自殺転生~一度死んだ命で異世界ではそれなりにチートだと?その力で世界を暴け!~

山本友樹

第1話 東京自殺センター

東京自殺センター。


人間という種族は様々な欲望をむき出しにした結果、食料危機を起こしていた。ここ、日本も例外ではなかった。


この食料危機により、爆発的に増えていた人類は食料を増産するのではなく、人類の数を制限していくことになる。


そこで様々な世界政府は人間の命に価値をつけていくことになる。


基準は世界政府により定められており、世界はそれに倣うように命の選別を始めた。


そんな中、日本という国は「自殺センター」なるものを建設。日本国内で食料の不足が起こった際、自ら命を絶つものを募集し、食料と国民を管理していたのだ。食料の価値が大きくなっていったため、お金を持つものイコール命の延命措置を行えるという世界へと変貌していたのだ。





登坂修一郎は自殺を行うために朝を迎えた。


成人男性の一人暮らしの部屋にしても狭い部屋に住んでおり、家に帰れば寝るためのスペースのみ与えられたこの東京の部屋は自己評価があまりにも低い修一郎にとっては十分なスペースだった。


だがそんな生活も今日でおさらばである。東京自殺センターの応募に合格したのだ。

合格基準は修一郎には分からなかったが、別に構う事は無かった。どうせ死ぬのだから。


身支度を済ませ、遺書をベットに置き、外に出る。照りつける太陽は秋が近づいていることを忘れさせる図々しさを持っていた。


東京自殺センターへは徒歩で最寄駅まで歩いてその後は電車1本で15分。そんなところであった。


駅へ向かう途中、小学生3人組が修一郎の横を騒ぎながら過ぎ去っていく。


「昨日のアカキンの動画見たか?すごかったよな!」


「俺もアカキンみたいになりてえな!」


「俺、サッカー選手になりたいなぁ!」


3人はそんな事を言う小学生の言葉が修一郎の心にぐさぐさと突き刺さる。昔は、子供の頃は、人は何者にもなれる、そう思っていた。ただ今を生きていればよかった。


それが年齢という重ねたくもないものを重ねるにつれて人間と言うものは何者にもなれず、そしてそれ相応の器に果てはめられていく、それが人間という生命体だった。

いいことなんて何一つない人生だった。


修一郎はそんな事を思いながら、最寄駅まで道のりを歩く。


高校生で俳優になりたいと思い、卒業と同時に上京した。親の反対を押し切って、である。


だが、現実はそう甘くは無かった。


養成所や所属していた劇団ではうまいと褒められていたのが、オーディションは受からなかった。唯一出演したテレビ番組はある再現VTRのプロボクサーの横に映るレフェリーであった。


勿論努力を怠ったわけではない。様々な芝居、音楽を学び、自らの糧にした。


だがどれもうまく活かされることは無かった。活かされていれば、今頃報われており、俳優として売れているはずだからである。


その後、社会人生活をしていた学生時代の友人たちと共に劇団を立ち上げることになる。


その劇団が軌道に乗った時だった。大物プロデューサーの目に留まり、映画の企画に携わらせてもらう事になる。


その代り条件があった。


修一郎と縁を切るという事であった。


その大物プロデューサーによる監督プランには修一郎は邪魔以外の何ものでもなかったのだ。


友情を取るか名誉を取るか、友人たちは迷うことなく選んだ。


修一郎を切ったのだ。その瞬間から友人たちとは連絡が取れなくなり、修一郎はまた1人俳優としての努力を積み重ねるのだが、やはりうまくはいかなかった。


自分の人生を振りかっていると最寄駅に到着する。平日の正午であるにも関わらず、様々な人が行き交う。


スーツに身を包み、滴る汗をハンドタオルで拭くサラリーマン。


携帯を眺めながら、目的地を目指そうとする外国人観光客。


ベンチに腰掛け、人目を気にせずに接吻を行うカップル。


どれもこれも今を生きている人生であった。その中に自分もいた。まぁあと少しすれば人生でなくなるのだが。


電車に乗り込み、死までの時間をカウントする。15分電車に揺られるわけだが、時計は秒刻みで死の時間をカウントしていく。


少し前まで自分の俳優という歩んできた来たもの対してネガティブになり、絶望していたが、いざ死が決まるとすごく前向きになれた。ほんの少しだが外食では豪遊した。ラーメンには必ずノリをトッピングし、ハンバーガー屋ではLサイズのコーラを頼んだ。


昔は生活を切り詰めるためにそんな富豪のようなことはできなかった。だが、死が決まると、思っているよりお金を使えた。


「着いたか」


目的地へのアナウンスと共に駅へ降りる。


改札を抜け、空を見上げる。


オフィス街と言う事もあり、様々な高層ビルが立ち並ぶ。その中の1つに東京自殺センターがあった。


30階もあるそのビルの前に来るとやたらと騒がしく感じた。


「人に死を強要するなー!」


「人類を管理するのではなく食料の確保を優先しろー!」


プラカードを掲げた人たちが東京自殺センターの前でデモを行っていた。


そんな事を気にせず、ビルの中へ入ろうとすると1人のおばさんに引き止められる。


左袖を引っ張られ修一郎よりも背が随分低いそのおばさんは語りかける。


「あんた、今からここ入って死ぬってわけじゃないだろうね?」


目から熱意を感じた。


「だったら何なんです!」


修一郎は引っ張られた袖を気にしながら即座に反論した。


「あんたは命の価値が分からないの?あなたにもあなたを愛してくれる人がいて、あんたを生んだお母さんやお父さんがいる!命は綿々と繋がっているの!あなたの命は・・・・・・」


そんな事を言った時であった。


袖をプイと力を入れ、おばさんの手から解放される。


「知ったようなことを!あんたに何が分かる!俺の何が!俺の名前!血液型!星座!両親の本名!好きな物が分かるのか!」


修一郎の言葉におばさんは黙り込む。


「分からないだろう!ぞりゃあ出会ったばかりだからな!知ったようなこと言うなよ!俺はせいぜい精一杯生きたんだよ!生きたけどどうにもならなかったんだよ!」


「でも、あんたは今も立派に生きてるじゃない!不幸が何よ。生きていればきっといいことあるわよ」


その瞬間。修一郎はおばさんの胸倉を掴む。


「だったら!あんたが俺の面倒を見てくれるのか?俺の夢を叶えてくれるのか?できるのか!できるのか!ああ?」


おばさんは再び黙りこむ。


「出来ないだろう!そりゃあ出来ないよなぁ!全くの赤の他人!そんな事をする義理もない!」


でも、私はあんたの事を思って・・・・・・!おばさんは細々とした声で言葉を紡ごうとする。


「身勝手なことを言うな!勝手に生きててほしいだなんてほざくな!俺はやったんだ!やったんだよ!お前に分からないくらいにな!じゃあなんだ?このまま俺は生きれば俺の夢は叶うのか!叶うのか!なぁ答えてみろよ!無理だろ!無理だよなぁ!お前に俺の何も分からないもんなぁ!命に責任を取れないのなら!黙ってろ!」


ふぅふぅ・・・・・・。気づくと修一郎は怒りの感情のボルテージを最大限に話している事に気付いた。


「二度と会うことはないでしょう・・・・・・!」


修一郎は胸倉を放し、自殺センターのドアをくぐる。


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