第4話「ライバル登場」
エルーラン王国王都ログレスは、三重の城壁を持っている。
外周は一般市民が住み、二番目の城壁の内側は貴族や富裕層が暮らす。そして、中央は銀嶺城や王族の館がある王国の中枢があり、一般人が理由なく立ち入る事は禁じられている。
アコさんに案内されてやってきたのは、二の廓の富裕層が暮らす区画だった。
バジル:なあ、アコさん。本当にこっちで良いのか? でかいお屋敷ばっかりだけど?
GM:「えっ? ひょっとしてバジルさん、知らなかったんですか?」
レオン:と言いますと?
GM:「私の父、ヤン・ベルモンはこの国の財務官僚で伯爵位ですよ?」
レイ:なんと!
面食らうバジルだが、確かに銃士たちの多くは、アコさんに親しみを感じつつも一線を引いてる印象があった。
まさか、日ごろからアコさんアコさんと呼んでいた同僚が、まさか伯爵令嬢とは。
バジル:ええと、なんか、色々すまん。
冷や汗を浮かべながら頭を下げるバジルに、アコさんはクスリと笑う。
GM:「良いんですよ。前からもしかしたら知らないのかもって思ってましたし、別に嫌じゃなかったので」
バジル:そっ、そうか。
レオン:良かったですね隊長。
◆◆◆◆◆
邸宅の豪華さに気後れしつつ、伯爵の執務室に向かう。
これまた豪奢な扉を前に、すっと息を吸って気合いを入れた時、中から出てきたのは、赤枝の騎士だった。
長身で細身だが、無駄をそぎ落とした刀剣のように張り詰めた雰囲気がある。
俳優のような容姿には、ここが社交の場なら黄色い声のひとつも上がるかもしれない。
騎士はアコさんに黙礼し、バジルたちに視線を送る。
それから、ため息を吐いた。
「これはこれはアプリコット嬢。ご機嫌麗しゅう。ですが、友達は選んだ方がいい。劣った人間を取り巻きにしていると、ご自身も同じレベルに落ちますぞ」
アコさんは仲間を馬鹿にされて、むっとした表情になる。
そして、淑女の体裁をかなぐり捨てて、言い放った。
「それはそれはご丁寧に。どうせ私は養女です。あなたもそんな下賎な女などに付きまとわずに。お上品な宮廷の皆様を追い掛け回したらいかがかしら」
バジルら銃士3人は、内心で感嘆の声をあげたが、騎士は全く動じる様子がない。
「私もそうしたいのですがね。能力がある人間は使い倒すのが信条なので。あなたはそんなところに遊んでいていい人間ではいはずだ。底辺に留まっていたばかりに、救えるものが救えなくなって泣くのはあなたですよ」
「……私がいるのは底辺ではありません。すぐにあなたを追い越して見せますよ」
アコさんの切り返しに、騎士は一瞬きょとんとするが、直ぐに豪快に笑い、その場を辞する。
バジル:なんだ、いけ好かない野郎だったな。誰だあいつは?
GM:「赤枝の騎士団のヴァレリーさんです。お父様は彼と私を一緒にさせたいようですけど。……ごめんなさい。関係無い話でしたね」
バジル:いや、とっても気になるんだけど(笑)。と言うかヴァレリーって、前回名前だけ出てきた切れ者の隊長だよな? あんな嫌な奴だったのか。
レオン:それよりもアコさん爆弾発言してなかったか?
バジル:?
GM:いや、拾いましょうよ今のは。バジルが真っ先に気付いてあげないと。
バジル:はて?
レオン:まあ……まあいいや。多分お父さんに会えば分かる筈(苦笑)
GM:部屋に入ると不機嫌そうなベルモン伯爵が座っています。
レオン:因みにベルモン伯爵の種族は?
GM:ヒューリンです。
バジル:ふむ。背格好とかは?
GM:(虚を突かれて)え? ああ。40過ぎの痩せ型の男性ですね。
レオン:(思わず素に戻って)いやそうじゃなくて! 君、ここに来ても分からないのか?
GM:(同様に)しっかりしろバジル! 今日は君が活躍しないといけないのに!
レオン:アコさんの種族は?
バジル:ヴァーナの兎族ですけど?
GM:ではベルモン伯爵は?
バジル:ヒューリン……混血なのか!
GM・レオン:(ダブルで)ちがーう!!
レイ:混血じゃなかったら?
バジル:そうか、養女ってことか。
GM:よ、ようやく伝わったか。頼みますよ、もう!
バジル:いや、申しわけない(汗)
ベルモン伯爵は皆さんをじろりと一瞥しアコさんに苦言した。
「何のつもりだリコ。銃士など家に上げて」
「勝手に話を進めたことはお詫びします。でも彼らは私の仲間です。仲間を頼るのは当然の事です」
言い返すアコさんに、ベルモン伯爵は頭に手を当てた。
「だから私は言ったのだ。銃士隊などより赤枝の騎士団に入るべきだと……」
バジル:うーん、何だかとても間に入りにくい雰囲気。
GM:暫くにらみ合いが続きますが、やがてベルモン伯爵はため息をつくと言います。「それで、君達も愚息をかばい立てするのかね?」
バジル:初めまして。銃士隊のバジルと言う者です。こちらはレイとレオン。私の隊の者です。アコ……じゃない、ええと。
GM:(素に戻って)しっかりしろ! アプリコットって、君(プレイヤー)が考えた名前じゃないか!
バジル:いや、何だか違和感が(笑)
レオン:(同じく素に戻って)違和感とか言うな(笑)
バジル:ごほん。アプリコットさんからお話は聞きました。彼女の様子が見るに見られなかったので、志願して調査させて頂きに伺いました。
GM:ベルモン伯爵はもう一度ため息をつくと言います。「二度同じ話をするのは面倒だが仕方ない」
盗まれたのは、エル8世時代に下賜されたと言う、ベルモン家代々の家宝のネックレスの鎖部分だと言う。宝石こそ無事だったが、鎖は当時エル8世お抱えの名工が手掛けており、宝石部分よりも価値があると言う。
昨日の深夜2時、物音がしたので何事かと思い駆けつけると部屋の金庫が破られ、屋敷の周囲を探させると首飾りの宝石部分だけを手にしたアコさんの弟、ジョエルが立っていた。
GM:「私はジョエルの素行の悪さも知っている。鎖はおそらく共犯者に渡してしまったんだろう。信じてやりたいが、今回の事で堪忍袋の緒が切れた。奴を赤枝の騎士団へ突き出そうと思う」
バジル:でもまだ鎖は出てきてないんでしょう?
GM:「それはそうだが、もうどこかに売り払ってしまったのではないかね?」
バジル:それは確実に言える事ですか?
GM:「確実と言う事ではないが……」
バジル:鎖のありかが分かってからでも遅くは無いのでは?
GM:「ヴァレリー君にも同じ事を言われた。しかし、いくら調べてもジョエルがやったという事実が動かなかった場合。私の決意は揺るがないからそのつもりでいたまえ」
バジル:それは私達がどうこう言える話ではありません。ただ、事件の真相と鎖のありかは私達が突き止めてみせます。
GM:「好きにしたまえ」
レオン:しかし、伯爵家の体面を考えるに事を荒立てるのは賢明では無いのでは?
GM:「私もそう思って何度も胸の中にとどめてきた。しかし、我が家代々の家宝が盗まれていたとあっては、そうもいくまい」
レオン:つまり逆に言えば、鎖を無事取り戻す事が出来れば内々に処理する事も可能であると言う事ですね?
GM:「まあ、確かにそういうことではあるが……」
レオン:今回バジルと私共がご令嬢に協力させて頂こうと思ったのにも、そういう腹もあります。我々がうまく立ち回って事を穏便に済ませられれば、それは御家にとっても望ましい話なのではないかと思いますが?
GM:「私もできる事なら息子を信じてやりたい。君達がそれを証明できると言うのであれば証明してくれ」
バジル:全力を尽くします。現場を見せてもらっても宜しいですか?
GM:「ああ、それから愚息は今部屋に軟禁している。話を聞くなら自由にしたまえ」
レオン:屋敷内を調べたりする許可を頂けますか?
GM:「それは構わない」
ベルモン伯爵は、部屋に飾られた肖像画を懐かし気に見上げた。
伯爵自身と、子供ふたりが食卓を囲む、家族団らんの絵だった。
絵を眺める表情から、彼のジョエルへの対応が、決して貴族の体裁だけを考えてのものでないことが伝わってきた。
それだけに、この家に何があったか気になりはする。
バジル:では、私達は捜査にかからせて頂きます。
GM:「好きにしたまえ」どうやらあまり期待はされてないみたいですね。
レオン:まあ、現状我々の評価なんてそんなものでしょう。
GM:ここから探索フェイズになります。あまりもたもたするとライバルに全て持っていかれますので気をつけて下さい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます