出たな! 原生生物と初バトル!(1)
「げ、げげげ原生生物……」
「この匂いからして、恐らくアースワーム。大ミミズではないでしょうか」
ラーテルさんの言葉に、私はセリフをかみながらも、研修で習った知識を思い返してみた。
魔法で作られた生き物=魔法生物と違って、原生生物は自然の生き物だ。……なんだけど。何が原因か凶暴化したり、巨大化したり、変形し、自然界に生息するの生物と全く異なるものとなってしまった生き物。モンスター化してしまった動物、植物、昆虫、魚類などを一括りにして原生生物=モンスターと呼んでいるらしい。
もちろん。私の村でも、数年に一度、巨大化したイノシシ、とか、凶暴化したイナゴなどが出現する。しかしその都度、王都に一報入れて、騎士団なり、傭兵さんなりが倒してくれるから、一般人がお目にかかるようなことは殆どない。一生奴らと関わりなく過ごす人の方が多いんだよね……。
しかし。
王都アマデトワールの近辺では、なぜかこの原生生物が発見されることが多いんだって。しかも
で、件のアースワームもその一種。洞窟でよく見かけられる原生生物だそうだ。
どこにでもいるミミズが巨大化したものと言ったら大したことなさそうだけど、胴体周りが成人男性のそれと同じって言ったら、驚くでしょ? しかも体調は十数メートルに及ぶものも多い。
基本、餌は木の葉や、腐葉土なんだけど、実は雑食で、空腹だと動物にも襲いかかることがある。だから……私たちも、気をつけないと大怪我しちゃうんだよね!
私は一つ大きく深呼吸する。
そうして、互いに静かに視線を合わせた。
あ。あからさまにレトが耳をぷるぷる震わせながら、嫌そうな顔をしてる。うう。でも今回の作戦はレトが主体なんだよね。
「とりあえず、作戦通りにやってみよう〜! まずは作戦1番、レトの光攻撃、だよね、……頑張れる?」
とりあえず奴の気が逸れているうちに先制攻撃しなきゃ!
「う、う、う、う〜ん!」
眉と唇を曲げて、目もウルウル。ものすごく怯えた雰囲気のレトは、それでも腰からロッドを取り出した。それを両手で握り顔の前で一生懸命に精神統一を始める。
さっきも言ったけど、アースワームは元はミミズだからして、光、そして音と振動に敏感なんだ。
奴らは、土の中に住んでいるせいで、目は退化し、代わりに身体の皮膚全体に、五感を感じる器官が埋め込まれている。だから大きな刺激を急に与えると、びっくりして逃げてしまうんだって。ほとんどの場合それで戦闘を回避できるらしい。
私たちの仕事は遺跡の調査であって、モンスター退治じゃないものね! 無駄な争いは避けたい。
そこで!
研修時、私たちが考えてきた作戦は……。
レトの光魔法で脅かそう作戦! これだ!
レトの魔法は光属性。回復時に光を発するんだけど、この「光る」という部分だけをフォーカスして練習して、まぶしい光のみを発することができるようになったんだ。
とはいえ、私たちとミミズとの距離はだいぶある。これじゃあ光は届かない。
「レト。私が護衛します。さあ、行きましょう!」
「私も一緒に行こう」
ラーテルさんと、オウルさんの言葉に、レトは杖を握りしめながら、大きく頷いた。一ヶ月前なら泣いて何もできなかったに違いない。昨日のレトの言葉を思い出す。うんうん、一ヶ月でお互い成長したよね!
レトとラーテルさん、オウルさんのその後ろを、レトの肩を後ろから抱きつつ、私たちは部屋の奥へ静かにゆっくり歩み寄る。
腰につけたカンテラが照らし出す範囲からの推測になるけど、この部屋は幅狭で、奥行きがかなりあるようだ。幅は大体5mくらいだと思うのだけど、向こう側の壁面が予想以上に遠い……ん?
バリバリ……ごそごそごそ……バリバリバリ。
……うう。なんか音が聞こえてくる。それに伴い土臭い匂いが、どんどん強くなってくる。
それにつられ、私の鼓動もどんどん早く、音も大きくなってくる。
この音で奴がこちらに気付かないか不安になるほどのドキドキだ。
部屋の右奥。私たちの小さなカンテラの明かりが、地上からこのダンジョンを貫くように生えた木の根を映し出した。大木が長年をかけて、石の隙間を縫い、洞窟内に根を下ろしたんだろう。その太い木の根っこを貪っている何かの姿が見える。
いた! いたいたいた! ほら見て!
それは十メートルはあろうかと思われる大ミミズだった。色は青とも赤ともつかない……泥にまみれた紫色。もちろん太さはオウルさんの腰周りほどある。土の中から身体を出し、木の根に口を当てて、こするようにして削り取って食べている。土の中に潜っているところを見ると、体長はもっとあるかもしれない……。
ヤツの背中、頭から3mほど下に、穴のようなものが空いており、中からしきりにヌルヌルした粘液が吹き出し、身体をつたい、ポタポタと地面にこぼれ落ちている。
なるほど。扉が開くとき、あの音になぜ反応しなかったか不思議だったんだけど、食事に忙しかったのね。
しっかし、粘液といい、姿といい、うげえええ〜〜〜〜。気持ち悪いいいぃいい。
レトは耳を完璧に下げて、尻尾をブルブル震わせながらも、私たちを見上げる。大ミミズとの距離は大体3mほどまで迫っている。私たちは頷く。そして目を痛めないように閉じた。それを確認したレトが呪文を唱える!
「ブライト・ライトぉおおおお」
レトの甲高い声と同時に、目を閉じていても白さを感じられるほどのまぶしい光が辺りを埋め尽くした。数秒輝き続けたが、ふっと消え、まぶたがまた暗闇に閉ざされる。
ず、ずずずずずずずず……。
そーっと目を開けてみると! すごい! ミミズが動いてる! それに、おおお! 相当驚いたらしく、土くれをまき散らし、素早く地面に潜っていくじゃないか!
「やったあぁああ!」「レトすごい、すごい!」「やりましたわ!」
逃げ出すミミズを見送り、私たちは飛び上がった!
その瞬間だった。
ジャンプして、飛び降りた地面が、なぜか小刻みに振動している? え? ええ?? なんか足元が揺れて……!?
「アーミー危ない!」
鋭いラーテルさんの声が響くや否や、私は背中を力一杯突き飛ばされた。
そのまま、幅狭い部屋の彼方側の壁に吹っ飛び、むぎゅう! 耳と尻尾を立てたまま、見事に大の字の状態で、壁に激突して、床にずり落ちる。イタタタ。な、何がどうしたのお? 私は両手でじんじん痛む鼻を押さえつつ、立ち上がり、ラーテルさんに一言言おうと振り返って……そのままフリーズしてしまった。
床の上にヘタリ込むレト。そのレトの前にしゃがみ彼をかばうオウルさん。さらにその前に大きな木槌を構え、立ちはだかっているのはラーテルさんだ。
そのラーテルさんの前にいるものは……? な、何で?! まさかさっきの大ミミズ!!??
ついさっき地面の下にいそいそと逃げたはずの大ミミズ。それがいつの間にか、地面から顔を出し、天井ぎりぎりまで伸び上がっている。奴も興奮しているのか、背中からこぼれ落ちる粘液がゴボゴボと泡立つ。目のない顔の下にある大きく開けられた穴のような口。その口の周りには黄色く汚れた鋭い歯がぐるりと生え、ラーテルさんを頭から飲み込もうと!
――逃げてラーテルさん!
そう言いたかったのだけれど、あまりの恐怖に声が出ない。喉を抑えて声を張り上げようと、身体を折ったそのとき、木槌を構えていたラーテルさんが、耳と、短い尻尾をピンと立て、大型武器を携えているとは思えぬ速さで、右下から上に武器を振り抜き、大ミミズの顔面にアッパーカットを繰り出した!
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