10月27日  AM 0:00

PM15:55 起床

PM16:20 高田馬場へ向けて出発。

PM16:50 高田馬場ビックボックス内スシロー着。

PM17;55 食事。寿司を3,500円分食べる。内容は割愛。

PM18:30 パチンコ実践開始。トキオプレミアムを打つ。18/1k。

PM22:30 実践終了。収支+3,000円。

AM 0:00 日記執筆開始。


 やってしまった。明日は仕事だというのに、起きたのが夕方16時前だ。原因は明らかに、昨日の長時間の散歩と興が乗っての日記執筆だ。反省である。今日は手短に書こう。


 寝起きの俺は、途方に暮れながらスマホでTwitterを見ていた。流れゆくタイムラインの中で、一件のPRツイートが目に留まった。どうやらスシローが、ウニと大トロを期間限定で安売りしており、その期日が今日までというのだ。無類のウニ好きである俺は、近場のスシローを検索する。どうやら高田馬場のビックボックスにあるようだ。高田馬場はよく使うが、スシローがあるなんて知らなかった。そうと決まれば、今日は寿司パーティーだ。ささっと準備を済ませて家を出る。

 昨日は東西線を使ったからという理由で、新井薬師から西武線で高田馬場に向かう。途中ですれ違う人たちは大きなバックパックを背負っている人が多かった。おそらく西武線で奥多摩にでも行った帰りなんだろう。健全な休日で何よりだ。駅を目前にした踏切に着いた瞬間、遮断機が下りる音がした。方角を見ると新宿方面も点いているではないか。足早に踏切を抜けてホームに。ベストなタイミングで電車に乗れただけで、少し得した気持ちになれた。

 

 高田馬場についたときに、昔通っていた脚本教室の老教師が住んでいることを何故か思い出し、当時の何気ないやりとりを思い出した。今から3年前の話だ。生活圏内が似ていることに親近感を覚え、教師に「高田馬場って昔はどんな感じだったんですか?」と質問した。


「早大の学生相手の商売と日雇い労働者が仕事探しで集まってたね。みんな金がないから、良心的な店が多かったよ」

「日雇い労働者が?」

「昔は労働出張所があってね。そこに労働者も苦学生も集まってたんだ」



 その日暮らしをしていた俺は、そんな歴史を持つ高田馬場近くに住んでいる。なんの因果だよ、と思いながら苦笑いを浮かべて「先生も使ってたんですか?」と聞く。すると先生も俺と同じような顔で「遊びすぎちゃったときはね」と答えた。それは確かに苦笑いだったが、どこか懐かしそうな顔をしていた記憶がある。元気にしているんだろうか。


 高田馬場に併設する駅ビルのビックボックス。9階建てで生活雑貨や衣料品、ボウリング場やゲームセンター、マンガ喫茶などが入っている複合施設だ。そこの最上階はフードエリアで、スシローをはじめ、サイゼリア、すたみな太郎などが入っている。顔ぶれを見たらわかる通り、低価格帯のフランチャイズで、メインの客層をファミリー層と学生に絞っている。悪く言えばどこにでもある顔ぶれだ。スシローもそのうちの1つだが、今日は黒山が出来ている。俺と同じくウニと大トロを目的に来た一般庶民の方々で、家族ずれが目立った。

 給料が入って初めての日曜。家族で出かけて、キャンペーン最終日のスシローで、いつもより早く夕飯を食べようというのだろう。その慎ましさが理解できる分だけ、夕方に起きて今から初めての飯を食べようとしている自分がみじめに思えた。そんな気持ちを抱えながら、番号札を取ってみると85分待ち。予定もないし、まぁいいかと思いながら、家族連れの中に紛れて座る。番号が呼ばれ、少しづつ人が離席していく。俺の順番はまだ遠い。煙草が吸いたくなり、7階にあるゲームセンターへと向かう。

 7階にあるタイトーステーションは、ワンフロアすべてに展開をする大型ゲームセンターだ。そこにはカップル連れや家族連れはもちろん、高校生をはじめとした若者たちがクレーンゲームなどで遊んでいる。俺が高校生の頃は、キングオブファイターズや鉄拳など、アーケードゲームと呼ばれるものが流行っていたが、今はカードを読み込ませてみたり、オンライン対戦などが主流になっていた。ゲームも複雑になったんだな、と思いながら喫煙所に入り煙草を吸う。ガラス張りになっている喫煙所、目の前にコインゲームがあり、数人の男女がコインゲームを楽しんでいる。それを見たとき「パチンコの方がマシだな」と思った。


 コインゲームの醍醐味と言えば、大量のコインを獲得することにあるんだろう。その一瞬の興奮を得るためには、コインを買ってデジタル抽選を受けて当選しないといけない。だが、それは甘くないようだ。客を見ているとコインは減っていく一方で、増えている様子はない。

 その中の一組、夫婦かカップルかは知らないが、女性が男性に声をかけ、席をたった。しばらくすると、大量のコインが入った箱を2つ手にして戻ってきた。コイン補充をしてきたのだ。そのうちの1つを男性に渡し、自分もコイン投入を再開しているしている。2人とも無言でコインを投入し続けているが、筐体内にある液晶が回っている気配はない。その目はパチンコではまり台を淡々と打っているパチプロと同じような諦観と退屈が浮かんだものだった。パチンコをする俺だからわかる。


「大当たりを引いたときに得られる快感に中毒になっているんだ。その一瞬がいつか必ず訪れるから、その時まで待っているんだ。それが楽しみもいら立ちも通り越した先まで来てしまっているから、あんな目をしているんだ」


 煙草を吸い終わったあとに、コインゲームをしている客を見てみると、みんな同じような目をしていた。はっきり言えば、依存症の目つきだ。日曜日の夕方のゲームセンター、家族連れや恋人、仲間同士が楽しそうにしている中で、彼らは何か作業のように言葉少なく、黙々とコインを突っ込み続けてた。


「いくらコインを得られても換金できるわけじゃないのにな。なのに、なんであんなに突っ込んでいるんだ? あいつらの闇はパチンカーより深いんじゃないのか?」


 そんなことを思いながらスシローに戻ると、ちょうど俺の番号が呼ばれた。今日の俺はなんかついている。


 待望のウニとトロを目にしたとき、思ったのは「小さい」だ。俺が手にした120円の皿の中には、1口サイズのウニの海苔巻きと、同じく一口サイズの大トロの切れ端が乗った握りが一貫ずつあった。他のメニューを見たら、充分な量と味を楽しみたければ170円以上の品を頼まなければならない。まぁそんなもんだろう。客寄せでウニとトロを使い、そのほかのメニューで儲ける。なるほど、うまく考えているな。黙々と食べる。昨日1万7000円くらい泡銭を稼いだから、別に痛くもかゆくもない。会計したら3,500円くらいになった。さすがあきんどを社名に冠するだけあり、商売上手だと感心し、スシローを出る。


 これから何をしようか?と思いながら歩く。時間は18:30近く。予定もないが、家に帰るのも早すぎる。しょうがないからパチンコをするか、家に帰って創作をするか考えながら、とりあえずあまり行かないパチンコ屋のEに入る。店内をざっと見まわすと、客付きはやばいくらいない。しかし、昨日見たAやBより釘調整が良い。こんな調整をする店ではないのに珍しい。たまたまイベントなのか、それとも離れた客を呼び戻そうとしているのか分からないが、勝てないまでも遊べる調整にしている。徘徊を続けていると、羽根物のトキオプレミアムを見つけた。今は撤去が進んでいるが、V入賞すれば大当たりというシンプルな台で、鳴きと拾いが重要になる台だ。昔はよく稼がせてもらった。見てみると調整は悪くない。打ってみると、よく鳴く。広いは悪いが、なんとかなりそうだと思い、5,000円を上限に打ち込む。すると、2,000円ほどでビックボーナス。その出玉で閉店近くまで遊べて、1000円プラスで、ロッテのカスタードクリームケーキをもらえた。良い時間だし帰ろう。帰りは電車は使わずに歩いて帰ろう。


 店を出て、早稲田通りを西へ。途中でキャリーケースを引いた男性浮浪者が、力ない目でトボトボと前から歩いてくる。多分、年齢は80歳近く。服装と汚れ方からして、多分3年以上は路上で生活していそうだ。俺は「おっちゃん」と声をかけて、カスタードクリームケーキを差し出した。


「なんだ? なんでだ?」

「良いんだ。おっちゃんが喜んでくれたら良い」

「もらえねぇよ」

「昨日今日と運が良すぎた。こういうのは持ち回りだ。もらってくれ」


 おっちゃんは、腹筋が乏しくなった掠れ声で「ありがとう」と言った。その顔を見たら、少しだけ動かした気がした。俺は再び歩き出した。途中で一回だけ振り返った。視界に映るはずの浮浪者の背中はなかった。その代わりに、休日を楽しむ人たちの遠景が、ネオンや飲食店の光に照らされていた。きっとさっきのおっちゃんは、思わぬ報酬に心躍って足早になったか、人混み飲まれてリズムを崩されたくなかったから、途中で路地に入ったんだろう。

 それからは振り返ることはなかった。空を見ると満月。月に祈るほどセンチメンタルでも絶望しているわけでもない。俺の行き先を照らすのは街灯と、時折来る空車のタクシーのヘッドライトくらいだ。それで充分だ。


 簡潔に書くとか言って、またこんなに書いてしまった。全然眠くないし、どうしよう。まぁいいか、おやすみなさい。

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