夏の夜は星の灯りで
池田春哉
第1話 夏の夜は君と一緒に
「ねえ
「夏か。
「海、向日葵、花火、入道雲、桃をそのまま氷結させたかのようなアイスバー」
「一個にしろよ。欲張りだな」
「じゃあスイカ」
「全部違うのかよ」
「好きなものは最後に取っておくタイプなの。じゃあ逆に須田は何?」
「んー。俺は、星、かな」
「女子よりロマンチックなやつ言わないでよ」
授業と授業の間の10分休憩。
席を立って遊ぶ暇もないこの時間、私は後ろの席で机に突っ伏して寝ている須田によく話しかける。
須田はそのままの姿勢で、いつも気怠げだが返事はしてくれる。
「須田って星好きなの?」
「星嫌いなやついねえだろ」
「まあ聞いたことないけど。でもなんか似合わない」
「なんでだよ」
「『星だあ? あんなもんただの光だろ。懐中電灯と同じだよ。豆電球のほうがまだ使い勝手良いわ』とか言いそう」
「どんなイメージだよ。男は生まれつきロマンチストなんだ」
「須田がロマンチスト? 見えない!」
「スイカ女に言われたくねー」
多方向にカールする天然パーマを掻きながら彼は言う。
須田はいつも寝ているので何を考えているのかよくわからない。
いつも私が喋ってるけど迷惑だったりするのかな。もしかして聞き流してる?
この時間が楽しいのは、私だけなのかな。
「なんだよ」
「え?」
「今、見てただろ」
え、うそ。なんでわかるの。やば、誤魔化さなきゃ。
「シャンプーすごく泡立ちそうだなと思って」
「神から授かったパーマを馬鹿にするな」
あはは、と私は笑って誤魔化した。
「でも星と言えばさ、もうすぐだよね。いつだっけ」
「あー今年は土曜日だっけな、
星灯祭。
この村は日本でも有数の"星空の綺麗な村"であり、毎年7月の新月の夜には村人たちが集まって星を見るお祭りが催される。
一年の中で一番大きな規模のお祭りで、多くの村人から愛されている。
「須田は行くの? 星灯祭」
「んー、まだ決めてない」
「え、意外。お祭りとか興味ないのかと思ってた。てか、この世のすべてをどうでもいいと思ってるのかと」
「だから俺をなんだと……まあいいや。で、汐崎は行くの?」
彼の言葉に私は少し迷ってから言った。
「……私も、まだ決めてないや」
実は私は、この星灯祭に須田を誘いたいと考えていた。
須田のことを気になり始めたのはいつからだろう。
たった10分間の雑談を重ねて。
なんだこいつ意外と楽しいやつだな、って思い始めて。
明日は何を喋ろうかなあ、なんて考え始めて。
気が付いたら、彼と話すのが楽しみになっていた。
だから、そんな彼と一緒に星を見られたら楽しいだろうなって。
週末の星灯祭の話題がここで出てきたのは奇跡だ。ここを逃せば、きっとこの話はもうしないだろう。
これがラストチャンス……っ!
「須田が行くなら、行こうかな」
勇気を出して私は言った。言ってしまった。
一緒に行こうよ、と真っ直ぐ言えなかったことくらいは許してほしい。これが私の精一杯だ。
「……じゃあ行く」
小さくこもった声だったが、はっきりとそう言ったのを私は聞いた。
それに何の返事もできないままチャイムが鳴って。
始まった授業には、もちろん集中なんてできなかった。
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