My らいとにんぐ ♡ Lady 〜アーミーの旅立ち〜

九重 ゆめ

キッカケ(1)

 くううう。秘密を隠し通す、というのは、どうしてこんなに難しいんだろう……!


 私、アーミー=S=トニトルスは今日だけで優に五百回を越しているであろうふかーいため息を、またついた。


 頭の上からひょっこり生える、白い半月型のふたつの耳を、無意識にぴくぴくとせわしなく動かしてしまう。細くて白い、先っちょだけが黒く長いシッポも、ひっきりなしに揺れている。これじゃあ、なんにも言わなくてもかなりビビっていることが、クラスメイトに筒抜けだ。またバカにされるかもだけど、そんなことどうでもいいやって思えるほど、私はおびえ……いや。悩んで、いた。


 毎日通う見慣れた学校の校庭では、一時間も前から、魔力検診が行われている。


 王都アマデトワールからきた試験官、(尖った薄茶の耳に、半眼の緑色の目、薄いレンズのメガネをかけたすごく厳しそうな女性)が、分厚い書類を片手に、校庭の朝礼台の下に置かれた長机に座っている。この村で、今年十六歳を迎える少年少女が、順に繰り出す魔法を、一つずつ精査し、帳簿に記入しているのだ。


 私たち、獣人ネオテールは、だいたい十二歳ごろから、一人に一つ、決められた属性の魔法が使えるようになる。そして十六歳になると、王都から試験官が使わされてきて、その魔法の威力が年齢にふさわしいか、危なくないか。魔法が使えない=魔力が身体にこもってないか? などの検査が行われることになっているのだ。


 未来を担う大切な子どもたちが、初めて使う魔法のせいで、大けがをするのを防ぐため、なんて表向きは言われているけれど実際は……。



――ねえねえ、知ってる? 魔力検診って本当は、普通と違う属性の魔法を使う者を、調べるためにあるんだって。



 昨日のクラスメイトの言葉がよみがえって私はびくっと震えてしまった。


 そう。絶対に口外してはダメって言われてるから、誰も口にしないけれど、友達のいない私でさえ知っている有名な噂話だ。


 火、水、風、土。これらはノーマル四属性と言われる魔法の力で、ネオテールはこの四種のうちのどれかの魔法が使えるようになる。


 しかしまれに、これ以外の属性を使う者が現れるというのだ。


 そのような魔法を使う者は、王都アマデトワールからお達しが来て、都へ強制的に連行されるらしい。理由はわからないけれど、そこで一生軟禁されることとなり、二度と故郷に帰ることは許されない、なんて言われていて……。


 ダメダメ! そんな根も葉もない噂話を信じちゃダメ! 私はゾゾゾっとこみ上げる悪寒を振り払うように首を左右に振った。で、でも、も、もしもだよ? 私があんな魔法しか使えないってことがバレたら……どうなってしまうのだろう。そう考えただけで底なしの闇に落ちるような恐怖がこみ上げてきて、イテテ。また、おなかが痛くなってきてしまった。


「では、三十四番目。スーザン=アウスとライトさん」

「はい。フラワー・ブリーズ!」


 うう! とうとう私のクラスの試験が始まった。先ほどから、次々と魔法を繰り出し、試験をパスしていく生徒たちを前に、私の胃はキュウっと悲しい悲鳴をあげ、痛みも増していく。


 やっぱりここは「昨夜の貝料理に当たったので早退します」とかなんとか言って、体調不良作戦で切りぬけるしかない。だって……私はどうなってもいいけれど、私を養うため一緒にお店を切り盛りしている、たった一人の肉親のおばあちゃんを一人になんて出来ないもの……! お腹を抑えつつ、私はやっと決心した。


 ウソはキライだ。キライだけどやらなきゃいけない時もある。今日だけズル休みすれば、こんな辺境の村にまた王都から人が来るとは思えないからして、きっと一生誤魔化せるに違いない。


 そうすればずっと大好きなおばあちゃんと一緒に、大好きなカフェのお手伝いしながら静かに暮らしていける。心は痛むけれど、手をあげて、一世一代の大芝居を打つしかない! 勇気を出して、アーミー。フレー、フレー、アーミー。ヨッ! 大根役者(?)。


「あ、あの、す、すみません、お腹が急にイタ……」


 試験官の方を振り向き、左手を上げて、座り込もうとした、


 その時だ。


 とっつぜん、つい先ほどまで静かだった校庭のど真ん中から、ゴウっと凄まじい轟音とともに、暴風が吹き上がった。強風が空を切り裂く暴力的な風音に、私の声はかき消されてしまう。 え!? ど、どういうこと!?


「キャーー!!」

「逃げろ、飛ばされるぞお!!」


 すかさず聞き知ったクラスメイトたちの恐怖とパニックに陥った金切り声がこだまする。仮病も忘れ、何が起きたか見ようと目をこらしたものの、巻き上げられた砂が入り、たまらずその場にしゃがみこんでしまった。


 しかも、イタタタ。大きめな小石まで飛んできて、バシバシと身体のあちこちを打ちすえてくる。慌てて耳を抑えつつもう片方の手で頭を覆う。


 その間も絶えず、凶悪な風のあざけり声は続いている。やっとイシツブテ攻撃がおさまってから、私はそっーと顔を上げ、両手の隙間をほそーく開けて様子をうかがった。


 って。


 えええええええええええ!? こ、これって……一体どうしちゃったっというのだろう??

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