1:出会い(2)
男の顔を一筋の血が伝う。それでも男は、ピクリとも表情を変える事はなかった。
「あいつ、ナイフを顔面で受けやがったブヒ!?」
下っ端のオークは驚きを隠せない様子だ。
「うろたえるなブヒ!それはただの強がりブヒ!奴がお前の斬撃を避けれなかっただけだブヒィ!!」
リーダーの言葉を受け、下っ端は男に攻撃を続ける。
「ブヒブヒブヒブヒィィ!死ねや!ブヒッ!」
男の全身の切り傷から血が吹き出している。だが、倒れることもないし、ましてや苦悶の表情を微塵も見せない。そして、驚いた事に彼は一切の反撃を行わなっていない。
そうしていると、先にオークの方に疲弊の色が見られるようになり、遂に攻撃の手を休めた。
「くそッ!なんで…なんで倒れないブヒ!?お前は何者なんでブヒッ!?」
すると男がほくそ笑む。
「何者…か。そうだな、あえて言うならば“勇者”なんてどうだ?」
「えっ…あなた、勇者様だったの!?」
“勇者”、話は聞いたことはあるが、まさか本当に存在しているとは。しかし、目の前の光景がその勇者の力の片鱗だとすれば合点がいく。
「まぁそんなとこかな。だから勇者の端くれらしくアンタを助ける事にしたのさ。アンタはそこで見ていてくれればいい。」
全身血まみれだが、彼が勇者だとすればその言葉にも説得力が生まれる。
「リーダー…どうするブヒ…?」
心配そうな下っ端達。それに比べ、リーダーは先程よりも幾分か余裕を取り戻しているように見える。
「いや…攻撃だ。攻撃を続けるんだブヒ!」
「で、でもリーダーァ…!」
「忘れたブヒか?そいつの持ってるスキルは1つだけ。身体パラメータも貧弱ときたブヒ。そんな奴が勇者ぁ?そんな訳ないだろブヒィ!?」
私も下っ端のオーク達もハッとする。彼が勇者だと言う根拠は無いに等しく、ハッタリの可能性もある。更にはあの余裕すらも…。
「お前等、あんまり俺を舐め過ぎじゃないか?」
痺れを切らしたのか、男が口を開く。
「勇者が皆んな屈強で、多才で、陽気で、元気で、フレンドリーで、健全で、彼女持ちだと思うなよ!!」
「いや、後半は多分お前の自虐だブヒ!?」
「もうお前ら許さねぇ。よってたかって陰キャをいじめやがって!揃って俺のスキルの餌食になってもらう!決まりだ!決定事項!!」
「会話をする気は無いブヒ!?」
「そう言う事で、アンタ!」
男は私を指差してこう言った。
「おっぱい触らせて下さい!!」
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