睦月くんの憂鬱な日常〜個性的すぎる奴らに振り回されて疲れてます〜

シタムキ

憧れの高校生活

一期一会。

この四字熟語はよく出来たものだと改めて思う。

一生に一度あるかないかの運命的な出会い、奇跡的な巡り合わせ、体良言えばなんと綺麗な言葉か。


この世に生まれ落ち、家族間やご近所付き合い、学校で出会ったりや仕事上での付き合いもあるだろう。

人によってはその出会い全てが良いものではないかもしれないし、人付き合いにはそこまで乗り気ではなかったこの俺、睦月一夜むつきいちやもこの言葉に感銘かんめいを受けたほどだ。


出会った人と時には笑い、時には泣き、時には喧嘩だってしたがこのどれもが人生においてとても大切なことであり、一つ一つの行動で人間の感情の変化が楽しめる。

人間関係とはなんとめんどくさく、なんと素晴らしきことか。


中学を卒業し、慣れ親んだ友人達とも離れ、新たな生活に何が待っているのか。

その時まではこの春から通う星園高校で。



そう、一ヶ月前のその時までは…



「おい、一夜よ。何を呆けている。貴様も話し合いに参加せんか」


声を掛けられる。

今声を掛けてきたのは弥生三空やよいみそらという女子で、ぼーっとしてて会話を聞いていない俺を見て少々機嫌を悪くしているようだ。


「はいはい、ごめんなさいごめんなさい」

「はい、は一回だと親から教わらなかったか」

「今そこ気にする?それよかいまなんの話してたっけ?」


適当にあしらい、話を進める。

あしらわれたことに不満げな三空だが、話を戻すことにしてくれた。


「いますぐにその腐り切った性根を叩き直してやりたいところだが、まあいい。いま我々は今後の活動について話し合ってるところでな。ある程度の意見が出たから決を取ろうと思うのだ」


どうやら話し合いは結構進んでいたらしい。


「それじゃ決を取る前にどんな意見が出たか聞かせてよ」

「仕方ないな。それでは心して聞くがいい」


なんで上から目線なんだろうか。

話し合いに参加していなかった俺も俺だが、どんな内容だったかは聞いてもいいじゃんね。


「まず一つ目がリア充撲滅運動の募金ボランティア活動だ」

「今なんて言った?」


あれ、耳が遠くなったかな。


「だから、リア充撲滅運動の募金ボランティア活動だと言っておろうに」


聞き間違いじゃなかったよ!?

「誰だそんな意見出したの!」

「俺俺!その案は俺が出したやつ!」


高らかに手を上げ、大きな声で応えたのは霜月しもつき十一郎じゅういちろう

どこにでもいる、ただのバカである。


「お前か霜月!またとんちんかんな案出しやがって!」


こいつ、霜月はいつもそうだ。

怖いものがないのか、俺達がやらないことを平然とやってのける。

だがそこには痺しびれもしないし憧あこがれもしない。


「別にいいじゃねえか!少なくとも話し合いに参加しないお前よりはマシだ!」


ぐううう!バカのくせに痛いところ突きやがる!


「まあ、霜月の言うことも尤もだが、私もその意見には賛成しかねる」

「なんでだよ!?ボランティア活動いいじゃんかよ!」


三空の言葉に霜月も反論する。

でもどう考えてもおかしいのは俺だけではないはずだ。


「霜月ちょっとうるさい。少し静かにして」

「え!?俺だけ!?睦月もうるさいじゃんか!」


今霜月を注意したのは如月きさらぎ二美つぐみ

とても物静かな女の子で、普段喋っているところをあまり見たことがない。

ましてやこの話し合いに参加するのも非常に珍しいと俺は思っている。


「睦月はいいの。言いたいことはわかるし、私もその意見には反対だから」


あの如月が俺を庇ってくれている!

こんな身近に味方がいてくれたとは…


「なんだよ、俺だけ悪者かよ。いいよーだ。」


霜月が不貞腐れる。


「話をもとに戻そうか。ひとまず霜月の案は却下して、次の案は…」


不貞腐れる霜月を無視して話を進める弥生。

せめてもうちょっと構ってあげて。


「みんなでカフェ巡りか。これは悪くないんじゃないか」


カフェ巡りか。

至って普通の学生らしい活動じゃないか。


「さっきの案が案だけにちょっと警戒してたんだが、意外とまともだな」

「誰の案がまともじゃないって?」

「話の流れからしてお前しかいないだろバカ」

「せめて名前で呼んで!」


突っかかってくるバカを適当にあしらう。


「ちなみにその案を出したのは誰だ?」

「それは僕の案だね。ちなみにこの意見にはみんな賛成だよ」


そう言って手を上げたのは卯月四音うづきしおん

名前と顔で騙されやすいが、れっきとした男だ。


「まあ、卯月の意見なら俺も賛成かな」

「はいはーい!カフェはカフェでもメイドカフェ希望!」

そういって霜月は手をあげる。

「またお前は余計なことを…」

「懲りない」

「地獄に堕ちろ」


俺、如月、三空から苦情がいく。

三空のは苦情と言うより暴言だけど。


「メイドカフェなど、私の目が黒いうちは行くことは許しません!弁えなさい!」


さらに苦情を言ったのは神無月かんなづき十香とうか

眼鏡をかけた真面目な女の子である。


「だいたいメイドカフェはあなたが個人的に楽しみたいだけでしょう。みんなのことを考えてものを言いなさい!」

「ご、ごめんなさい…」


思わぬガチ説教に謝ってしまう霜月。

とは言え、神無月もヒートアップしてしまったようで…


「メイドカフェはダメです!行くならせめてホストクラブになさい!」


余計なことまで口走っていた。

前言撤回、こいつは真面目じゃなくて自分の欲望に忠実なバカだった。


「神無月!それはダウト!お前も欲望が混じってる!」

「はっ!?私としたことがつい…」


自分が何を言ったのか理解したのか、顔を真っ赤にしていた。


「神無月さん、ホストクラブに行きたかったんですね…」


卯月がドン引きしてる。


「卯月さん!?これは、そのぅ…」


今までのイメージが崩れた瞬間であった。

表面上取り繕っているだけで、本音は欲望がましましであった。


「あのぅ…ホストクラブとはいったいどういったところなのですか?」

「「「「!?」」」」


衝撃の発言に俺と卯月、神奈月、霜月が発言した人物を見る。

その人物は水無月みなづき六海むつみ

今この場にいる中でも清楚で美しく、育ちのいい感じが滲み出ていて見るからにお嬢様と言ったような人物である。

また性格も大変よろしく、一部からは女神だの天使だのテンプレみたいなあだ名で呼ばれている。

かく言う俺も一度本人の目の前で女神と呼んだら嫌だったのかプンプン怒りだした(全く怖くないし、またそれが可愛い)。

そんな人物がなぜこの場にいるのかかなりの疑問だが今はそれを気にするところではない。


「え、水無月さん…?ホストクラブがどういった場所なのかご存知ない?」

「はい。なので具体的に何をする場所なのか全く分からなくて…神奈月さんさえよろしければ教えてい

ただけませんか?今後のためにも知っておきたいので!」


誰もが守ってあげたくなるような超絶純粋な応対をしてみせた水無月に思わずたじろぐ神無月。

っていうか今後ってなんだよ今後って。


「…水無月以外、今すぐ全員集合」


三空の召集のもと、水無月を除いたメンバーが集まる。


「おいおいおい、なんだよあの反応…なんか何もしてないのにこっちが悪い気になっちまう…」

「それについては俺も同感だ。流石にあそこまでピュアとは思わなかった…」

「神無月さん、ホストクラブ発言したの神奈月さんなんだからなんとかしてよ…」

「私!?確かに私の責任かもしれないけど、荷が重すぎるわよ!!」

「とは言え、我々もどう説明していいか分からんのでな…」

「…当たって砕けろ」

「遠回しに死ね発言してんじゃないわよ!!」


なんでホストクラブごときでこんなことになっているんだか…

もちろんこしょこしょ話だから当の本人は頭に?を浮かべているのだが。


「とりあえず神無月が知っている範囲で答えればいーだろ?俺はバカだから説明しろって言われても無理だぞ!」

「霜月君…そこ胸を張るところじゃないと思うな…」

「…バカばっかり」

「説明しろったってどうしろってのよ!?水無月さんに変なこと教えたら私が殺されるじゃない!!」


殺されるは考えすぎだが、確かに純粋無垢である水無月に変なことを吹き込むと彼女のファンがなんていうかわからない。

このまま話してても拉致があかないのだが、いかんせん解決策も見出せないでいる。


「ではここは僕に任せてくれないか。こういうのはストレートにいくべきだと思うんだ」


ここで名乗りを挙げたのは長月ながつき九里くりという男。

神無月や霜月と同じくらいヤベー奴なので嫌な予感しかしない。


「長月…その申し出はありがたいけど、変なことだけは絶対言うなよ?」

「大丈夫だ。ここで僕がパーフェクトなアンサーをしてこの場を乗り切ってみせよう」


一応釘を刺しておくも聞き流されてしまう。

というかこいつはいちいち発言がうざい。

病気か?

そんなこともお構いなしに皆月の方へ向かう長月。


「水無月ちゃん、ホストクラブがどういうところが知りたいんだってね?」

「は、はい!もしかして、長月さんが教えてくれるんですか?」

「もちろん教えてあげるとも!この僕が手取り足取り…」


「アウトじゃこらーーーーーーーーーーー!!」

「ゔっっ!!?」


叫ぶと同時に文月ふみづき七葉ななはが長月にドロップキックをかます。

ナイスだ文月!


「あんた睦月に変なこと言うなって言われたよね?何してんの?」

「ちょ、ちょっと…ま、待って…蹴られたところが…ぐふぅ…」


蹴られたところが痛いのか、息も絶え絶えである。

いやまあ、当然の報いではあるのだが。


「何してんのってこれから教えてあげるところだったじゃないか!?逆に何してくれてんの!?」

「ふーん、教えるって、どうやって?」

「そりゃ、手取り足取り…」

「死ね」

「へぶぅっ!?」


文月がさっきと全く同じ場所に蹴りを入れる。

ちょっとあまりにも容赦なさすぎて水無月がおろおろしてますよお姉さん。


「文月さん?いったいどうされたのですか?」

「んーん、なんでもないよ!ごめんね騒がしくて?」


てへっと笑う文月は可愛いのだが、それで先ほどのことはなかったことにはできませんよ?




「…つまりホストクラブとはそういったところなのです。わかりましたか水無月さん?」

「はい!ありがとうございます!ホストクラブとは奥が深いのですね…」


結局説明はうちのメンバーの中でもインテリ系な葉月はづき八雲やくもがすることになり、万事解決となった。

最初から葉月に任せればよかったのでは?と気にしてはいけないのだ。


「18歳未満は行ったらダメなお店なんて、えっちなお店みたいですね」

「限りなくえっちな要素はないのですが、何も知らないでそういう偏見を持つ方もいますよ。ただ、基本的にお触り禁止な店がほとんどですし、お客側から吹っかけてくることもあるそうです。」

「そうなんですねぇ。葉月くんは物知りですね!」


それほどでもと、葉月は謙遜しつつ説明を終える。

それと同時に扉が開く。


「あーーー!もう話始めてるのですー!ずるいですずるいですー!」

「すまない、日直の仕事で遅くなってしまった…」


今きたロリっ娘JKは師走しわす一二菜ひふな、筋肉モリモリな男は皐月さつき五織いおり

今日は日直だったため遅くやってきた彼らは謝りつつ自分たちの席に座る。

師走はなぜか俺の膝に座る。


「師走さん、なぜ当たり前のように俺の膝に座るのかね」

「なぜって、睦月さんの膝が一番落ち着くからですー。もしかして、嫌でしたか…?」

泣きそうな目でこっちを見るんじゃない。

三空がこっちを睨んでくるから大変なんだ。

「嫌では、ない、けど…」

「それならよかったですー!」


なぜこんなに懐かれてしまったんだか…

前世でいったいどれだけの徳を積んだんだろうか。


「ねえねえ師走ちゃん!睦月ちゃんも困ってるようだし、僕のお膝に…」

「あ、生理的に受け付けないので遠慮しますー」

「辛辣ぅ!?」


長月の誘いを秒で断る師走。

ロリっ娘でみんなのアイドル師走ちゃんが生理的に受け付けないって相当だぞ?


「それはそうと、みんなはさっきまで何を話していたんだ?」


ここで皐月が話題を変える。

というより脱線しまくっていたが、これが本題である。


「そうだ、さっき話してたことな。えーっと、何話してたっけ…?」

「今後の活動方針について話してたらいつの間にかホストクラブの話になってしまったな」

「本当に何話してたんだ!?」


そりゃそんな反応にもなるよね。




本当、なんでこんなことになったのか。

人と触れ合うのは楽しいし、実際問題今のこの状態もなんだかんだで楽しんでいる俺がいる。

不思議な出会いではあるがこれも何かの縁。

ここにいるみんなも楽しんでくれていると信じたい。

のだが…



「たまには静かに過ごすのもいい。個人的には釣りがオススメ」と如月。

「いや、やはりここはボードゲームであろう」と三空。

「えー、僕が提案したカフェ巡りにみんな賛成してたじゃないかぁ」と卯月。

「それならみんなで筋トレをしよう!筋肉はいいぞぉ…」と皐月。

「私は清掃ボランティアに行きたいです」と水無月。

「せっかく12人もいるんだし、なんかチームスポーツしようよ!」と文月。

「皆さん、学生の本分は勉学だということをお忘れなきよう」と葉月。

「僕は綺麗なお姉さんの椅子になりたいよ」と長月。

「美男子と美男子のキャッキャウフフしているところが見たいわ」と神無月。

「やっぱメイド喫茶でしょ!ここは譲れない!」と霜月。

「みんなでオススメの本を提供し合うのはどうでしょうか!」と師走。


……………


「お前らまとめる気全然ねえだろ!?」


今日一番の叫びが出た。

結局、今回の話し合いで何もまとまらず、時間だけが過ぎ去ってゆくばかりであった。


こんなまとまりのない奴らと3年間過ごさなきゃならないのかと思うと期待半分、不安半分である。

一期一会、よくできた言葉だなぁと、改めて思った。

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