第6話 ロン(4)

 4人はその先の部屋を見渡した。溶岩は流れ込まない。どうやら止まったみたいだ。


「あれ見て!」


 サラが指さした先にはにはフレアがいた。部屋は行き止まりになっている。フレアは逃げ場を失ったのか、辺りを見渡している。


「待て!」


 すると、フレアはようやくこっちを向いた。フレアは鋭い目つきをしている。怒っているような表情だ。


「あんた、なんでついてくるの?」

「サラマンダーのオーブを取りにきたんだ!」


 サラは必死だった。世界を守るためにはサラマンダーのオーブが必要だった。


「あなたには渡さないわ! なぜならば、私の愛人であり、偉大なる創造神王神龍様が世界の最高神になるために守らなければならないの! 私はOLだった頃からロンが好きだった。どんなに言われても、どんなに弱気でも、私は好きだった。結婚したかった。でも、ロンはある日姿を消した。私は自殺したんだと思い、泣き崩れた。でも、ロンは姿を変えて私のもとに帰ってきてくれたの。偉大なる創造神王神龍様として。私はそのことが嬉しかったわ。だって、大好きだったロンに再び会えたんだもの。私、ロン改め偉大なる創造神王神龍様のためなら何だってするって誓ったの。そして、新たな世界を築き、偉大なる創造神王神龍様が世界の最高神になったら結婚しようと思ってるの。素敵な話でしょ?」


 フレアは王神龍との愛について語った。そして、王神龍となったロンと再会した時のことを思い出した。




 フレアは泣いていた。半年前にロンが自分の前から消えたからだ。あんなに好きだったのに、結婚したかったのに。いなくなったのが信じられなかった。


 だが、誰も慰めてくれなかった。ロンのことを心配する人などいなかったからだ。弱気で、表情が暗く、友達のいなかったロンのことを心配する人など、フレアしかいなかった。


「ロン、あんなに大好きだったのに、どこに行っちゃったの?」


 フレアはロンの写真を見ていた。その写真を見るたび、涙が止まらない。できることなら、天国で再会したい。そう願って何度も自殺しようとしたが、できなかった。


「フレア、大丈夫?」


 母だった。母は泣いてばかりで食欲の落ちたフレアのことが気がかりだった。


「ロン、どこに行っちゃったの? あんなに好きだったのに」

「もう忘れなさい。また新しい人を探せばいいじゃないの」


 母もロンのことが好きになれなかった。表情が暗かったからだ。


 母は部屋を出て行った。フレアは相変わらず泣き崩れていた。


「フレア」


 突然、声が聞こえた。フレアは振り向いた。だが、誰もいなかった。


「ロン・・・、ロンなの?」


 フレアはその声に聞き覚えがあった。ロンの声だった。フレアは少し嬉しくなったが、いないと分かると暗い表情になった。


「僕だよ」


 後ろに誰もいないと感じたフレアは前を向いた。するとそこには、白い服を着た忍者のような男が立っていた。フレアは驚いた。誰もいないと思っていた。


「ロン?」


 目の周りを見た時、フレアはロンだとわかった。ロンの顔をよく覚えていた。


「ああ。僕はロンだ。でも今は、王神龍だ。僕は王神龍として生まれ変わったんだ。君と新しい世界を築くために」


 フレアは嬉しかった。大好きなロンに再び会えたからだ。


「また会えてよかったわ。あなたと一緒に、新しい世界、築きましょ」

「そうですか? それでは、私についてきなさい」


 フレアは王神龍とともにどこかに消えていった。捜索願が出されたものの、誰も見つけることができなかった。まるでロンのように。


 その後、フレアはいなくなっている間に魔獣の力を与えられ、神龍教の12使徒となった。そのことは、母を含め、誰も知らなかった。




「素敵だ! でも、世界を作り直す野望は全然素敵じゃない! 素敵だけど、そんな恋、許せない!」


 サラは素敵だと思っていた。だが、世界を作り直して結婚することには反対だった。


「許せないというのか? 偉大なる創造神王神龍様の新たな世界が許せないというのか?」

「ああ。人間と魔族が共存してこそ、この世界は美しい。だから、人間を滅ぼし、新しい世界を築こうなんて、許せない」


 サラは人間と魔族が共存する世界こそ美しいと思っていた。互いの違いを認め合いながら平和に暮らしている、これが理想の世界だと思っていた。


「私の考えが信じられないのか?ならば、殺してやる!」


 その時、フレアの体が大きくなり、巨大な赤いトカゲとなった。これが犬神によって与えられた魔獣の力だ。巨大な赤いトカゲとなったフレアが襲い掛かってきた。


「雪の怒りを!」


 サムは魔法で猛吹雪を起こした。だが巨大なフレアには体全体に吹雪がかからず、ダメージもあまり与えることができない。


「どうした? こんなので倒せると思ってるのか?」

「まだまだよ!」


 レミーは氷を帯びた爪でひっかいた。だがフレアはびくともしない。フレアは不気味な笑みを浮かべていた。


「こんなの、痛くもかゆくもないわ」

「食らえ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。だが、あまり効かない。マルコスは全く効かないことに焦っていた。本当に倒せるのか不安になった。今までに戦ってきた敵と比べ物にならないほど大きかった。


「これがお前の力なのか?」

「ふん! これでも食らえ!」


 サラは激しい氷の息を吐いた。フレアはサムよりも大きなダメージを受けたものの、びくともしない。


「私の力にひれ伏すがよい!」


 フレアは灼熱の炎を吐いた。辺りが火の海になり、4人は大きなダメージを受けた。マルコスとレミーは何とか持ちこたえたが、体に火が付いた。


「みんな、大丈夫だった?」


 サラは3人のことを気にかけていた。今までで一番の強敵だと思い、全滅することを恐れていた。


「癒しの力を!」


 サムは魔法で4人の体力を回復させた。4人を優しい光が包み込む。4人は完全ではないが元気になった。


「覚悟しろ!」


 レミーは氷を帯びた爪でひっかいた。それでもフレアにはあまり効かない。


「これしかできないのか? 愚か者が!」

「おりゃあ!」


 マルコスも氷を帯びた爪でひっかいた。それでもフレアはびくともしない。


「これで勝てると思うなよ!」

「そうか? これでどうだ!」


 サラは猛烈な氷の息を吐いた。フレアは少しひるんだものの、すぐに元の表情になった。


「わが力、思い知るがよい!」


 フレアは再び灼熱の炎を吐いた。4人は再び大きなダメージを受け、マルコスとレミーは瀕死になった。


「こ、こんなに強いとは。」

「気合を入れて挑みましょ」


 サラは気合を入れ直した。だが、そんなサラも倒せるかどうか不安になってきた。あれだけの大きな怪物だからだ。だが、世界を守るために倒してサラマンダーのオーブを手に入れなければ。その思いがサラを動かしていた。


「食らえ!」


 レミーは姿を消し、フレアを何度も鋭い爪でひっかいた。フレアは何が起きたかわからず、戸惑った。だがあまりびくともしなかった。


「癒しの力を!」


 サムは魔法で4人を回復した。4人を優しい光が包み込み、体力を回復させた。4人は元気になったが、前に比べて体力が少なくなってきた。


「負けないぞ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。相変わらず効かなかったものの、フレアの表情が少し変わってきた。少し苦しそうな表情になってきた。


「ガオー!」


 サラはより強い氷の息を吐いた。フレアは大きなダメージを受け、更に表情が苦しくなってきた。

「なかなかやるな! ならば、これでどうかな?」


 フレアはさらに強力な炎を吐いた。4人はまたまた大きなダメージを受け、レミーは倒れた。マルコスは何とか持ちこたえたが、表情が苦しくなった。


「レミー!」

「あまりにも強くて回復しても間に合わなかったみたいだ」


 サムはフレアの攻撃のすさまじさに驚いていた。回復しても間に合わない。このままでは全滅してしまう。サムは焦り始めた。


「癒しの力を!」


 サムは魔法で3人を回復した。だがサムは不安になった。このままではマルコスも倒れてしまうんじゃないか?


「食らえ!」


 苦しみながらもマルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。


「不死鳥の力を、我に!」


 サラは不死鳥となり、倒れたレミーを復帰させた。だが、また倒れるんじゃないかと不安になった。


「息絶えろ!」


 フレアは再び灼熱の炎を吐いた。マルコスだけでなく、サムも倒れた。復帰したばかりのレミーは持ちこたえたものの、あっという間に瀕死になった。火の攻撃に強いサラは持ちこたえていた。


「終わりだ! 死ね!」


 フレアは自信気な表情だった。勝てると思った。王神龍の役に立てると思っていた。


「許せない! 絶対に許せない! 世界を作り直して、人間を絶滅させるなんて、許せない!」


 サラは怒りに満ち、拳を握り締めた。すると、サラの体が光り始めた。まるで10年前に礼拝室に現れた金色のドラゴンのように。それと共にサラの体は急激に大きくなった。赤い体は徐々に金色になった。鱗は荒々しくなった。やがてサラはフレアと同じぐらいの大きさになった。その姿はまさに、10年前に現れた金色のドラゴンだった。


「そ、その姿は・・・」


 フレアはそのドラゴンを見たことがあった。10年前にマーロスという女を生贄に捧げ、その子供も生贄に捧げようとした時に、突然現れた金色のドラゴンだ。そのドラゴンが放ったまばゆい光に包まれ、儀式が取りやめになった。まさか、あの時のドラゴンがマーロスの娘のサラだったとは。


「サラ姉ちゃん・・・」


 レミーは開いた口がふさがらなかった。サラがこんな姿になれるとは。サラのすごさに驚いていた。


「おのれー、食らえ!」


 フレアは灼熱の炎を吐いた。だが、巨大になったサラにはあまり効かない。


「そんなの通用せんわ! 食らえ!」


 サラは猛吹雪を吐いた。フレアは大きなダメージを受け、瀕死になった。


「これでも食らえ!」


 フレアは炎を吐いた。だが、弱っていてサラにはあまり効かない。


「とどめだ!」


 サラは再び猛吹雪を吐いた。フレアは気を失い、大きな地響きを立てて倒れた。マルコスとサムは大きな地響きを聞いて目を開けた。


「な、何だ?」

「サラ?」


 マルコスとサムは何が起こったのかわからなかった。


「サラ姉ちゃんがおっきなドラゴンになってフレアを倒したんだ」


 レミーはその時の様子を詳しく語った。


「サラ・・・、やっぱりあの時見たのはサラの真の姿だったんだな」


 マルコスはあの時見た金色のドラゴンのことを思い出した。やっぱりあれはサラの真の姿だった。


 サラは元の姿に戻った。だが、以前のように記憶を失うことはなかった。


「どうだった?」

「すごい! やっぱりあのドラゴンだったんだな!」

「うん! 成長して、その力を制御できるようになったの」


 サラは笑顔を見せた。やっと真の力を見せることができたからだ。


「サラって、すごいよな。これがミラクル種の真の力か」


 サムはその力に改めて感心していた。これが世界を救う力なんだ。サラは世界を救う英雄なんだ。


「ありがとう。さぁ、早くサラマンダーのオーブを手に」


 倒れたフレアの向こうには、オーブがあった。そのオーブは、溶岩のように赤く、光り輝いている。これこそが、サラマンダーのオーブだ。


「あれが、サラマンダーのオーブか?」

「ああ。まるで溶岩のように赤く輝いている」


 2人は赤く輝くオーブに見とれていた。


「早く行こう!」


 4人は急いでサラマンダーのオーブの元に向かった。




 4人はサラマンダーのオーブの前に立った。すると、サラマンダーのオーブは一段と光り輝いた。


「よくぞ来た、奇跡のドラゴン、サラよ。私がサラマンダーだ。君たちが知っている通り、世界はかつてない危機に直面している。邪悪な神、王神龍の手によって、世界が作り直され、人間が絶滅することになるのだ。王神龍は、元々ロンという名前の人間だった。ロンは父子家庭で、父からはひどい体罰を受けた。さらに、学校ではひどいいじめにあった。それによって、人間を憎む心が蓄積されていった。社会人になってもそれは蓄積されていき、ある日、ロンは邪悪な神、犬神と出会い、神のオーブを手に入れることによって、神の力を得た。王神龍となったロンはそれまで蓄積していた憎しみを解放するかのように人間の魂を食らいつくし始めた。そしてそれが世界を作り直す力となるのだ。更に犬神は神龍教という宗教団体を設立した。犬神は、王神龍のように人間を憎む人々を次々と洗脳し、神龍教の信者にしていった。王神龍が世界を作り直すための力は日ごとに強くなっている。もう時間がない! 早く行きなさい!」


 サラマンダーは世界の危機を語った。そして、王神龍は何者か詳しく語った。


「王神龍がロンという人間だったなんて」

「本来、神のオーブは世界を変える大きな功績をした人が死ぬ時に与えられるオーブだ。だが、そのオーブを悪用して、邪神を生もうとする奴もいる。犬神もその1人だ」

「そんなの、許せない! 絶対に許せない!」


 サラは拳を握り締めた。神のオーブを悪用して邪神を生みだした犬神が許せなかった。彼も封印せねばと思った。


「僕も許せないよ!」


 マルコスも犬神が許せなかった。どうしてこんなことになったのかわからなかった。


「でも、どうして犬神が生まれたんですか?」

「犬神は元はとある村の山奥のオオカミだった。そのオオカミは猟師に殺された。だがその時、偶然神のオーブを手にしてしまった。神のオーブを手にしたオオカミ改め犬神は世界を作り直し、自分を殺した人間を絶滅させようとした。それによって我々精霊は絶滅した。邪神を封印する力を秘めているからだ。犬神は何とか封印されたものの、また復活して、世界のどこかで人間を絶滅するための策を練っているという。だが、まさか宗教で人を集めようとするとは・・・」


 サラマンダーは犬神がどうして生まれたのか、どうして精霊は絶滅したのか語った。


「その昔話、聞いたことがあるけど、本当にあったなんて」

「僕も聞いたことある。本当にあったなんて」


 その昔話はほとんどの人間や魔族が子どもの頃に母に読み聞かせてもらった昔ばなしだった。だが、本当にあったと誰も信じなかった。


「いや、本当にあった話だ」

「オーブはあと1つね。シルフのオーブよ。早く探しに行きましょ。確か、ナツメビレッジにあるはずよ」

「私の後ろに、魔法陣がある。それを使うがよい。入口に戻れるだろう」


 サラはオーブの後ろを見た。すると、魔法陣がある。これに乗れば入口に戻れるはずだ。


「みんな、早く乗りましょ」


 4人は魔法陣に乗った。すると、辺りは赤い光に包まれた。光が収まると、そこは洞窟の入口だった。


「戻ってきたわね」


 4人はほっとした。サラマンダーのオーブを手にして、様々な恐ろしい仕掛けがある洞窟からやっと抜け出せたからだ。


「さぁ、早くシルフのオーブを探しにナツメビレッジに向かいましょ」


 サラは3人を乗せて空高く舞い上がった。次の目的地はナツメビレッジ。険しい山の中腹にある小さな村だ。更に厳しい冒険が待ち構えているに違いない。4人は再び気を引き締めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る