裸腑【同性愛作品】

虎丸 旭

一.艶


そもそも、幼い時から性への関心は高かった。

男性が胸よりも足の間に興味を持つのはなぜか、わざわざ唇を寄せ合うのはなぜか、裸にならなければ、愛を言葉にするだけでは足りないのはなぜなのか。

その疑問の多くは、母の部屋から壁越しに聞こえる "音" から生まれ、テレビの向こうの作り話で解決していった。


つまりは、愛には二種類存在するということらしい。こころ惹かれあい、互いを支え、欠けてはならない自身の半分のような存在を求める愛。もう一方は、精神と肉体、両方の穴を埋める快感と充足を得ながら、しがらみ無く漂い続ける愛。

そして母が持つ愛は後者の一つきりだということも、それすら私に向けられる事はないのだということも、15歳になる頃には分かっていた。


今夜の男はここ最近よく見る顔だった。母が同じ男をこう何度も連れ込むのは珍しいので、おそらくお気に入りの"モノ"なのだろうと思った。

膝を抱えてテレビの前に座る私はまるで幽霊で、こちらには一瞥もくれず、油でも塗ったようにテカテカと光る赤い靴を玄関へ放り投げ、ツンとする香水の付いた腕を男に絡めながら、ん、とか、はあ、とか、笑っているのか単なる呼吸なのか分からないような音を口からこぼしながら、母は寝室へ男を連れて行く。

幽霊は皿を洗うべく、テレビの音を少し大きくしてから立ち上がる。今しがた家へ上がってきた人間はわがままなので、私と関わりたくはないけれど、私が "その音" を聞いている、という事実を欲するのだ。

わざと食器のぶつかる音を立て、蛇口をシャワーに切り替え、第三者がここにいることを聞かせてやる。そうすると、ほら、パーティー会場では「聞こえてしまうわ」「大丈夫さ」なんてやりとりが始まるのだ。

なにが良くてやらされているのか全く分からなかったが、それでも、ほんの一握り、これが私に求められた母からの願いなら。そんなくだらない健気さも、あったのかもしれない。


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