「個威(コイ)」をぶつけ合うカップル未満
明日波ヴェールヌイ
第1話
力は愛情表現になりうる。相手を守る力があればいい。そのために心も体も武装していくのだ。
そんなこの世界で本日、僕、朝日 東雲は手紙で放課後、体育館裏に呼び出された。相手は明智 宵さん。学校内でも割と人気がある方の子だ。黒髪が美しく成績も悪くない。すごく良い子だ。そして僕は彼女が……でも、僕はまだその時ではない。
「お前……良いなぁ……明智さんだぜ?絶対オッケーしろよ?奪っちまうぞ?」
友人たちからはそうやって羨ましがられ、それでも満面の笑みで送り出される。しかし憂鬱だ。僕は嫌な予感しかしていなかった。彼女も絶対同じだろうと思っているからだ。
そして今、体育館裏で待っているところにその美しい髪が風に揺られながら彼女が現れた。カバンを手に下げ、早足でこちらに向かってくる。
「ごめん、私から呼び出しといて……待った?」
「いや、待ってないよ。それで話って?」
形式的な会話から始めたが、少しずつ緊張の糸が張り詰めていく。
「あの、その……ちょっと聞きたいことあって……朝日くんは……」
ゴクリと唾を飲み込む。彼女も緊張しているのか少し落ち着きがない。視線を移動させているし、顔も赤い。それは僕も同じだ。
それでも、今後のことを考えるとここは断るか保留にしておきたいし、そもそも考えすぎであることを期待している。
「好きな人……いる?」
心臓がバクバクいっている。口の中が乾き、手が震える。それでも意を決して一言
「まだ、彼女を作る気はないんだ。だからゴメン」
すると彼女は悲しそうな顔をして、俯き、
「そうなんだね……ゴメン……じゃあ……」
そう言って何かを口籠った。普通は聞き取れないだろう。しかし、それを僕は聞き逃さない、聞かなくても同じだからわかる。そしてハッキリさせるためにも言う
「そうだね、いるよ。明智さんだよ?殺したい人は」
すると彼女は顔をあげた。その口角は少し上がっている。
「奇遇ね、私も。朝日くんを殺したかったんだ」
その瞬間、僕は特殊警棒を抜き、間合いをつめる。
左から右へ、横に振り抜く。
手応えは、ない。
彼女は後ろに下がって間合いを保っていた。そして冷たい目でこちらを見て
「準備してくれてるなんて、ありがたいわね。でも不意打ちはどうかと思うわ」
と、言いながら鞄の中からスタンガンを取り出し、放電させる。
バチチチチッ と電気が流れる音が響く。
間合いはこちらの方が広い。有利だ。
「初めて出会ったときから目障りなのよ。朝日くんは!」
僕の間合いギリギリを攻めつつ彼女は言う
「それは、こっちも同じさ!」
そして一歩、同時に踏み込む。
僕の距離、頭は流石に不味いから肩目掛けて警棒を振り下ろす。
その瞬間、彼女はスタンガンを突き出し、腹部を狙う。
二つの影が繋がった、そして僕らの動きは止まり、放電音だけが響く。
僕の警棒は腕あたりを彼女の腕が止めていて、彼女のスタンガンもまた僕が腕を持って止めている。
「やるなぁ」
「さすがね」
同時に言った次の瞬間、僕らは後ろにステップ、間合いを取り直す。ザザッ、とアスファルトと靴の底が擦れる音が響く。
使い慣れない警棒では流石に負けるかもしれない。でもそれは彼女も同じはずだ。あの感じ、スタンガンは慣れていないのだろう。
「やっぱり目障り」
そう言いながら彼女は鞄から取り出した本業のサバイバルナイフを鞘から抜く。夕陽の光を反射し刀身が淡く輝く。
「ここで消しておきたいね」
使い慣れたダガーナイフを後ろのポケットから抜き、僕は言う。
鞘を同時に投げ、ナイフを向け合う。
「朝日くんが邪魔をしなければ!」
そう言って彼女は突きを放つ、すぐ様右になぎ払い、上へ切り上げる。
ヒュン、ヒュンと空気を着る音が響き、地面を蹴る音が鳴る。
「いっつもいっつも!私の邪魔をして!あんたへの対策しか!考えられなくなったじゃない!」
彼女の攻撃を交わすため後ろに下がる。
そして、少しの隙を与えてしまう。
「責任とりなさいよ!」
そう言って素早い切り下げ。後ろに下がろうとしたものの、下がりきれずにナイフが掠る。
ブラウスは切れ、胸から少しの出血。流石の切れ味だ。
僕は少し下がる。切り口から血が溢れ、制服が少しずつ赤くなっていく。
「黙っていれば……一方的に言ってくれて……」
痛みを堪え、再びナイフを構える。
「明智さんが!僕の迷惑を!考えないからだろ!毎回緊張してるのに!でも、まだ僕にはその強さがないってのに!」
そう言いながら右斜め上へ切り上げ、下に切り下げる、左へとなぎ払う。
普通なら当たるであろう速さの振りも、彼女は素早い動きでかわしていく。
一撃、二撃、的確に振って少しずつ彼女を下がらせ、追い詰める。
そして一瞬、後ろへのステップで彼女がバランスを崩した。
「ふざけるな!」
そう叫んで切り上げる。彼女の体には当たらなかったものの、制服の胸の部分が少し切れて肌が見えていた。
決着がつかない。力が同じぐらいと言うことだ。
呼吸を整え、構える。
相手を凝視、隙を見せればやられる。隙が見えればやれる。そして僕らは同時に踏み込む。そしてナイフを相手の体へと……
再び影は一つになる。
ギリギリと腕に力が籠る。彼女の突きを受け止めるので精一杯だった。
彼女もまた僕の腕を掴み、突きを止めていた。
「冗談でしょっ?朝日みたいに苦労しそうにない人が?」
「何言ってんだ?明智はみんなの人気者だろっ?」
二人同時に力を込める。それでも両者一歩もひかない。脚、腕、胴体。全てを集中させ、ただ目の前の相手を倒すことを考える。
「清純ぶってるのか!?このクソビッチ!」
「何よ!?あなたも同じ穴のムジナでしょ!」
お互いに罵り合い、感情をもぶつけていく。お互い目を逸らさない。逸らした方が負けてしまうからだ。
しばらくの力の拮抗。
しかし、すぐに同じ時に手を離し、ナイフを振る。
それを避け、反撃。
それをまた避ける。
早くて重たい斬撃が二人の間を行き来する。空を切り、刃がぶつかり合う。
「ったく!毎日毎日僕の頭の中は君でいっぱいだよ!」
「私だって!学校まで来てあなたのこと考えたくなんてないよ!」
もう、何を言っているのか考えてはいない。ただ、口に出るものを言う。あとは体の動きのやりとりで十分だ。
二人、生命のやりとりをしながら口論をする。
「今は友達とか言って!すぐ他の男のものになるんだろ!僕の知らない所で僕の知らない奴に恋するんだろ!明智さんなんか!僕の!」
「今はいい人ぶって!どうせ将来は!私じゃないやつとイチャイチャしてるんでしょ!朝日くんなんか!私の!」
そして相手の攻撃を封じるため同時に相手のナイフを持った手を掴み、同時に叫ぶ
「ものにならないんだったら、殺してやる!」
一瞬僕らの動きが止まる。
そして、これまでのセリフをもう一度考える。僕は彼女が好きだが、彼女より弱いうちはダメだと思っていた。でも、彼女より弱くはなかったし、彼女も僕のことが好きで……
顔が物凄く熱くなるのを感じる。
彼女の顔も真っ赤で、耳まで染まっている。お互いにお互いにかける言葉を探している。謝罪?感謝?愛の叫び?どれをまずかけるべきだろうか。
「おおっ!成立した!いや、もうこれはカプっしょ!」
僕の後ろの方から声が聞こえた。慌てて振り返ると、僕の友人が二人と彼女と仲がいい女子達がこちらを見ている。
「しかも手を繋ぎ合ってる!!」
僕たちは視線を自分達の手に戻す。僕の手は彼女の手首を彼女の手は僕の手首を持ったまま。しかし、この状況はどう考えても喧嘩だろう。カランカラン、と何かが落ちる音がした。下に視線を落とすと、そこにはサバイバルとダガー、二本のナイフが落ちていた。
彼女と顔を見合う。彼女の目には涙が浮かんでいて、紅に染まった頬に水筋を作っている。そして、僕の視界もぼやけつつあった。
「おっし!そんじゃあ!」
僕たちを囲んでいる者たちが銃を取り出す。そして三歩下がる。
ある者はスライドを引き、同時に安全装置を外す。
別の者はスライドをひくと、デコッキング。
他にも弾倉に弾を入れている者もいる。
そして僕たちに銃口を一斉に向ける
「二人の幸せを祈って!そのまま逝けぇ!!」
目を衝動的に閉じる。
パァン!ダンッダンッ!ドンッ!バンッ!ダァンッ!
射撃音と閃光が辺りを埋め尽くす。
「まぁ、そのまま逝けばいいのにね、結婚式場」
「いやぁ……末長く尊死させあっとけ!」
「ほんっと。数十年後孫に囲まれながら老衰で死ねばいいわ!」
目を開けると、みんながそう言いながら馬鹿みたいに笑い合ってる。そんなみんなを見ていると彼女にきつく抱きしめられる。
「これから、愛死合うんだから……私だけ見ててよ……」
そんな彼女に僕の口は自然と緩む。
「わかったよ……」
この日から僕の薔薇色?ならぬ朱色の生活が始まった。
「個威(コイ)」をぶつけ合うカップル未満 明日波ヴェールヌイ @Asuha-Berutork
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます