第16話 授与式⑧ ~未開の天賦~


【…に縛られ…野生…】


「ん?なんて書いてあるのかわかんないんだけど、これってどんなゲインなんだ?」

リオラは自分の頭の上に浮かぶ文字を見るが読めず神父に尋ねる。


「こ、これはまさか…【未開アンチャーテッド天賦・ゲイン】…。」

訊かれた神父にクレモンテはその途切れた文字を見て固まってしまった。


「あれって鑑定ミスじゃないのか?」

「未開の天賦ってなんだ?」


見ていた貴族たちもよくわからず混乱が広がる。


「ガッハハ、どんなゲインかと思ったらまさか未開とは。これは面白いものを見せてもらったわい!」

ディオメデスは愉快愉快と膝を叩きながら笑う。


『…えーっと、これで今年度の授与式は終了となりますので、えーみなさま、お疲れ様でした。』

司会が強制的に終わりを告げ、よく理解できていない参加者も少しずつ帰り支度を始める。


「ちょ、ちょっと待てよ!俺のゲインは結局何だったんだよ!」

リオラはクレモンテに詰め寄る。


「…式は終わったのだ。帰ってくれ。」

クレモンテは目も合わせずリオラに背を向ける。


「んなっ!説明ぐらいしろ―」


「リオラ、説明なら僕がするから!」

クレモンテの服を掴むリオラをルークが止める。


「あ、ルーク!なぁ俺のゲインはなんで読めなかったんだ?それにアンチャーなんちゃらって」


「うーん…これは僕も聞いたことがあるってだけなんだけど…未知の天賦は過去に一度も鑑定されたことがないゲインのことだと思う。」


「過去に一度も…。ん?じゃあ俺はどうやって自分のゲインを知ればいいんだ?鑑定できるゲインも最初は全部鑑定されたことないゲインだったんだろ?それはどうやってわかるようになったんだ?」

リオラは次から次に浮かぶ疑問をそのまま口にする。


「い、いや僕もよく知らないんだ。昔読んだ本に書いてあったくらいで…」


「そっか、じゃやっぱりあんたに聞くしかないんだな!」

そういうとリオラは神父クレモンテに説明を求めようとする。


「わ、わしも知らん!」

しかしクレモンテは知らないの一点張りだ。


「うそつけ!」


「ちょ、リオラ落ち着いて!」

リオラが詰め寄ろうとするのをルークが必死に止めようとする。


「―元気なのはいいが暴力は良くないぞ、坊主。ガハハハッ、まぁそこのダメダメ神父を殴りたくなる気持ちはわかるがな。」

でかい声で笑いながらディオメデスが近づいてくる。

その隣には秘書らしき女性も付き添う。


「いくら帝国騎士団長と言えど、ギルドのやり方に口出す権利はないはずだ!」


「あぁ、俺も別にお主たちのやり方にケチをつける気などない。ただこの坊主には自分のゲインについて知る権利くらいはあるだろう?」


「くっ…」

ディオメデスの正論にクレモンテは言い返すことができず唇をかむ。


「おっさんはアンチャーなんちゃらについて何か知ってるのか?」


「あぁ、実際に見たのは今回で3回目だがな。定義に関してはそこのスタール家の坊主が言っていったので合っている。それを詳しく説明すると―」

ディオメデスはリオラ達に説明を始めた。


未開アンチャーテッド天賦・ゲイン


・過去に一度も鑑定されたことのないゲイン


・【神託オラークル】では一部しか鑑定できず、上位魔法【天啓レボレーション】などで鑑定を行うしかない


・一度鑑定が成功すると今後は【神託】でも鑑定が可能になる


「って感じだな!」


「なるほど…。じゃあその上位魔法で見てもらえばいいのか!」

説明を受け、リオラは期待を込めた目でクレモンテを見る。


「ふんっ!だれが平民なんぞに時間を割いてやるか!わしもそれほど暇じゃないわ」


「ガハハハッ、『時間がない』のではなくお主には『できない』のだろ?」


「できない?その魔法使えないのか!?」

ガハハハッと大笑いするディオメデスを「余計なことを」といった表情で睨むクレモンテ。


「じゃあできる人間を紹介してくれよ!」


「無理だ。【天啓】を使えるのは聖職者ギルドでも一部の幹部とギルド長のソロ様だけだ。その方たちはただの平民に魔法を使ってやるほど暇じゃない。」

そう告げクレモンテはその場を立ち去る。


「そんなぁ」

リオラは肩を落とし落ち込む。


「ま、まぁリオラ。別にゲインがわからなくても…ね?」


「でもゲインがわからないと俺にどんな才能があるかわからないんだろ?」


「うん…。でもほら!【野生】が関係するってのは分かったし!それにゲインなんておまけみたいなものだよ!」

ルークがリオラを励ましている


「いえ、ゲインがわからなければ平民はギルドなどに登録することはおろか、一般的な店などで採用されることもほぼ不可能ですね。」

その空気に水を差したのはディオメデスの隣にいた秘書の女だ。


「ちょ、ちょっとそんなはっきりと…。」


「ってことは…もしかして俺ってこの先ずっと無職?」

リオラの問いかけにルークは目をそらす。


「ねぇちゃんに殺される」


「―いや、ゲインがわかる方法が1つだけあるぞ?」

頭を抱えるリオラにディオメデスは笑みを浮かべそう告げた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る