第11話 「御大の件について」
そこには詩人少女が立っていた。
「そう! 『己のイチモツよ、そそり上がれ!』と叫ぶんですわん!」
詩人少女は同じ事を二度叫んだ。
「え、え~と」
対応が分からないイマダンは魔童女の方を見た。
「まあ、とりあえずやってみろ」
本当にとりあえず的な命令だ。
イマダンは渋々『Gの剣』を構えて声を出してみた。
「お、己のイ、イチモツよ、そそり上がれ……」
イマダンは最後は小声になり顔を赤らめて下を向いた。
「それでは、ダメですわん!
胸を張って心の底から声を出して……
いいえ、その剣を両手で握って股間に添えるのですわん!
そして、股間から声を発するように叫ぶんですわん!」
詩人少女は両手のコブシに力を込めて叫んだ。
チョット目がイッてるんですけど……大丈夫なのか?
「皆んなに己を見て欲しいと、股間にその想いを込めてイキリ出すんですわん!」
……どうするんだ、言われた通りにヤるのか?
イマダンは躊躇したが、柄を両手で握って股間に添えた。
覚悟を決めたようだ。
朝からなにも出なかったので、いい加減これで終わりたくて詩人少女の言う通りにした感じにも見える。
目を閉じて精神統一を図っている。
おっ、目をイッキに開いた!
「お、己のイチモツよ、そそり上がれ!」
股間も思いっきり突き上げた!
女子の目の前でよく出来たな、見直したぞ。
ああ! 股間が光った!
「うっ!」
イマダンがうめき声を上げた!
“どぴゅ! どぴょ!”
なんか白いのが出たぁ!
「出たぞ!」
「まあっ!」
二人の少女は目を輝かせた。
イマダンの股間から……いや『Gの剣』の先っちょから白い光の粒が勢いよく飛び出した。
その粒は長い棒のような形で固定され、光輝いたまま三十センチの長さで留まった。
「やったぁ! 飛び出たぞ!」
イマダンは股間に添えたまま自慢するように剣を振って少女に見せびらかした。
開放感いっぱいのイイ笑顔だ。
詩人少女は片目を閉じニッコリスマイルで右手の親指を立てた。
ビームだ、ビームの剣だ!
こんな魔法の剣があるなんて凄いぞ『Gの剣』!
ん?
魔童女は剣ではなくサーベルと呼んでいたよな。
……剣ではなくサーベル……ビームのサーベル……
コイツの盾は、長方形なのに六角形……
まさか『Gの剣』って……あの国民的ロボットアニメのアレじゃないのか!
ビームのサーベルと、長方形なのに六角形の盾!
……言いたい……たとえどんなに周りに迷惑が掛かるとしても……
そう、これはあの大ヒットアニメ『機――!
「そう、これはジジイが使う為の剣だ。
刃の部分が光で軽くなっているから、年寄りでも扱えるように造ってあるんだ」
魔童女が俺の覚悟をさえぎった。
「触っても熱くも痒くもないぞ。
ヨレヨレの爺さんでも扱える、まさに『爺の剣』だ」
御大の剣だったのか!
光の粒子で出来ているから軽いのか?
軽量化を実現した剣だ。
爺さんの爺でもあり、ジジイのジイでもあり、それをローマ字に変えればGでもある、まさに万能な剣だ。
「一応、褒めてやるぞ。
……なかなかの短小だがな」
近付いて光りの棒を吟味しながら魔童女は言い放った。
その言葉を聞いた男のガッカリは相当なものだったに違いない。
「アナタ、魔法の出し方、覚えているかにゃ?」
詩人少女も近寄って股間の物を吟味をしながら訪ねた。
「えっ、あっ、いや」
イマダンはどう返事をすれば良いか分からず、ヘラヘラと笑って誤魔化した。
曖昧な返事に二人の少女は困り顔になり、そのままイマダンの股間の前でしゃがみ込んでしまった。
「やっぱりなのにゃあ」
「オマエ、そんな基本の事まで忘れたのか?」
少女たちはイマダンの股間の見ながら、いや爺の剣を見ながらイマダンの股間の前で議論を交わした。
しかし、この二人の位置は……
イマダンもそれに気付いてモジモジしている?
興奮しているのか? いや、そういう感じでもないな。
イマダンは恥ずかしくてモジモジしているようだ。
二人を意識しないように上を向いて、爺の剣を握り締めて股間を押さえている。
なんかトイレを我慢しているようにも見えるぞ。
「魔法とは魔力の放出の事だ」
「魔法が使えないと……にゃあ~」
二人はイマダンの股間の爺の剣を見ながら嘆いた。
そんな事を言われても、魔法のない国からやって来たんだから仕方ないよな。
「とりあえず構えてみろ」
魔童女の言われた通り、イマダンは中段の構えを取った。
あら、結構さまになっているじゃないか。
イマダンは十字に剣を振った。
剣筋はぶれず、綺麗に十字を斬った。
刀身が光の粒子で出来ているせいか、風切り音がしない。
それとも正確に振り切ったので、空気の抵抗が少なくて音が聞こえなかったのか?
コイツ……前の世界で剣を使った経験があるのか?
明らかに素人の動きではない。
しかも、剣道とかの動きではなく、剣術の動きだ。
もしかしたら俺とは違う世界から転生して来たのか?
中世ヨーロッパ、サムライニッポンとか……まさか俺とは違う異世界人か?
いや待て! 頭では覚えていないが身体が覚えているという話か?
分からない……だが、こんな時にお助けアイテムを持っている事を俺は知っている。
神様ぁ~、教えてぇ~!
俺は先程、軽くあしらった事を忘れたかのように気軽に呼んだ。
「ほほっ、お悩みじゃな」
神様はお手軽に駆けつけてくれた。
今の魂の男[イマダン]は、俺とは違う世界からやって来たのか?
「ほほっ、オヌシと同じ時代の日本人じゃ。
しかも同世代じゃ」
じゃあ、なんであんな達人みたいな動きが出来るんだよ!
「オヌシが言うておったではないか、身体が覚えていると。
魂が違えど、その頭の中身も身体の一部じゃからのぉ。
言い換えたら、心技体の技体はそのまま残っておる。
言葉も普通に話せるように、剣の扱いも構えを取ったら思い出したのじゃろ」
ふーん、そう言うものか……
心では納得していないが、頭では理解は出来たので、ヨシとしよう。
いや魂は納得しないが知性は理解したと、自分の場合は正しいのか。
それでは、さっさと――
「ぞひぃぃっ!」びゅーん!
くそ、ぞんざいに扱ってオサラバしようと思ってたのに!
俺は飛び去った姿を見送りながら、次こそはと誓った。
イマダンはまだ剣を振り回している。
今までになく真剣な態度だ。
“ぶうぅぅんうんしゅしゅしゅざっざっざっくしゃぁしゃぁあずぅなぁぶぅぅるるぅぅんわきゃぁすばぁるるぅぅんんっおういえぃいえぃきゅんきゅきゅうぅぃぃんんー!”
剣を振る音がしないので、声で音を付けてみたが……どうだろう。
宇宙空間のような真空では音が伝わらず無音状態なのに、映画やアニメでは迫力を出すため、カッコイイ効果音をガンガン響きかすのと同じイメージだと思って皆さんも大声で叫んで頂けたらアリガタイ。
……確かに本物の剣士のようだ、動きがさまになっている。
「いいにゃん、いいにゃん! もっと汗をかいて、びちょびちょになるにゃん!」
イマダンは調子付いて、ガムシャラに剣を振ってさらに汗を飛び散らかした。
詩人少女もなぜか汗をかいて、男の熱くなった筋肉と汗で濡れた身体を見て目をギラつかせていた。
彼女がこんなキャラだなんて……
「おい、もう帰るぞ」
魔童女が催促したがイマダンは辞めなかった。
「そうそう、コッチの準備が終わったから呼びに来たにゃん」
「は、はぁい! はぁはぁ」
イマダンは詩人少女の声を聞いて動きを止めた。
胸か? 胸なのか! 魔童女は無視して、詩人少女には従うのは?
なんてスケベでお調子者なんだ!
手に持っていた爺の剣の光の刃がスッと消えた。
イマダンは不思議そうに柄の先を眺めていた。
スケベ心の影響で消えたのかも知れない。
「剣筋は今まで通りだな。
刃の出し方を忘れるなよ、それが魔法の出し方でもあるからな」
魔童女の忠告を聞き流すかのように、運動後のストレッチを始めたイマダンであった。
汗をかいてスッキリしたのか、爽やかな笑顔で語り出した。
「はぁはぁ! なんか、はぁ! 部活みたいで楽しかったよ」
「部活ってなんだ?」
また魔童女にツッコまれた。
なにを言ってんだ!
部活なんて言葉、ここじゃ使用禁止用語だろ!
二人の少女は集まってヒソヒソ話を始めた。
怪しまれている……やっぱり悪霊が転生したと……確かに彼女達にとって俺達は悪霊かも知れない……
身体は知っていても、魂は別人なのだから……
「な、なあ! お、おれも魔法が使えるのか?」
この疎外感が耐えられなかったのか、イマダンは声を掛けた。
眼中になかったが、いい質問だ。
剣と魔法の世界に来たんだから使いたいよな。
「……男性は女性ほど魔力がないにゃん、でも爺の剣が使えたから練習すれば、また使えるようになるにゃん」
「魔力とは精神力、そのものだ」
魔法が使えるのか……俺にも使えるのか?
どのボタンを使うんだ? こんな単純なインターフェースで魔法が出せるのか?
「もう行くぞ」
魔童女が号令を掛けた。
だがイマダンを見ながら、なにか考え込んでるみたいだ。
おい、やっぱり怪しまれているぞ! 不用心に元の世界の事を言うから!
まさか、バレてパーティーから追放されるんじゃないだろうな?
魔童女が口を開いた。
「ところで、イチモツってなんだ?」
イマダンと詩人少女は黙って宿に足を向けた。
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