中立のナル(コミカライズ版ウィザードリィ)
@manami_manami
第1話
ロキたちと別れ、カルラともパーティーを解消してからもうすぐ三年。
頼った姉弟子にあたる風変わりな魔法使いはエリスの頼みをあっさり断った。そして続ける。
「もうすぐみんなに会えるのね。どんな気分?」
ナルは軽い口調で尋ねてきた。
「そのあとはどうするの? ここに残ってマスターのお手伝いをするの?」
「…まだ決めていないわ」
心ここにあらずという感が出てしまっただろうか、と思いながらもエリスは切り出した。今日、ナルに話しかけたのはむしろエリスの方だったが、普段からあまり話をしないエリスを物珍しく思ったナルが話題をどんどん変えてしまうのだ。天才と言われたエリスもナルの知識量や魔法使いとしての実力に驚かされることもある。何より彼女の掴みどころのなさに時折閉口していた。だから、今回のように自分から頼みごとをするというのは、彼女を信用してのこととは言え、なにかとやりづらいものだった。
ナルは人間属の中立の魔法使いだった。エリスがマスターから聞いた話では、おそらく通常の魔法使いのマスターレベルの三倍は経験を積んでいるだろうということだ。
「失われたスペルの中にラダルトがあるけど、ティルトウエイトの上のスペルだってあるのよ、あんまりにも危険だから封じ込められたらしいけどね、二千年くらい前に。いまそれについての文献を探してるの」、「マスターの部屋の本って魔法の本ばっかりじゃないのよ。歴史の本も多いの。ここにくるお弟子さんたちはみんな魔法にしか興味ないみたいだけど勿体ないわよ」、「ギルガメッシュの酒場がビールの値段あげるらしいわ。わたし、ビール飲まないから関係ないけど」
そんなナルの一方的な話を聞いた後、思い切って頼んだことは。
あっさりと却下された。
「もう現役は完全に引退してるの。最後に地下に潜ったのは八年も前なのよ。勘が戻らないと思うわ」
やや申し訳なさそうな表情をしつつも、その口調ははっきりとしていた。それ
までぽんぽんと話を変える間はあまり真剣さを感じなかったので、おそらく現役引退を貫く決意は固いのだろうとエリスは判断した。
エリスの頼み事とは、再結成するリョウやカルラたちとのパーティーに参加してほしいというものだった。
三年前、リョウとカルラそれぞれのパーティーは壊滅的なダメージを負い、一時的に解散を余儀なくされた。さらなる修行を積む必要があること、特にリョウとカルラ、それにエリスはそれに伴うクラスチェンジのため各自のマスターの元へ行くこととなり、その間は誰とも会うことなく修行に専念してきた。つい先日、カルラから書簡が届き、リョウたちとパーティーを組みワードナの玄室を目指すための召集がかかった。その内容には仲間がまだ必要であることも記されていた。新しいパーティーはリョウとミリアの善の二人とカルラとエリス、そしてリョウの友人だというホビットの盗賊で結成されることになっていたが、確かにもうひとり仲間が必要だとエリスは思った。ただでさえ人目を憚る善悪混合パーティーであるからこそ、と中立の属性を持つナルに追加メンバーとして打診したのだ。
エリスも彼女ひとりに固執するつもりはなかった。他の仲間たちも伝手を辿っているはずだし、と。ただ、やはり彼女も迷宮に挑んでいた時期があったのだと少し興味を抱いた。幼い頃から修行以外のあらゆるものに興味がなかった(あえて目を背けていた)エリスは、他人の過去に関心を持った自分に内心驚いていた。まるで迷宮の中で一風変わったアイテムを見つけたときのような。それともまだ知らぬ魔法を見つけたようなものか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます