第6話 『灼熱の戦乙女(ヴァルキュリア)のアナリス』


「図体はでかい割によく飛んだな。体幹がもろすぎる。」

「…そういう問題じゃねぇだろ。てか、あんた何者だ?」

リオラは壁に激突したデボを見つめていたが、自分が安全な状況ではないことを思い出し警戒をする。


「知らぬ者に警戒をするのは立派なことだが、まずは助けてやったお礼を忘れていないか、坊や?」

そう言いながらローブから顔を出すと、そこには燃えるような真紅の髪をした綺麗な女性の顔が現れる。


「女!?あんた女だったのか!」


ゴツンッ


鈍い音が路地裏に響く。


「痛ってぇ!いきなし何すんだ!」

「命の恩人に対する態度がなってない。『女』ではなく『女性』だ。」


リオラは殴られた頭を撫でながらその女を涙目で睨む。


「うるせぇ!さっきから俺を助けたみたいな言い方してるけど、別にあんたがいなくたって俺が勝ってたさ!」

「ふん!どの口がいう。さっきのあいつの一撃が当たってたら間違いなく今頃お前はあの世へいってたさ。それにあんな下手くそな『緩歩』に惑わされているようじゃその辺の酔っぱらいにだって勝てん。」

睨むリオラなどまるで気にせず女はきつい言葉を浴びせる。


「緩歩ってなんだよ!」

「はっ!緩歩も知らんで戦っていたなんて。礼儀のなっとらんガキに教えてやる義理はない。」

「くそぉーバカにしやがって!とにかく俺の戦いの邪魔すんな!」

イラつくリオラだが、女の方は全く気にしていない。


「こんなガキ相手にしても時間の無駄だ。さっさとあいつを連行してしまうか。」

女は倒れているデボに近づき、座らせ背中に膝を入れる。


「うがっ!」

「ほら早く立て。この後にも仕事が控えているんだ。」

「てめぇ俺様が誰かわかってこんなこと…」

「野党ギルドのデボとチャケスだろ?お前たちを捕まえるためにここに来た。」

「なっ!?」

女の口から自分の名前が出たことにデボは驚きを隠せない。


「お、お前はどこのギルドだ!?」

「残念だが私はギルドには所属していない。お前をこれから連れて行くのは騎士団の本部だ。」

「騎士団だと…」

デボの顔がみるみるうちに青ざめていく。


「ま、まさか…女の騎士団でその真っ赤な髪…『灼熱の戦乙女(ヴァルキュリア)のアナリス』!?なんでそんな大物が俺なんかを…」


「偶然だ。」

デボの問いに興味がなさそうに答えるアナリス。


「ほら、もういいだろ。さっさと歩け。」

「くそ、ツイてなさすぎる。」

アナリスはいまだに気絶しているチャケスを肩に担ぎ、デボと路地裏を出ようとする。


と、そのとき


「ちょっと待てよ!まだ俺は負けちゃいねぇ!」

リオラが後ろから呼び止める。


「…お前まだいたのか。先ほども言ったがこいつらはこのまま騎士団まで連行する。」

アナリスはリオラを一瞥し、冷たくそう告げ再び歩き出そうとする。



《……俺の獲物を横取りすんじゃねぇ》



ゾクッ



アナリスは背中から寒気を感じ、振り返りリオラを見る。

しかしリオラは変わらずこっちを睨んでいるだけだ。


(私が恐怖(プレッシャー)を感じた…だと?なんだ今の悪寒は…。)


デボは固まるアナリスを不思議そうに見ている。


「…まぁいいだろう。確かに先に戦っていたのは貴様だ。勝手にしろ。」

アナリスはデボとチャケスを解放し、少し離れたところに立ち腕を組む。


(どうせさっきの様子だと決着はすぐにつくだろう。)


「よっしゃー、次こそやってやる!」

「はぁー、一体何がどうなってんだよ。…まぁいいか。監獄に入っちゃえば人を殴れなくなるんだし最後に思う存分殴るか。」


二人は間合いを取りつつ戦闘態勢に入る。


「あ、ちょっとタンマ。おいクロン、危ないからあの女の方にでも行っててくれ。」

「キュィィ…」

ずっとリオラの服の中に隠れていたクロンは心配そうな声を出しながらアナリスの方へ走る。


「なっ、なんなのだ、これは!こんな可愛いやつを隠しながら戦っていたとは…。よしよし怖かったな。」

アナリスは走ってきたクロンを抱きしめる。


「キュイィィ」

クロンは嫌がり暴れるがアナリスはその豊満な胸の谷間で逃がさない。


「…なんかごめんな、クロン」

リオラはクロンに同情しつつ、戦いに集中する。


「はぁー、そんなにやる気出してもなんか変わんねぇのになぁ。てかあの女、どんだけ力強いんだよ。デコピンで吹っ飛ばされたのは初めてだったな」

デボは先ほどと同様ゆったりと歩きリオラに近づき始める。



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