ソーシャルディスタンス
娘のファニーが、
インターナショナルスクールに
通いはじめて間も無く
それは唐突にやって来た。
いや突然ではなかったのだが、
みな誰もがここまで酷いことになるとは
考えてもみなかったのだ。
新型のウィルスが世界中で大流行し、
感染者と死亡者が多数出た。
ここ日本でも、外出の際には
常にマスクをすることを求められ、
こまめなうがいと手洗いが、
他者との距離を一定以上取る
ソーシャルディスタンスが推奨される。
私のようなもともと
他者と一定以上の距離を保ち、
接触することに極度に抵抗がある
そんな人間からすれば
まったく問題が無いようなことであったが
それにストレスを感じる人達も多い。
特に子供にとっては
我慢出来ないような生活が続く。
娘の学校は休止となって、
しばらくの間、再開する予定はない。
活発的な子であるファニーは
せっかく出来たばかりの
学校の友達にも会えず
外で遊ぶことすら出来ずに
ストレスを溜め込んでいるようだ。
可哀想ではあるが
こればかりは仕方がない。
みんなでちょっとずつ我慢すれば、
全体は最小限の被害で済むのだから。
そして、
ファニーが直面した最大の問題は、
マスクに他ならない。
帽子ですら窮屈だと感じて、
すぐに脱いでしまうような子なのだ。
黙っておとなしく
マスクを着けていられる筈がない。
「お嬢様っ!
マスクを着けないのなら、
お散歩には行けませんからねっ!」
ファニーにマスクを着けさせようと
ジルはいつも必死だった。
それでも彼女は
なかなか着けようとはしない。
明らかにこの子は気が強い。
-
いくらソーシャルディスタンスで
密接がダメだと言われても
子供が居る家族でそれは無理というもの。
まぁ、そこには私は
含まれてはいないのだが。
ストレスの反動なのか、
ファニーはジルにすぐに抱き着く。
ジルもまたすぐに抱きしめ返し、
二人は満面の笑みを浮かべている。
――そこでやっと気づく
今まで何故気づかなかったのか
不思議な程、単純なことに……
娘のファニーは
いつものあの不機嫌そうな顔を
ジルに本人には決して向けない。
やはり私はあの子に
あまりよく思われていないということか
それともジルは母親のような存在で
彼女だけは特別ということなのか……
養女であるファニーに、
私の偽善は見抜いているのではないか?
私は何故かそんな気がしてならなかった……。
-
じゃれ合う二人を見つめながら
そんなことを考えていたら、
ジルが思い出したかのように
いきなり私に尋ねて来た。
「前々から気になっていたのですが、
この家には、地下室があるのですね?」
地下室と言われると
なんだか怪しい場所を想起させるが
なんのことはない単なる物置部屋で
大きな荷物がいっぱいなので
今は人が一人入れるぐらいのものだろう。
「お嬢様、
おとなしくしていないと
地下室に閉じ込めちゃいますからねえ」
ジルがそ言って
お化けのポーズを取ると、
ファニーはケラケラ笑って喜んだ。
おいおい、
それは幼児虐待だろう
ジルの言葉に、その時は、
心の中でそんなツッコミを入れたものだが、
まさか本当に
その地下室を使う日が来るとは
思ってもいなかった……。
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