第一生:獄道変

(1)

「どっちも向いてないな」

 僕はラノベでよくある……いや、ある意味では、こんな事態なんて聞いた事も読んだ事もない……異世界転生をした途端、雇い主の「魔族」から、そう言われた。

 ここは、いくつもの種族・勢力に分かれた「魔族」が、他の世界から堕ちてくる「罪人の魂」を奪い合う永遠の戦いを続ける……ぶっちゃけ「地獄」だ。「魔族」と一口に言っても、種族ごとに起源や祖先が違い、ややこしい事に、同じ種族の別個体でも姿や能力が似てるとは限らないし、違う種族なのに、能力や姿が似ている場合も有るらしい。

 ただ、同じ種族なら、性格や「オーラ」が似ているので、判別は出来る……そうだ。

 そして、この世界では、2つの勢力が、3つ目以下に大差を付けた「2強」らしい。

 1つは、もう1つに比べて数や個々の能力では劣るけど、団結力では勝る「体育会系」魔族。

 もう1つは、個々の能力も数も上だけど、まとまりに欠ける「ヒャッハー系」魔族。

 と言うか、「ヒャッハー系」の方は、1つの勢力と言うより、「ヒャッハー系」だけあって、更に無数の勢力に分かれていて……そもそも、自分達が「1つの種族だ」と云う意識さえ希薄らしい。

 で、僕が転生したのは、3位以下の勢力だ……。

 「体育会系」と「ヒャッハー系」の両方に「傭兵」を供給して、報酬として「食料」兼「通貨」である「罪人の魂」を分けてもらって生計を立てている。

 しかし、転生した後の「体育会系」と「ヒャッハー系」のどっちに「派遣」されるかを決める検査が終った途端に、将来の不安しか感じない宣告をされてしまった。

「あの……どっちにも行かないとどうなります?」

「知らん。お前んとこの『会社』に聞いてくれ。少なくとも、そうなった場合、俺達にとっては、お前は用済みだ」

「……あ……ごめんなさい。すいません……そうなると……別の派遣先に行く事になるか……最悪、向いた派遣先が無いと……契約内容からして……田中さんの魂は……他の世界で『燃料』か『食料』か……もしくは、工業製品かマジック・アイテムの『原料』になって消えます」

 検査に立ち合っていた「担当さん」……要は僕をスカウトした女の子……が、とんでもない事を言い出した。

「そ……そんな……契約の時に言ってよっ‼」

「ええっと、その話が長びくなら、自社に戻った時にでもやってくれ。それはともかく、体育会系アァラィアンは上から理不尽な事を言われても唯唯諾諾と従わないといけないが……性格テストでは、お前は、ストレスに弱い傾向が見られる。体育会系アァラィアンの方に行くと、多分、すぐにパニック状態か鬱になる」

「じゃあ、もう1つの方は……」

ヒャッハー系カーラケーヤの方は……ああ見えて機転が効かないと生きていけない。お前、前の世界ではノロマとかボンクラとかドジとか言われてただろう?」

 ま……まぁ……そうだけど……。

「は……はい」

「じゃあ、ヒャッハー系カーラケーヤの方に行っても、あっと言う間に死ぬ。あいつらにとって『舐められてる奴』は『死なせてもいい奴』だ」

 でも、じゃ……じゃあ……どうしろと……。

「まぁ、強いてどっち向きかと言うなら、体育会系アァラィアンの方かな? ヒャッハー系カーラケーヤはそれなりに能力が高かったり、相応の実績を積まないと舐められるが……つまり、いつ、面白半分に殺されるか知れたもんじゃないって事だが……体育会系アァラィアンの方は上の命令さえちゃんとやってれば、管理職の一歩手前ぐらいまでは出世出来る。……ちゃんと命令を遂行出来ればの話だけどな」

「じゃあ……体育会の方で……」

「念の為、言っとくが、体育会系アァラィアンの方も上からの命令をちゃんと果たせないなら……殺されるからな。あと、奴らの上の方は腹黒い連中ばかりだから気を付けろ。油断してると、味方に背後うしろから攻撃される。まぁ、せいぜい、殺されるにしても、少しは働いてからにしろ。そうしないとウチの評判が落ちる」

「あの……体育会の方は……団結は固いって……」

「その話は『相対的には』の意味だ。どっちにも内紛は有る。ヒャッハー系カーラケーヤは内紛を戦いで解決する事を好み、体育会系アァラィアンは……策略や暗殺や……奴らの中の『掟』を悪用して相手を陥れた奴が評価される」

 ……やっぱり、ここは「地獄」だ。

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