第十三話 「疑惑」
言い方に多少むっとしたものの、言っていることは正しい。
狙われたのはおれたちに思えるが、教室内にいる死に神憑きの人間とも言える。
足りない二人を除外しても、残り二人。
教室には人間がいる。
確か……、
「
車体が突っ込んできたのにもかかわらず、椅子に座ったままの巫女姿の女子生徒。
目を瞑ったまま、未だに開いていなかった。
眠ってるわけじゃないよな……?
だとしたら鈍感なのか剛胆なのか……、
そんな御子峰の斜め後ろの席には、フードで顔を、マントで体を覆った手首から先しか肌を見せていない謎の男子生徒だ。
なんとなくで分かる骨格から男子と仮定したけど、女子生徒の可能性ももちろんある。
だけど一応、彼が山津波だ。
おれとは違ってきちんと在籍し、クラス名簿にも乗っている人間二人だ。
ちなみに、この場にいない生徒は
二人は霊能力者と見て分かる怪しげな見た目はしておらず、おれやひばりのように(ひばりは一見怪しいかもしれないが)普通の学生である。
幽霊の中に混じってしまえば、判別がしづらい。
だけどその分、話しやすいのも確かだ。
……同じ穴の狢とは言ったけど、御子峰と山津波は他の二人とは方向性が違う。
見た目から癖が強そうだ。
おれも、まだ自分から話しかけたことはなかった。
御子峰は比較的、話しかけてくれることもあるが……。
おれ、あいつは苦手だ。
すると、初が近づいていった。
気配に気付いた御子峰が目を開けて、
「日暮さん、あなたも死に神だったのですね」
――確定した。
聞くまでもなく、彼女の方からその名を口にした。
そうなると、近くに御子峰の死に神が……。
「安心しなさい。ここにはいません」
距離が離れていると、死に神には鎖が見えているはずだ。
初もオウガも、だから危険はないと知っているのだろう。
だが、
「……鎖が、ないだと……?」
オウガが戸惑ったように声を漏らした。
「ええ、私は死に神憑きではありませんから」
動揺が広がるおれたちに整理する時間も与えてくれず、彼女は言葉を重ねてきた。
「妙ではありませんか? 死に神憑きたちの殺し合い……、私も諸事情により知ってはいますが、車体を投げ飛ばす、操る……方法はなんでもいいですが、教室に突っ込ませて人間たちに攻撃する――不意を突いたように見えますが、回りくどいとは思いませんか?」
教室にいる人間を一掃するなら、間違ってはいないんじゃ……。
「間違ってはいませんよ。回りくどいと言ったのです。相変わらず足らない頭をしていますね、想像力を働かせなさい。これがあの墓杜家のご子息とは、落ちたものです」
家の評判がいくら落ちようが構わないけど、彼女も彼女で相変わらず口が悪い。
ひばりみたいに、恨まれるようなことをした覚えはないんだけど……。
ひばりにしたって、直接的におれがなにかをしたってわけではないし、あいつの逆恨みに近い。
「直接的、と思い浮かんだのならもう一歩、進めるはずでしょう……バカなのですか」
「もういいから、答えをさ」
「すぐに答えを求める、だからあなたはクズなのですよ」
後ろで、くっくっ、と笑いを堪えているひばりは、彼女に共感しているようだ。
うるさいなあ、分からないものは分からないんだから、仕方ないだろ。
「疑惑」
「は?」
「疑いなさい、全てを。死に神について知っておきながら死に神憑きでないと言った私と私の言葉を。そして、あなたの傍にいるパートナーのことを」
「…………」
「疑惑。あなたのようなバカでも、覚えられる言葉でしょう?」
「……どういう、意味で……」
話を戻しましょう、と、もやもやとしたまま、話題が遡る。
「死に神の鎌を使えば、能力によっては教室内の一掃もできるはず。鎌を使えば同時に幽霊も掃討できるのですから一石二鳥とも言えますし、たとえそういう能力でなかったとしても、幽霊に混じればあの二人なら見た目のこともあって、その場で振り回せばそれで首を刈れるとも思いませんか?」
あれ? 御子峰が、今……。
「じゃあ、やっぱりここにいない石森と嘉木坂が、死に神憑きの……!」
「疑惑」
と、諭すような言い方に、おれもはっとした。
「あの二人は元々仲が良いですから。この場にいないのは単純に登校が遅れている、どこかで駄弁っているだけの可能性だってありますからね。決めつけるのは早計です」
確かに、まだ遅刻とは言わない時間帯だ。
幽霊たちが律儀に集合しているせいで二人が遅く感じられるが、まだ余裕がある。
「容疑者であることには変わりありませんが。ともかくです、さっきも言った通り、回りくどいのですよ。車体を突っ込ませる、だなんて。幽霊のポルターガイストならまだしも……ただ、そんな霊的現象は観測されませんでした。この大きさ、重さとなると扱う霊力も大きくなるはずですし、蔓延した霊界にも波が出来ます。が、それがなかった。だから十中八九、死に神の仕業だと言えるでしょう。……目的は? 誰かを狙ったのは確実ですが、まるで事故を装っているようにも思えます。殺したい相手に、自分が殺そうとしたのだとばれたくないように」
「相手に自分が犯人だってばれたくないのは、でも、当たり前じゃ……」
「殺し合いをしているのに? 大義名分があるのにですよ? 遠慮なんてするなら最初から人殺しなんてしないでしょう。だから違和感なのです。直接を避け、間接的に殺すことに固執しているように感じられました」
ふむ、と考え込んだ矢先、
「疑惑」
と言われて再び顔を上げた時、発したのは御子峰ではなく、初だった。
「なんでしょう、私のどこに、疑惑が?」
「信じられない。あなたには信用がない」
「根拠を言ってくれますか? こんな嘘を吐いてあなた方を惑わす理由がありません」
「内容については、特に。ただ、あなたの人間性が信用できない。だからこれ以上、ひつぎに話しかけないで」
「酷い話ですね。彼のことを、バカにしてはいても好意はありませんよ」
バカにしてるのかよ、とは、口には出さなかったが。
「安心してください」
「安心できない。だって、あなたはこの場にいないから」
初が大鎌を取り出し、遠慮なく御子峰を斜めに斬り裂いた。
大きく開いたその斬り口から血が噴き出る……と思いきや、舞ったのは大量の白紙だ。
教室中が、白く細長い紙に覆われて――気付けば御子峰の姿が消えていた。
「式神だった……っ!?」
ひばりが呟いた。
式神? そう言えば、母さんがそんなものを使っていた覚えが……。
「もう一発、くるぞ」
オウガの言葉におれもぶわっと鳥肌が立ち、慌てて割れた窓から外を見ると、
二トントラックが宙を舞い、校舎に向かって飛んできているところだった。
教室が影の中に入る。
もはや一秒の猶予もなかった。
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