第3話 「ファンタジー、夢と冒険の世界へ」
嘘に決まってる!
だって彼女は俺の所に来たじゃないか、満面の笑みを浮かべて!
「先輩への告白が成功して、まさに満面の笑顔でオヌシに断りに走って来たのじゃ」
そんな〜! 皆んなの前では俺のこと好きって言ってたのに……
「本当の相手を友達に悟られたくなかったのじゃろう」
なんだよ、それ!
それじゃあ、二人は……あれから随分経ってるって言ったよな、確か年を越したって。
……
じゃ、クリスマスデートは!
もしかして、デートで、キ、キスとか……
「キスどころではないわ、最後までヤッてしもたわ。
ほほっ」
‼︎
絶句して言葉が出ない。
「たいそう、お楽しみじゃったようじゃ」
……
「じゃが、この激し過ぎる二人の仲も、男の卒業とともに終わってしまうのじゃがな」
⁉︎
「そのあと、身体が寂しいオナゴは男漁りにハマりおったのじゃ」
‼︎
「そのオナゴは、色々な男を食べ尽くす魔性の女へとなる運命なのじゃよ」
どうして分かる? なんでそんな事、言えるんだよぉ!
好きだった女の子が馬鹿にされた感じが凄く嫌で、俺は老人を睨みつける格好になった。
老人は胸を張って応えた。
「ワシは、神だ」ぴかーん!
名乗った瞬間、背中から眩ゆい光が差した。
ひぇぇ~!
カミ……やはり神なのか。
背中の光は後光というヤツか?
俺はなぜか負けた気分になった。
「なにせ、あのオナゴはのちに世界三大悪女に匹敵する存在になるのじゃからの」
なんてこったい、世界三大悪女に匹敵って!
確か、西太后やマリー・アントワネットなんかの名前が挙がるけど、正確には決まった訳ではないはず。
なんか凄過ぎる話だ、今度からは世界四大悪女になるのか。
彼女はそこまで凄い悪女になるらしい。
「そのあとのオヌシにも関係あるのじゃ」
ナニ?
「オヌシが生きておったらの、またそのオナゴと会ってしまう運命なのじゃ」
ヌぬ!
「大人になって偶然出会ったオヌシは、大いに浮かれるがのぉ」
ネぇよ!
「じゃが、それは罠でな、オナゴの毒牙に掛かったオヌシはお金や仕事をすべて失ってしまうのであった。
ほほっ」
ノぉー‼︎
「それがトラウマとなってオヌシは一生寂しい人生を送る羽目になるのじゃ」
……酷い。
「だからの、そうなる前に天罰を与えようとしたのじゃ」
そうか、良かった……
あれ?
その天罰って雷の事だよな。
でも雷を喰らったのは俺の方だし……
それってどういう事?
天罰で残念になるのは彼女であって、なぜに俺が雷に撃たれて残念な人になるんだ?
意味が分からないんだけど……はて、どうしてなのか?
いくら考えても頭が混乱するばかりだ……
ダメだダメだ! 冷静になるって決めたじゃないか!
ちゃんとした理由があるはずだ!
そうだよ、神なんだから訳もなくこんな事するはずがない!
とにかく落ち着け、混乱してはなにも理解できないぞ!
俺は混乱する感情を理性で無理矢理抑え付けて、神からの返答を待った。
「すまん」
?
「間違えちゃった」
??
「オヌシとあのオナゴを間違えて天罰を下してしもたわ」
大混乱だぁぁ‼︎
はぁはぁはぁ!
身体がないのにも関わらず、呼吸が乱れているのが分かる。
頭に血が昇り、顔が熱くなって全身が震えているのも分かる。
「天空から落とすのだから、たまぁに、外すのよのぅ」
き、貴様ぁぁ‼︎
今、怒りが頂点に達した。
今までの人生で、ここまで怒った事はない。
もう怒りが沸点まで沸き上がって、自分では制御できないレベルまで達した。
しかも相手が神! いや、自称、神だ! こんなヤツ、神でもなんでもない!
なんと呼んでやろうか。
「ワシは、神じゃ」ぴかりーん!
く~、眩しい! そして悔しい~!
コッチの考えが、そのまま伝わるのが悔しい。
凄くイヤだ!
なぜ、この老人を神と認めたくなかったか、今わかった。
こんな理不尽な死に方が神の仕業とは思えなかったからだ。
……
戻せ……この身体を治して元の世界に戻せよぉ!
神なら出来るだろ!
「もう、無理じゃて」
俺がなにしたってんだ! なんでこんな目に遭うんだよぅ!
貴様は何様のつもりでこんな事をしたんだよぉ!
「ワシは、神様じゃ」ぴかぴかぁ!
うおぉぉ! 眩しい!
か、神様って言った方が神様なんだからね!
ああぁぁ! 頭がおかしくなったぁ!
自分がなにを言っているのか分からなくなった。
完全に自分の脳の回路がショートしたのだ。
俺のヤル気スイッチがOFFになった気分だ。
俺は感情をなくし、ただボーッとたたずむだけの存在となった。
「良い事もあったのじゃ」
俺はショートしたため素直に神の言葉を聞いた。
「オヌシが死んだ事がトラウマとなって、あのオナゴは男漁りを控えるのじゃからの」
……
「良かったのぉ」
どうでもいい……
僅かだが、なにか良い話を期待して聞いていたが死んだ自分にとっては大した事ではない。
ホント俺……どうでもいい……
どうにもならない現実に俺は完全に真っ白になってしまった。
むしろ、真っ白になって消えたい。
「ふむ。
オヌシには幾つかの選択があるのじゃが、聞く気はあるかの?」
……
俺は素直に聞いた。
もう自分にはそれしか出来ない。
このなにもない空間で、なにもない自分に……いったい、ほかになにが出来るんだ。
「ひとつは、このままこの場所に居残るかじゃ。
まあ、住めば都というやつじゃ」
絶対嫌だ。
「ほほっ。
もうひとつは元の世界で、イチから新しい人生をやり直すというものじゃ」
新しい人生?
「別の人間として赤子から始めるという事じゃ」
生まれ変わり?
「そうじゃのぉ。
本来なら雄の中に転生して、雌の中で厳しい生存競争のうえで勝ち残った者が生者として世に出るのじゃが」
受精?
「じゃが、オヌシの場合はじゃ。
特別待遇として既に合格したものとみなして、生を受けさせてやろう」
特別待遇?
「俗に言う裏口何とかと言うやつじゃの」
裏口入学? なんか卑怯な事をしているみたいで嫌だな。
「その代わり、今までの記憶はすべてなくなるのじゃが」
……新しい人生か……今の俺、結構好きなんだけどなぁ。
「そして最後のひとつ、いわゆる異世界転生というやつじゃ」
俺は不覚にも目を輝かせてしまった。
異世界転生……なんて甘美な響きなんだろう。
「剣と魔法の世界じゃ」
ふぁ、ファンタジー!
「モンスター退治じゃ」
夢と冒険の世界へ!
「今の記憶も、そのままじゃ」
なろう系の実現!
「今なら最強の冒険者のひとりとして転生出来るぞよ」
……
俺は小学、中学とサッカー少年だった、と同時に深夜アニメ大好き少年でもあった。
俺は高校に入り『プログラム開発部』なるものを知った。
部の設立当初は、世界に名だたるメーカーに並ぶOSを開発するという途方もない目標を立てていたが、まあ、無理なのは当たり前だ。
そのあとはゲームの開発がメインになった。
ゲームといってもゲーム機本体の開発製造ではなく、ソフト、プログラムの方である。
そしてその部室にはゲームやアニメ、マンガ、ラノベ、それからフィギュアなどが資料として保管しており、部員なら手に取る事が出来た。
それを知った俺はすぐに入部した。
案の定、部員はオタクで男子だけだった。
全員オタクレベルは高かったが、部員からは俺もハイレベルだと言われた。
俺は話が通じる仲間が欲しかったのだ。
しかし部活動はやらなければならない。
去年の目標は超本格的ロールプレイングゲーム(※以降 RPG)の製作であった。
最初は斬新なゲームシステムを考えていたが所詮は無理で、リアルな時代背景のストーリーゲームを作る事となった。
俺の仕事は様々な時代の風習や出来事、つまりウンチクを集めて調べる事だった。
図書館やネットで集めまくるのは大変だったが、楽しくはあった。
それで今年になって完成したゲームには俺のウンチクはほとんど使われなかった。
だが、凄いゲームが出来上がった。
ゲーム内の行動のひとつひとつがのちに課金に繋がるという酷いゲームだ。
ただ、ゲームの配信、販売は中止させられた。
当たり前だ。
俺のウンチクはほとんど使われなかったが、調べて良かったと思っている。
なぜならこの知識でオタクからマニアにクラスチェンジした気がしたからだ。
自分の中ではマニアの方が聞こえが上だからだ。
とにかくアニメを見る知識が上がった気がした。
特に異世界モノにはうるさくなった。
「どうするのじゃ。
ここに残ってワシと一緒に過ごすのが、よさそうじゃな」
異世界に転生する! 俺は即答で答えた。
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