サラがこんな力を持っていたとは」
「自分でも最初は信じられなかった。でも、その力で世界をを救うのが自分の使命だと感じ始めたの」
サラは笑顔を見せた。世界を救うその日まで、笑顔を絶やさないでほしい。下を向かないでほしい。
「そうか。実は、サラ、言いたいことがあるんだけど、それは、世界を救ってからにしたいんだ。いいでしょ?」
パウロの目は真剣だった。何かを考えているようだ。だが、パウロはその理由を言わなかった。
「うん。楽しみに待ってるから」
サラは笑顔を見せた。きっといい話だろうと思った。
「サラ姉ちゃん、ドラゴン同士で何話してたの?」
突然、リサが声をかけてきた。2人の話が気になっていた。
「な、何でもないよ」
「そう」
リサは笑顔で去っていった。ひょっとしたら、恋じゃないかと思っていた。
「サンドラ先生!」
トカゲ族の女性が声をかけてきた。自分が家庭教師を担当しているセレナの母だ。
「セレナのお母さんですか?」
「はい」
「セレナさんは? 家族は?」
サラはセレナのことが気がかりだった。
「みんな死んじゃった」
「そう。いい子だったのに」
サラは残念がった。自分の教え子が空襲で死んだ。
「もう会えないと思うと、泣けてくる」
セレナの母は泣き出した。セレナどころか、家族みんなに会えない。
「泣かないで。私が悪い奴をやっつけるから。神龍教の神、王神龍を封印してみせるから!」
「ほんと?」
セレナの母は神龍教のことを今日の空襲で知った。友達が入信したことを知っていたが、こんな悪いことをやっているとは知らなかった。
「だから、その時まで涙を見せないで! 前を向いて生きていて!」
サラはセレナの母の肩を叩いた。それでもセレナの母は泣き止まない。
「うん」
「死んだ家族の分も行きましょうよ!」
「そ、そうね」
セレナの母は泣きながら去っていった。サラは心配そうに彼女を見ていた。
「サンドラ先生、サンドラ先生じゃないか? 大丈夫だった?」
後ろからバジリスクの男が声をかけた。サラが家庭教師をしているアンドレの父だ。
「うん。母が死んじゃったんですか?」
「そうなんだ」
サラは残念がった。だが、表情には見せなかった。王神龍を封印して、世界を救うまでは下を向かない。
「今朝はあんなに元気だったのに」
アンドレの父は悲しそうな表情を見せ、泣き出した。妻を失った。これほど悲しいことはない。
「泣かないで! 私が世界を救ってみせるから!」
「えっ!? どうして?」
アンドレの父は驚いた。サラが世界を救うなんて。そんなことできるのか?
「私、世界を救うために旅をしているの」
「そうなの?」
「私、世界に危機が訪れる時に生まれるミラクル種のドラゴンなの。そして、ミラクル種のドラゴンは世界を救う使命なの。だから私、世界を救うために頑張ってるの」
「そうか。サンドラにはそんな力があったのか。ドラゴン族は本当に素晴らしいな」
アンドレの父は驚いた。ドラゴン族にこんな力があったとは。だが世界が危機の時に現れるミラクル種がいるとは。まだまだドラゴン族は知らないことが多い。
「ありがとう。それに、私の本当の名前はサラ。サラ・ロッシ」
「えっ!?本当?」
アンドレの父は再び驚いた。サンドラに本当の名前があったとは。
「うん。私、10歳の時にミラクル種の力が発動したの。でも、その時は暴走して、記憶を失ってしまったの。まだそれを使うには小さかったみたい。それから私は、サンドラとして生きてきたの」
「そうだったのか」
サンドラの父はサラの今までの人生に感銘を受けた。こんなに過酷な人生を送っていたとは。
「うん」
「必ず世界を救って帰ってこいよ」
「わかったよ」
アンドレの父は去っていった。サラはアンドレの父の様子を見ていた。
「サンドラさん! お父さんとお母さんの遺体が見つかったらしいぞ!」
声をかけてきたのはギルバートだ。ギルバートは青いドラゴンの姿になっていた。
「ほんと?」
サラは驚いた。ただ、もう死んでいると知って少し悲しくなった。
「こっち来て」
サラとギルバートは遺体が置かれている場所に向かった。それは、隣接した体育館の跡にある。
2人は体育館の跡にやってきた。体育館の跡には多くの人がいる。みんな、身内の遺体を見て、涙を流している。
ギルバートはある男女の遺体を指さした。それを見た時、一目でサラは育ての父母だとわかった。
「これだ。抱き合うように倒れてたんだって」
「おとうさん! お母さん!」
サラは驚いた。だが泣かなかった。
「泣かないの?」
泣かないサラを見て、ギルバートは疑問に思った。育ての父母が死んだのに、どうして泣かないんだろう。悲しくないんだろうか。恨んでいるんだろうか。
「私、世界を救うまで泣かないんだ。神龍教の神様、王神龍を封印して、世界を救う。それが、私に課せられた使命なの。世界を救うその日まで、泣かないの」
「そうだな。絶対に世界を救うと信じてるからな」
ギルバートは笑顔を見せた。
「サンドラ先生!」
「リサ・・・」
振り向くと、そこにはリサがいた。リサも遺体安置所にいた。
「こんなとこでどうしたの?」
サラは驚いた。リサも遺体安置所にいると思わなかった。
「育ての父さんと母さんの遺体が見つかったの。抱き合うように亡くなってたんだって」
「そう・・・」
サラの両親が死んだと知って、リサは悲しくなった。
「残念だし、そんなことをした神龍教が憎いわ」
サラは拳を握り締めた。空襲を起こした神龍教が許せなかった。いつか復讐してやる! そして、王神龍を封印してやる!
「その気持ち、私もわかる!」
「ありがとう」
サラはリサの頭を撫でた。リサはサラの暑い気持ちがよくわかっていた。
「サンドラ先生って、気持ちが強いね。そんなことがあっても泣かないから」
リサは笑顔を見せていた。両親を失っても前向きなサラに感心していた。
「ありがとう。先生、世界を救う日まで泣かないことにしてるから」
「そんな強い心を持った先生、大好き!」
「ありがとう」
サラはリサの顔を長い舌でなめた。サラは嬉しそうな表情を見せた。
「サンドラ! サンドラじゃないか? 心配したんだよ。どこにいたの?」
メデューサの女が声をかけた。高校時代の友人のマリアだ。
「ガーデの滝にいたの」
「どうしてこんなとこに?」
「世界を救うための力を得る旅をしてるの」
「それ、本当なのか?」
マリアは驚いた。サラがこんな旅をしているなんて。とても信じられなかった。
「うん。私は、ミラクル種というドラゴンで、世界が危機が訪れようとするときに生まれて、世界を救う運命を持ってるの」
「そんな。サンドラがこんな力を持っていたとは」
マリアはドラゴン族のことについてはよく知っていた。だが、ミラクル種のことは全く知らなかった。
「うん。それに、私の本当の名前は、サラ。サラ・ロッシ」
「そうなのか」
マリアはサンドラの本当の名前を知らなかった。サンドラがデラクルスさんの本当の子供ではないと聞いていた。でも、本当の名前は全く知らなかった。
「私、10歳の時に、神龍教から世界を救おうと立ち向かったの。でも、王神龍に負けて、目の前で母を殺されて、自分も殺されそうになったの。その時、ミラクル種の秘められた力が発動して、金色の巨大なドラゴンとなったの。でも、その代償で、記憶を失って、サンドラとして生きてきたの」
「そんな過去があったのか」
「うん」
マリアはサラのこれまでの人生に感銘を受けていた。母を神龍教に殺されて、自分も殺されそうになった。それでもめけずに、神龍教に立ち向かっている。マリアはサラの気持ちの強さに感動した。
そんな中、ある老人が話をしていた。
「この街の外れに変な祠があるんだよ。俺も行ったことがないけど、ここには神様がいるんだって」
「そうか、それは知らなかった」
「で、そこに最近、神龍教の奴らが出入りしているんだよ。何だか怪しいと思わない?」
「うん。怪しい」
仰向けで星空を見ながら、サラはその話を聞いていた。
「ここに大陸神グラウ様が封印されていたりして」
「そうだな」
サムもそう思っていた。神龍教は最高神を石にしてそれらが解放されないように見張っている。だとすると、彼らも見張りの目的でデ杯入りしてると思われる。
「明日、そこに行ってみよう」
「うん」
サラは老人の元にやってきた。祠がどこにあるのか聞きたかった。
「すいません。その祠、どこにあるんですか?」
「えっ、どうしたの? 急に聞きに来て」
老人は驚いた。サラが聞いてくると思わなかった。
「そこに行こうと思って」
「ああ。ここだよ」
老人はサラが持っていた地図に印をつけた。
「ありがとうございます」
5人は明日、その祠に行ってみることにした。少し早いけど、明日に向けてしっかり寝よう。
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