童貞勇者と淫魔なカノジョ 〜ユニークスキル《童貞特権》により、性的興奮で身体強化&レベルUPする勇者〜
シメサバ太郎
1:出会い(1)
「た…頼む…。1回、1回だけだ…。胸を触らせてくれ!」
その“自称勇者”は血まみれの顔を、ゆっくりと私の胸部に近づけた。
「いやっ、ダメですよ!」
パチンッ
(あ……。)
反射的に彼の顔面を手で叩いてしまった。慌てて彼の顔に目をやると、長髪から鋭い切れ長の目が私を睨んでいた。完全に怒らせてしまったようだ。彼はおもむろに、鞘に納められた剣に手をかけた。
「ごっごめんなさぃぃぃ!!別にわざとではなくて…。」
そんな私の弁明も虚しく、彼は睨みを利かせながら、剣を構えた。
そしてーーーーーーーーーーーー
人間と魔族との大戦が終結して、早15年。人間と魔族は今では領地を共有して生活し、友好的な関係を築くに至った。その先駆けとなったのがここ、『連合国家ユグドリス』だ。大戦終結直後、人類軍、魔族軍の有志の提案により建国されたのだとか。そのような事もあり、治安も良好なので、国外からの旅行者や移住者が多いそうだ。
そして何を隠そうこの私、アシュナ=ムーンルイスもこの国へ移住者だ。でも、私は別に望んで移住をする訳じゃない。ある目的の為である。
その目的とは、端的に言えば“花婿探し”だ。
しかし、これにも訳がある。私は代々続くサキュバス、いわゆる淫魔の一族の生まれで、一族の掟として一人前のサキュバスとして認められるために、15歳になると必ず自分の子供を成さなくてはならない。
ここで、一つの問題が発生する。
私達一族が住む『誘惑の森』には男性がいないのだ。
先の大戦により、淫魔族の男は全て戦死してしまい、現在淫魔族は女性しかいない。よって、大戦終結後に生まれた私は、生涯で1度も異性とコンタクトを取ったことがない。
サキュバスにとって、これは致命的である。
このままでは、一人前のサキュバスにはなれないと見かねた私の家族により、半強制的に私のこの国への移住が決まった。
馬車を手配し、遥々『連合国家ユグドリス』に先刻たどり着いたのだ。
それにしてもーー
(人が沢山…。男の人もいっぱいいる…。どうにかして話しかけないときっかけすら作れないですね…。)
私が人混みの中でたじろいでいると、急に手を引かれ裏路地に引き込まれた。
(な、何ですか!?)
ドサッ
尻もちをついてその場に座り込んだ私の眼前には、3人の屈強なオーク達が立っていた。
「ブヒヒヒ!やっぱり狙うならこういう移住したての芋っぽい女が1番ブヒねぇ。」
「やっぱリーダーは天才ブヒ!最高ブヒ!」
「まぁ、俺のスキル《鑑識眼:強》にかかればこんなもんブヒ!!」
急な事で理解が追いつかないが、少なくとも彼らは善良な国民ではないようだ。
(入国早々にこんな悪漢に目をつけられるなんて…。)
いくら治安の良い国とはいえ、この国にもこういったはぐれ者達はいるのだろう。それに加えてたちが悪いのは、どうやらこのオーク達の内1人はスキルを持っているようだった。
スキルと言うものは大別すると主に2つ種類がある。
1つ目は先天的に備わっているスキル、【ギフトスキル】。これらは主に遺伝性のものであり、その種族特有のものである事が多い。極稀にだが、出生時に神からの加護をギフトスキルとして授かる者もいるという。
2つ目は後天的に取得することのできるスキルである、【エフォートスキル】。前述のギフトスキルと比べ、修行や魔術による付与等、取得方法は多岐にわたる。しかしスキルの効力や精度はギフトスキルに劣ってしまう。
このオークの場合持っているスキルは、《鑑識眼:強》。《鑑識眼》自体は取得が容易なエフォートスキルだが、《鑑識眼:強》となると、かなりの鍛錬が必要になる。
つまり下っ端2人に比べ、このオークはかなりの手練れであることは想像に難くない。
(私が勝てる相手じゃない…。どうにかして逃げなきゃ。)
しかし、相手は3人。そんな隙は見つかるはずもなく、
オーク達は私を担ぎ込み裏路地のさらに奥へと歩きだした。
「この女、一見人間の女みたいだけど、俺の《鑑識眼:強》によれば、あのサキュバスの一族だブヒ!」
「まじすかブヒ!なんて上玉なんでブヒか!これは高値で売り飛ばせるブヒね。」
(このオーク達、私を売り飛ばす気!?)
血の気がひいていくのがわかった。慌てて体をバタバタさせ、大声で助けを呼ぶ。
「誰かー!助けてくださーい!!誰かー!」
「ブヒィ!?この女、助け呼び始めたブヒ!」
「うろたえるんじゃねぇブヒッ!迅速な行動を心がけるんだブヒ!」
オーク達は歩みを速め、どんどん奥に進んでいく。
「だっ、誰かぁー!!」
私は叫び続けたが、もう表の通りには声は届かない距離になってしまった。
(もう…ダメかも…。)
助けを呼ぶのを諦めてしまおう。そう思ったその時、
「リッ、リーダー!後方から凄い速さで誰かが追って来ているブヒよ!?」
(え?)
「何ぃぃ!?何者ブヒか!?」
私の叫び声が聞こえたのだろうか、全身黒ずくめの男がとてつもないスピードでこちらに向かって来ている。
「仕方ねぇブヒ!交戦も止む無しブヒ!」
オーク達は歩みを止め、下っ端の1人が懐からナイフを取り出して臨戦態勢に入った。それに合わせて、黒ずくめの男も立ち止まる。一触即発の雰囲気が漂う。するとオーク達のリーダーが急に笑いだした。
「ブヒヒヒ、プギ、ブヒヒィ!お前!ちょっと走りが速いからって少しビビったブヒが、俺のスキルでお前の情報は筒抜けブヒ!」
(ど、どういう事!?)
「俺のスキル《鑑識眼:強》は、強制的に相手のパラメータ、さらに諸々の生態情報を知る事ができるブヒ。どうやらお前、身体能力は貧弱。さらにスキルは1つしか持っていないブヒね!いったいどんなスキルブヒかねぇー?」
オーク達の笑い声を遮るかのように、今まで無口だった男が口を開いた。
「ほぅ。お前、なかなか良いスキルを持っているんだな。俺と違って。」
今、男は“俺と違って”と言った。それはつまり、その男のスキルは、あまり役に立つスキルではないという事だろうか。
「やっぱり役に立たないゴミスキルなんでブヒね!ならば楽勝ブヒ。やっちまうブヒ!」
下っ端の1人が襲いかかる。だが男はどこか余裕そうな表情をしている。
(なるほど、実は凄い実力の持ち主なんですね!)
「余裕ぶって、ムカつくブヒ!死ねブヒィ!」
オークが繰り出したナイフでの一撃を、男は余裕綽々の表情でーーー
ーーー綺麗に顔面で受けた。
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